医薬品に異物(発がん性アリ)混入!検出方法や対応方法わかりますか⁉
国試には、その時代背景に合わせた問題が出題されます。既に現場で活躍している薬剤師の方には、「いまの時代に問われている知識や資質」を再確認し、新人薬剤師を採用する会社・店舗の薬剤師の皆さんには、新人薬剤師さんとのコミュニケーションに役立てていただきたいと思います。今回は問204-205について解説します。
問204~205
米国食品医薬品局より、ある医薬品の原薬から微量のN-ニトロソジメチルアミン(NDMA、下図)が検出されたとの発表があった。NDMAは発がん性が報告されており、薬物の原薬に混入したり製造工程で生成される可能性がある。そこで、品質管理に携わっている製薬企業の薬剤師は、ガスクロマトグラフィー/質量分析計(GC/MS)を用いて自社製品中のNDMAの混入を調べることにした。
問204(物理)
この分析に関する記述のうち、誤っているのはどれか。1つ選べ。
- 移動相(キャリヤーガス)として酸素や二酸化炭素が用いられる。
- キャピラリーカラムを用いることが可能である。
- MSにおけるイオン化法として、主に電子イオン化(EI)あるいは化学イオン化(CI)が用いられる。
- MS以外に水素炎イオン化検出器(FID)を用いてNDMAを検出することも可能である。
- GC/MS以外にHPLC/MSを用いることも可能である。
解答
解答 1
問205(実務)
我が国で販売されている製品(錠剤)でもNDMAの混入が確認され、クラスⅠの自主回収が実施された。この情報提供を受けた薬局薬剤師がとるべき行動のうち、適切なのはどれか。2つ選べ。
- 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)のホームページにアクセスし、回収対象のロットや回収理由、危惧される具体的な健康被害などの情報を入手する。
- 当該製品の処方歴がある患者をリストアップする。
- 患者からの問合せがあった場合、健康被害は生じないのでそのまま使用してくださいと伝える。
- 患者の手元にある当該製品は、薬局で他の成分の製品に変更することができると患者に伝える。
- 薬局内の開封済み当該製品は、粉砕して水とともに下水に放流する。
解答
解答 1、2
GC/MSって何ができるの?ガスクロマトグラフィーと質量分析計の特徴を理解しましょう。
問204 解説
クロマトグラフィーと質量分析計を組み合わせることで、化合物の分離と質量分析を同時に行うことが可能である。ガスクロマトグラフィーと質量分析計を組合せたものがGC/MSである。
- 誤。本法の移動相に酸素、二酸化炭素を用いることはできない。一般に、移動相は試料と反応しない窒素、水素、アルゴン、ヘリウム等の不活性なキャリヤーガスが用いられる。
- 正。ガスクロマトグラフィーのカラムには充塡カラムやキャピラリーカラムなどがある。充塡カラムは、固定相粒子が充塡されたカラムであり、キャピラリーカラムは非常に細い高純度のSiO2でできたフューズドシリカ(溶解石英)の中空の管の内壁に液相をコーティングさせたものである。
- 正。一般に、ガスクロマトグラフィー/質量分析法(GC/MS)のイオン化部には、試料を気化させてイオン化する化学イオン化(CI)法や電子イオン化(EI)法が用いられる。
- 正。ガスクロマトグラフィーにおいて、水素炎イオン化検出器(FID)は、炭素-水素結合を有する有機物の検出に用いるため、NDMAの検出も可能である。
- 正。NDMA は液体試料として調製できるため、高速液体クロマトグラフィー/質量分析法(HPLC/MS)を用いることも可能である。
問205 解説
製造販売業者等によって回収される製品がもたらす健康の危険性は、クラスⅠ、Ⅱ又はⅢに分類される。クラスⅠの回収では、その製品の使用等が、重篤な健康被害又は死亡の原因となりうる状況であり、医療機関においては、速やかに当該ロットの製剤を使用した患者やその状況を把握するなど、しかるべき対応をとらなければならない。クラスⅡの回収では、医療機関においては、情報の周知と使用した患者やその状況を可能な限り把握する対応をとるべきである。クラスⅢの回収では、特に緊急な対応は必要なく、回収に伴う管理と代替薬等への対応を考えることでたりる。
- 正。薬剤師は、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)のホームページで情報収集を行い、回収製品の状況を把握する必要がある。
- 正。クラスⅠの当該製品の使用等が、重篤な健康被害又は死亡の原因となる可能性があるため、処方歴のある患者をリストアップする必要がある。
- 誤。重篤な健康被害となる可能性があることを患者に伝え、当該製品を回収する。
- 誤。薬剤師の自己判断で、患者の手元にある当該製品を他の成分の製品に変更することはできない。
- 誤。薬局内の開封済み当該製品も回収対象となるため、薬剤師の自己判断で廃棄してはならない。
機器分析は暗記って思っていませんか?
今回の問題は、GC/MSがどんな分析方法なのかということだけでなく、検出器を変えても検出できるのか、また、HPLC/MCでも分析できるのか、を問う内容となっています。NDMAの構造を見て、C-H結合があることや水に溶けやすいということが判断できれば、答えは直ぐに出てきます。構造からその性質を判断できるようになりましょう。構造から水に溶けやすくなることが判断できるようになれば、異物だけでなく医薬品の溶解性にも繋げることができますね。
大学で習った基礎科目の知識、忘れていませんか?
基礎科目の知識は臨床現場では、ほとんど使わないと思っていませんか?
異物の検出だけでなく、検査薬の反応、注射剤の配合変化、副作用発現など、様々な現象に物理・化学・生物で学んだ内容が応用されています。
患者さんと話す際、結果を説明するだけでなく、なぜ、そうなるのかを理解していると、説得力が増しますね。
構造からその性質が判断できるかっこいい薬剤師になりたいですね。