第3回 分割調剤の推進は薬局の働きかけ次第
2018年度調剤報酬改定では、「医師の指示に基づく分割調剤」を効率的に進めるために、処方箋様式と分割回数が明確化され、注目トピックとなっています。一般社団法人 次世代薬局研究会2025代表の藤田道男氏に「分割調剤」について、今後の影響も含め詳しく解説をいただきました。
医師の指示による分割調剤を明確化
従来の分割調剤の形態は、①長期保存が困難な薬剤を交付する場合の分割調剤、②初めて後発医薬品を使用する場合の分割調剤の2要件だったが、前回2016年度改定で新たに「医師の指示による場合」も追加されました。
要件としては、「患者の服薬管理が困難である等の理由により、医師が処方時に指示した場合には、薬局で分割調剤を実施します。その際、処方医は、処方せんの備考欄に分割日数及び分割回数を記載し、2回目以降の調剤時は患者の服薬状況等を確認し、処方医に対して情報提供を行う」というものでした。
今回の分割調剤に対する措置は、分割の回数や薬局における患者指導、処方箋様式が明確化した点が特徴です。
具体的には、
- 分割の回数は3回まで
- 患者は調剤を受ける度に記載された回数に応じた処方箋及び別紙を薬局に提出する
- 分割処方箋を受けた薬局は継続的に同じ薬局を利用するよう説明する
- 薬局は次回以降の調剤の予定を確認し、別の薬局で調剤を受ける場合は当該薬局に必要な情報を提供する
- 処方箋の使用期限内に受け付けたことが確認できない場合は無効とする―というものです。
この結果、分割調剤が増えるかどうかですが、今回の措置は、分割指示に関する具体的な内容が明確になったものの、逆に処方医の煩雑さが増す懸念もあり、今後分割調剤が増えるかどうかは見通せないのが正直なところでしょう。
分割調剤を進める背景には、今後のリフィル処方箋導入の布石とする意図も垣間見えます。しかし、これまでの議論の推移からはリフィル処方箋導入にはなお曲折が予想されています。まずは、薬局側が分割調剤に真摯に取り組み、特に長期処方箋について薬局が関与することによる薬物療法の安全確保の実績を上げることが先決と言えます。
分割調剤導入の経緯
導入時期
背景
長期保存困難
2004年度
増加する長期処方への対応
後発品のお試し調剤
2008年度
後発品の使用促進
医師の指示
2016年度
医師の判断で分割指示
2018年度
処方箋様式、分割回数を明確化
[分割調剤に係る留意事項](2018年度)
分割調剤の種類
調剤報酬
処方元への対応
長期投薬(14日分以上)で薬剤の保存が困難
基本料、薬学管理料は初回のみ算定。2回目以降の調剤は、1分割調剤につき5点を算定。
照会
後発品のお試し調剤(初めて後発品を試す場合)
基本料、薬学管理料は初回のみ。薬歴管理料は所定の要件を満たせば算定可。2回目の調剤に限り5点を算定。
報告
医師の指示(30日以上)
分割なしで計算し、分割回数で割る。分割調剤ごとに算定。
情報提供
分割調剤ごとの調剤報酬算定、医師への対応
- 分割指示に係る処方箋の交付を受けた患者に対して、処方箋受付前に、継続な薬学的管理及び指導のため、当該処方箋の1回目の調剤から調剤済みになるまでを通して、同一の保険薬局に処方箋を持参するべきである旨を説明する。
- 患者に対し、次回の自局への処方箋持参の意向の有無及び予定時期を確認するとともに、予定時期に患者が来局しない場合は、必要に応じ、電話等で服薬状況を確認し来局を促す。
- 患者から次回は別の保険薬局に処方箋を持参する旨の申し出があった場合は、患者の了解を得た上で、次回の円滑な薬剤交付に資するよう、調剤後遅滞なく、患者が次回処方箋を持参しようとする保険薬局に対し、調剤の状況とともに必要な情報をあらかじめ提供する。
その他
- 別紙を含む処方箋の全てが提出されない場合は、当該処方箋は受け付けられない。
分割調剤の手続きの明確化の図
出典:「5.その他の調剤報酬改定関連事項」(厚生労働省)
分割調剤は薬局側の取り組みいかんにかかっている
これまで分割調剤が進まなかった背景には、薬局側と処方医側の両方に要因があったと考えられます。薬局側では処方箋の備考欄に分割の理由、処方量、薬剤師の署名などを記載する手間があり、かつ調剤報酬上のメリットが少ないことがあげられます。また、患者への指導や処方医へのフィードバックなど、作業が煩雑になることがあります。
医師側では、今回の処方箋様式の変更は複数枚の処方箋を発行することになるなどの手間が煩雑になる懸念が生じます。これまでも中医協の場などで医師会委員はリフィル処方箋への警戒感を示していることもあります。
ただ、こうした理由のほかに、分割期間中は患者を診ることなく、薬局の対応に任せざるを得ないことの不安が払しょくできていないため、積極的には推進しづらかったと推測されます。したがって分割調剤が増えるかどうかは薬局の取り組みいかんにかかっていると言えます。そのことは薬局における調剤と患者の服薬管理に責任を負う医薬分業のメリットの具現化にもつながるでしょう。
薬剤交付後のフォローが重要
現在は処方箋の長期化が主流になっており、かつ多剤投与になっている状況下では薬剤使用による有害事象(ポリファーマシー)発現の可能性が高まっています。これを防ぐためには、薬局で薬剤を投与した後のフォローが必要であり、継続的に患者の服薬状況を管理し、それを医師に伝えることが重要になります。
ポリファーマシー対策に関する調剤報酬上の項目としては、「服用薬剤調整支援料」「重複投薬・相互作用防止等加算」などもありますが、これらも薬局からの積極的な情報提供が不可欠でしょう。
分割調剤も含め、薬物療法の安全確保に向けた薬局の取り組みが、昨今の薬局調剤批判を払しょくする近道と考えられます。
一方、分割調剤の推進は、欧米で普及しているリフィル処方箋につながるとの見方があるが、はたしてどうでしょう。リフィル(refill)は「詰め替える」「補充する」などの意味があり、リフィル処方箋は1枚の処方箋を数回に分けて反復使用できる仕組みです。これに対し分割調剤は1回の調剤を分割して交付するもので、制度的には全く別物なのです。
現在の分割調剤では薬剤交付後の薬剤師による患者フォローは義務化されていませんが、分割に限らず患者の服薬状況等を経過観察し、残薬や有害事象発現の有無を把握し、処方医にフィードバックすることが重要であることは言うまでもありません。
リフィル処方箋のケースでは、薬剤師による薬学的専門性に基づく血液検査データやバイタルサインをチェックし、次回も同様の薬剤で可能か、変更が必要かを判断する能力や責任が求められます。薬剤師がこうしたスキルをマスターしておく必要があるのは言うまでもありません。
現在の分割調剤も「手間がかかる」「報酬が見合わない」などの理由から分割調剤の実績が上がっていないのが実情です。まずは長期処方で薬剤の保存な患者に対する分割の提案を行い、薬剤師が必要とした患者に対し、改めて医師に照会し、分割指示処方箋を出してもらうなどの取り組みが必要です。この場合、患者との信頼関係はもちろん処方医とのコミュニケーションができているかどうかが重要となってくるでしょう。
リフィル処方箋の関する関係機関の意見等
2015年 規制改革実施計画(閣議決定)
リフィル処方箋の導入や分割調剤の見直しに関する検討を加速し、結論を得る。
経済財政運営と改革の基本方針2014
医薬分業の下での調剤技術料·薬学管理料の妥当性·適正性について検証するとともに、診療報酬上の評価において、調剤重視から服薬管理·指導重視への転換を検討する。 その際、薬剤師が処方変更の必要がないかを直接確認した上で一定期間内の処方箋を繰返し利用する制度(リフィル制度)等について医師法との関係に留意しつつ、検討する。
経済財政運営と改革の基本方針2017
薬剤の適正使用については、病状が安定している患者等に対し、残薬の解消などに資する、医師の指示に基づくリフィル処方の推進を検討する。
新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護等の働き方ビジョン検討会 2017年4月
同じ薬剤処方であれば再度の診察・処方せん交付は不要とあらかじめ医師から指示されている場合には、医師との連携の下、薬剤師等によるリフィル処方への対応を可能とし、長期に有効な処方せんが一度出されれば、これを提示することで何度も薬を受け取ることができるよう検討すべきである。