薬剤師への影響大!医療・介護の政策は誰が決めている!?vol.6
薬局、薬剤師の近い将来に起こる問題点をあぶりだす連載企画。今回は2018年度の改定において、官邸や内閣府、そのほか財務的な問題について解説します。
官邸や内閣府、財務省等の動きにも注目しよう
医療・介護等の社会保障政策は厚生労働省管轄ですが、近年は首相官邸や内閣府などが主導する傾向が強くなっています。従来、政策を主導してきた社会保障審議会(社保審)や中央社会保険医療協議会(中医協)は厚労省の頭越しに決定された内容に沿って運用に関する議論を行うことが多くなってきました。従って、2018年度の診療報酬・介護報酬改定においてもそうした動向を注視する必要があります。
厚生労働省管轄のはずの社会保障政策だが、近年は首相官邸、内閣府などが内容を決定することが多い。そのあたりの情報にも普段から気を配ろう。
公共事業や防衛費よりも多い薬局調剤医療費
なぜ、このような状況を招いたのでしょうか。最も大きな要因は社会保障費のウエートが突出して大きいことです。2017年度の予算は総額97兆4547億円ですが、このうちの33%、32兆4735億円が社会保障費に充てられます。かつてバラマキ行政の元凶といわれた公共事業費は5兆9763億円(構成比6.1%)、最近増加している防衛費にしても5兆251億円(同5.3%)です。
ちなみに薬局調剤医療費は15年度で7兆3800億円です。防衛費はほとんどが国費で、調剤医療費は、国費、保険料、自己負担金などで構構成されており、比較はできませんが、金額だけでみると防衛費よりもはるかに多いのです。
社会保障費は国の財政上大きなウエートを占めており、それを一官庁である厚労省だけに任せられないという発想が出てくるのはむしろ当然といえます。
18年度同時改定に関して、社保審や中医協とは別に官邸や内閣府、さらに財務省等から様々な注文や要求が付きつけられるのはこうした事情によるものです。
加えて、近年は官邸主導で次々に政策決定が行われています。族議員や派閥の力が強かったかつてとは異なり、「政高・党低」になっていることも背景にはあります。
なぜ厚生省だけではなく、官邸などが社会保障費に口を出してくるのか。それは、国家予算の33%という大きなウエートを占めるからだ。薬局調剤医療費だけでも15年度には7兆3800億円となる。これは防衛費の5兆251億円よりも遥かに多い。
「骨太の方針17」から読み解く薬剤師への影響
さて、内閣府の重要政策会議である経済財政諮問会議は、来年度予算編成に向けた「経済財政運営と改革の基本方針2017(仮称)」(骨太の方針17)の素案をまとめました。
社会保障分野では、「全ての団塊の世代が後期高齢者となる2025 年度を見据え、データヘルスや予防等を通じて、国民生活の質を向上させるとともに、世界に冠たる国民皆保険・皆年金を維持し、これを次世代に引き渡すことを目指す」との基本方針を掲げ、地域医療構想の実現、かかりつけ医の普及、医療費適正化、健康増進・予防の推進、診療報酬・介護報酬改定等を掲げました。
調剤報酬関係では、「患者本位の医薬分業の実現に向け、かかりつけ薬剤師・薬局が地域における多職種・関係機関と連携しつつ、服薬情報の一元的・継続的な把握等、その機能を果たすことを推進する」と明記。その方策の一つとして、ICTによる情報共有(あらゆる薬局で活用可能な電子版お薬手帳など)の推進を挙げています。具体的には、「在宅訪問や残薬解消などの対人業務を重視した評価を検討する」としています。
調剤基本料に関しては、「様々な形態の保険薬局が実際に果たしている機能を精査し、それに応じた評価を更に進める」としています。これは門内薬局や受付回数、集中率等で区分されている調剤基本料2、同3などの見直しを示唆するものと見られます。
また、薬剤の適正使用に向けて「医師の指示に基づくリフィル処方の推進」を盛り込んだ点が注目されます。リフィル処方については、医師会の反発があることもあり、薬剤師会も積極的な発言は控えているのが現状です。リフィル処方が導入された場合、服薬期間中の患者の経過観察、服薬管理等は薬剤師の責任であり、こうした点での信頼が醸成されるかどうかがポイントとなります。
来年度予算編成の「経済財政運営と改革の基本方針2017(仮称)」の素案の内容がわかった。社会保障分野は、地域医療構想の実現や診療報酬・介護報酬改定が盛り込まれた。調剤報酬関係では、ICTによる情報共有、特に対人業務の評価が重要。また、リフィル処方の推進がいよいよ本格化しそうだ。
反発の予想される日本型参照価格導入はどうなるのか?
薬価制度については、「効能追加等に伴う市場拡大への対応」「毎年薬価調査・薬価改定」「新薬創出・適応外薬解消等促進加算制度のゼロベースでの抜本的見直し」「費用対効果評価の本格導入」などの抜本改革に取り組む、としています。
後発医薬品使用促進に絡んで、「2020 年9月までに、後発医薬品の使用割合を80%とし、できる限り早期に達成できるよう、更なる使用促進策を検討する」としたうえで、「先発医薬品価格のうち、後発医薬品価格を超える部分について、保険財政の持続可能性や適切な給付と負担の観点を踏まえ、原則自己負担とすることや後発医薬品価格まで価格を引き下げることを含め検討し、本年末までに結論を得る」としました。
いわゆる日本型参照価格制度の導入を目指すものですが、これには社保審や中医協でも医療側、支払い側ともに反発していることもあり曲折が予想されます。
薬価制度では、抜本的な改革はもとより、2020年9月までに後発医薬品の使用割合を80%とすることが検討されている。さらに日本型参照価格制度の導入を目指す方針だが、これには医療側、支払い側の反発が予想される。
財政審や規制改革会議からの動きにも注目だ
18年度同時改定を巡っては経済財政諮問会議のほかに、財政制度等審議会は「基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)の2020年度の黒字化」という財政再建目標を堅持するよう政府に求めています。そのためには社会保障費への切り込みを強める可能性があります。また、規制改革会議では国立病院の門内薬局の開設に歯止めをかけた厚労省の対応への不満や新医薬品の14 日間処方日数制限の見直し―なども俎上に上がっています。
薬局関係者としては、診療報酬・介護報酬改定に至る過程では、厚労省だけでなく、経済・財政状況等を踏まえた総合的な判断が働いていることにも注目する必要があるでしょう。
18年度同時改定では「基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)の2020年度の黒字化」という財政再建の目標を求められている。具体的には新医薬品の14 日間処方日数制限の見直しなどが行われる可能性もある。厚労省だけでなく、経済・財政的な状況も見られる視野の広さが求められる。