第3回:ロンブンを参照すべき副作用の疑問とは?
臨床現場でしばしば遭遇する薬の副作用に関する疑問。そんな疑問の解決に、論文情報は強い味方となってくれます。今回は、ぽんぽこ調剤薬局きっての学術派、O崎さんによる「副作用の疑問に関する論文検索」のレクチャーです!
分包紙に印字すべき日付を1週間ほど間違ってしまったS村さん。どうやら日付を修正するようです。
破損した修正テープを直そうと必死だったS村さんでしたが、中身の白テープがビロビロしてきたあたりから収集が付かなくなり、修正テープは無残な姿でゴミ箱行きとなったのでした。
S村さんは修正ペンを受け取ると、上下にカシャカシャ振ってからキャップを外しました。誤って印字された日付の上にペン先を押し付けます。
そう言ってS村さんは、修正ペンのインクを乾かそうと、塗り終わった分包紙をパタパタ振り始めます
S村さんの悲痛な叫び声と同時に、調剤室の奥にあるスタッフ用の出入り口が開きます。
パート勤務のO崎さんが出勤する時刻なのでした。ぽんぽこ調剤薬局きっての学術派、加えて懇切丁寧な服薬説明と接客が評判の薬剤師です。
O崎さんは調剤室に入ると、修正ペンのインクで指先が真っ白になっているS村さんを見下ろしながら、小さなため息をつきました。
【ロンブンを参照すべき副作用の疑問とは?】
その時、ガサっという音に3人は後ろを振り返りました。休憩室のテーブルの上に無造作に積み重ねられた文庫本(だいたい村上春樹氏の小説)が小さな音を立てて崩れたようでした。
患者さんに生じた好ましくない医療上のあらゆる出来事を有害事象と呼びます。有害事象のうち、薬に関連した有害事象が薬物有害事象(Adverse Drug Event)です。また、薬物有害事象のうち、薬との因果関係が明確な事象を薬物有害反応(Adverse Drug Reaction)と呼びます。薬の副作用と言った場合、薬物有害反応を指すことが一般的です。
そういってO崎さんはホワイトボードに大きく表を書き始めました
副作用の特徴 | 具体的な例 | |
---|---|---|
タイプAの副作用 | 薬の薬理作用に起因 用量依存的・予測可能 |
・降圧薬による低血圧 ・抗コリン薬による口渇 |
タイプBの副作用 | 特異的・低頻度・予測不可能 | ・アナフィラキシー |
タイプCの副作用 | 薬の治療対象となる集団で潜在的に 発生のリスクがあり、薬によって、 そのリスクが高まる。薬が無い状態 との比較によって検出可能な副作用 |
・ベンゾジアゼピン系薬剤と転倒や 骨折の関連 ・抗コリン薬と認知症の関連 スタチン系薬剤と横紋筋融解症の関連 |
【表】Mayboom らによる副作用の分類(Meyboom, et al.1997; PMID: 9241490をもとにO崎さん作成)
【副作用の疑問を解消するための論文検索方法】
【図1】Clinical Queries(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/clinical/)の基本的な使い方(O崎さんのスライド資料より)
人為的な治療行為(医療介入)を伴わず、その場で起きていることや起きたこと、あるいはこれから起こることを観察する研究手法を観察研究(observational study)と呼びます。代表的な観察研究に、コホート研究や症例対照研究があります。
例えば、スタチン系薬剤を服用している人と、服用していない人を集め、3年間にわたり追跡調査を行って横紋筋融解症の発生頻度を比較する方法がコホート研究です。また、横紋筋融解症を発症している人と、発症していない人を比較して、過去のスタチン系薬剤の服用状況を比較する方法が症例対照研究です。
Clinical Queries(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/clinical/)とは、臨床医学領域の文献検索に特化したPubMedの機能で、疑問のカテゴリーに応じた論文検索ができます。副作用の疑問であれば「etiology」を選ぶと、関連する論文に絞り込むことができます。また、検索結果の絞り込みは「narrow(狭く正確)」と「broad(広くもれなく)」から選ぶことができます。
PubMedの検索結果は、自分が解決しようとしている疑問にマッチしている論文タイトルでスクリーニングをすると良いでしょう。目を通すべき論文がかなり絞り込めると思います。また、報告年が新しい論文、自分の検索環境で全文が閲覧できる論文から優先的に確認していくと効率が良いです。論文のイントロダクションの段落には、これまでに報告されている重要な先行研究がまとめられています。全文が読める論文であれば、イントロダクションにも目を通してみてください。PubMedで検索せずとも、関連する重要論文がレビューされているので、効率的な情報収集ができるはずです。