いまだ調剤薬局の在り方が問われるのはなぜか? vol.3
刻一刻と薬局、薬剤師の状況が変化する現代で、薬剤師の将来を予測し、起こりうる問題を提起する連載企画。今回は、医薬分業から40数年たった今、薬局ができることとは何かを考えます。
薬剤師の本質は?いまこそ必要な「原点回帰」
薬局とは何か、薬剤師とは――。これまで様々な場面で問いかけられてきたテーマですが、今後の在り方を考えるうえで今こそ原点に戻って足元を固めるべきではないでしょうか。
診療報酬・介護報酬の同時改定を来年に控え、調剤報酬点数の行方に関心が集まっています。(第2回大予測!2018年診療報酬はどう変わる?)薬局経営に大きく影響するだけに関心を持つのは当然ですが、薬局や薬剤師の本質からすれば、点数自体は枝葉にすぎません。点数のみに拘泥するならば改定のたびに右往左往しなければなりません。
薬局・薬剤師を取り巻く情勢は従来と大きく変わりました。パラダイムシフトが起こっているのです。そうした状況にあっては、まずは原点回帰が重要です。薬局・薬剤師の足元を固め、いかなる事態があっても対応できる基盤、すなわち薬局を運営する上での理念やビジョンを明確にし、それを全員が共有し、業務遂行の規範とすることが重要です。
医薬分業から40数年…いまだ調剤薬局の在り方が問われるのはなぜ?
薬局・薬剤師業務や分業の在り方は、その都度問題が指摘されながら、本質的な問題については何ら変わっていません。分業元年以降、薬局の対応はまさにこの繰り返しであったと言ってもよいでしょう。その結果、どうだったでしょうか。
分業元年以降、40数年も経過したにもかかわらず、いまだに薬局調剤の在り方が問われているのはなぜでしょうか。批判を恐れずに言えば、日本の分業が処方せん調剤という形式に走り、本来の趣旨を素通りしたまま経過してきたからではないでしょうか。「仏作って魂入れず」の状態が延々と続いてきたのです。
医薬分業は薬物療法における安全性の確保と医薬品適正使用にあることは疑いようのない事実です。しかしながら実態とかけ離れてしまったために、国の主導で「患者のための薬局ビジョン」が策定される事態に至りました。薬局ビジョンは当然の内容であり、これに異論をさしはさむつもりはありませんが、「お上依存」でしか変わらない状況はいかがなものでしょうか。
塩崎厚生労働大臣は薬局ビジョンの目的について「本来の医薬分業の実現に立ち返る、医薬分業の原点に立ち返って本来の患者本位の医薬分業を実現していくために何をしていくかということです」と発言しています(2013年5月閣議後記者会見要旨)。
薬局ビジョンは医薬分業の在り方と薬局機能について明確な基準を打ち出しました。それはまさに分業と薬局に関する原点回帰であったと言えます。
医薬分業から40数年、日本の薬局は処方せん調剤という形式に走り、本来の患者本位という立場を忘れていた。国が示した「患者のための薬局ビジョン」は、原点に立ち返るよい機会である。
偽造品問題に見る“薬局の変わらなさ”
そういう視点からすれば、C型肝炎治療薬「ハーボニー配合錠」の偽造品問題の反応はどうだったでしょうか。問題の発生源である関西メディコや現金問屋の問題に矮小化されているように感じます。偽造品問題は、当該企業だけでなく、業界全体に対する信頼失墜につながりました。この問題は業界として傍観者的な立場ではなく、当事者意識を持つことが重要です。
3年前に発覚した薬歴未記載問題も同様です。この時も当該薬局の在り方が批判されましたが、それを自局の問題として捉え、業務改善を図ったという事例はほぼ聞いていません。
さらに言えば、薬局調剤における薬歴管理料の算定要件について、副作用、併用薬や他科受診の有無等について「先確認」を行うことが義務付けられました。しかし、これも全薬局が励行しているとは言えない状況です。
このような状況が続けば「薬局は何があっても変わろうとしない」とのレッテルを貼られてしまいます。
「ハーボニー配合錠」の偽造品問題は、薬に関わるものすべての信頼を失わせるものである。薬歴未記載問題も同様。薬剤師ひとりひとりが当事者意識を持ち、再発防止、業務の改善策を考えるべきだ。
「ヒト」「モノ」「カネ」薬局の閉塞感を払しょくするために…
薬剤師は薬剤師法で「調剤、医薬品の供給」「その他薬事衛生」の専権事項が定められており、特に医薬品に関しては専門家として「医薬品の管理・供給責任」を負うことになっています。また薬剤師は「公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もって国民の健康な生活を確保する資格」であり、国民の健康・生命を預かる立場でもあります。その意味で薬剤師は医薬品適正使用の最終ゲートキーパーとしての責任があります。
しかし、今回の偽造品問題、薬歴未記載問題、調剤時の先確認等は業務を行うに当たって当然行うべき義務を果たしていないことを示しています。上記の薬剤師法は調剤に限らず、薬剤師としての責務を規定したものです。薬局における調剤に限らず、薬局・薬剤師の在り方、分業の在り方に照らして業務を遂行する必要があります。
現実的に薬局は「ヒト」「モノ」「カネ」のすべてにおいて厳しい状況にありますが、それは多分に従来の業務や経営の延長線上で捉えていることによる閉塞感でもあります。本来の薬局・薬剤師の在り方を追求することで、この閉塞感を払しょくしようではありませんか。
薬剤師には医薬品の適正使用をするための門番のような役割が求められる。だが、現実には昨今の偽造品問題など、対応ができていない。業務的、経営的にも厳しい状況にはあるが、本来の薬局・薬剤師の在り方を追求するべきではないだろうか。