エスゾピクロンはゾピクロンよりも効果がありますか?(後編)
開局前に処方箋を持ってきたAさん。本日からゾピクロンからエスゾピクロンに変更となっていました。実際のろころゾピクロンとエスゾピクロンの効果に、明確な差はあるのでしょうか。薬局長のS村さんと事務のT川さんは、PubMedで論文を検索しますが、なかなかよい情報が見つかりません。途方に暮れていた二人の前に現れたのは、やっぱりO崎さんなのでした。
薬局長のS村さんは「もう少しです~」とAさんに声をかけると、泣きそうな表情で出勤してきたばかりのO崎さんを見つめます。事務のT川さんは、O崎さんに処方箋を手渡すと、小声で状況を説明しました。
待合室からは、間髪入れずにAさんの声が飛んできます。
O崎さんはT川さんから手渡されたAさんの処方箋を覗きこみます。
【本日の処方箋】
- アムロジピンOD錠 5㎎ 1錠 分1 朝食後
- バルサルタン錠80mg 1錠 分1 朝食後
- ガスモチン錠5㎎ 3錠 分3 毎食後
- ランソプラゾールOD錠15㎎ 1錠 分1 夕食後
- 酸化マグネシウム錠250㎎ 2錠 分1 就寝前
- エスゾピクロン錠1㎎ 1錠 分1 就寝前
P:高齢者の不眠に
E:エスゾピクロンを投与すると
C:ゾピクロンに比べて
O:寝つきは良くなるか、中途覚醒が減るか
O崎さんは、S村さんがコピー用紙に書いたPECOを見つめながら話を続けます。
O崎流!?論文検索のポイント
❖PubMed検索で用いる検索語は、疑問の定式化によって得られた「PECO」から設定する。
❖検索しようとしている臨床疑問に応じて、「PECO」全ての情報を検索語に設定するのではなく、「E」と「O」、あるいは「P」「E」「O」など、検索語の取捨選択を行うと効率が良い。
❖研究報告数が少ないと想定される臨床疑問では、PECO全ての情報を検索語として設定すると、検索される論文が極めて限定的になるうえ、関連する論文情報も取得しにくくなる。
❖逆に研究報告数が多いと想定される臨床疑問では、「P」の情報を検索語に加えることで、検索結果を絞り込むことができる。
❖「C」が無治療やプラセボの投与であるならば、「E」と「O」の情報を検索語に設定することで、関連する論文も含めた包括的な検索ができる。
❖ただし、「ある治療法」と「別の治療法」を比較する場合は、「E」と「C」の情報を検索語に入れると良い。
❖「O」は症状や状態ではなく、医学的な病名の方が検索効率がよい
This study comprised a phase III, single-center, randomized, double-blind, double-dummy, parallel-group, non-inferiority trial. Clinics (Sao Paulo)
. 2016 Jan;71(1):5-9PMID: 26872077
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26872077/
【図1】PubMedを「Eszopiclone zopiclone」で検索
【PubMed豆知識】
PubMedは2019年に、そのインターフェースが大きく変更されました。特に便利になった機能の一つとして、検索結果の並べ替え機能を上げることができます。
【図2】PubMedのdisplay options
【図2】のように、検索結果の画面右上にある「display options」をクリックすると、検索結果の並び替えメニューが表示されます。この中でもBest Much機能がとても優秀です。
Best Match機能は、検索語との紐づけを機械学習アルゴリズムによって更新し続けることで、検索語に最適な論文情報を上位に表示してくれる機能です。もちろん、包括的な論文検索を目的としたシステムではありませんが、臨床疑問の解決に参考となる論文を、効率的に収集する上で欠かせない機能だといえましょう。
その時、薬局の待合室からAさんの大きな声が聞こえてきました
S村さんは調剤監査を終えると、神妙な面持ちで投薬台の前に立ちます
T川さんはO崎さんと一緒に、調剤室から服薬説明をするS村さんを見守ります。
ランダム化比較試験の結果は一次アウトカム(primary endpoint)と、二次アウトカム(Secondary endpoint)に分けることができます。今回の検索で参照したエスゾピクロンの論文(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26872077/)では、治療開始から4週後の不眠症の重症度が一次アウトカム、総睡眠時間や入眠までの時間などのアウトカムが二次アウトカムとして設定されていました。
ランダム化比較試験の論文情報を参照する際に注意したいのが、一次アウトカムと二次アウトカムの妥当性の違いです。実は、二次アウトカムの結果は偶然やバイアスの影響が大きい仮説的な知見であって、研究本来の検証結果ではありません。エスゾピクロンの論文でも、不眠症の重要度というアウトカムだけが検証結果であり、厳密にはこの結果だけを臨床判断に用いるべきなのです。
ただし、仮説的な知見であっても、患者の(精神的・心理的な)状態に良い影響を与えることも少なくありません。今回のケースのように、一次アウトカムに差がない場合では、患者さんの状況やニーズに応じた二次アウトカム情報の活用も、EBMの実践において重要なスキルと言えます。