医学論文、どんなふうに検索したらイイですか?

更新日: 2023年2月25日 青島 周一

論文検索を上手に行うためには慣れとノウハウが必要!そのマル秘テクニックとは?

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EBMは苦手…そんなふうに感じてしまう原因の多くは、論文検索の良し悪しにあるのかもしれません。英語が苦手でも、充実した翻訳ツールがなんとかしてくれますし、論文結果を読み解く上では、難解な統計概念を熟知する必要性は必ずしも高くありません。しかし、論文検索だけは、一定の『慣れ』と『ノウハウ』の習得が必要です。今回は、論文検索の効率を飛躍的に向上させるマル秘テクニックをO崎さんがレクチャーしてくれます!

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S村さん

しかし、O崎さんはさすがだなぁ。あれだけ必死で論文を調べたのにねぇ、T川さん

S村さんはAさんの服薬説明を終えると、「調剤済」の印鑑を押した処方箋を、事務のT川さんに手渡しました。

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T川さん

でもまあ、さすがに検索語が『sleep』じゃ、論文は見つからないでしょう。中学生じゃあるまいし

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S村さん

相変わらず手厳しいねぇ。でもやっぱり検索語って大事なんだなぁ

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O崎さん

EBMが苦手と感じることの多くは、英語や統計に関する知識量の問題というよりは、医学論文の検索が思い通りにできないことが原因だと思いますよ

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T川さん

PubMedで検索するって、いうなればGoogle検索と同じじゃないですか。そういう意味では、実際の日常用語ではなく、検索用の言語ってあると思うんです。例えば、東京駅周辺の本屋さんをGoogle検索する場合、『本屋』で検索しないですよね。『八重洲口 書店』 とか、そんな感じじゃないですか。だからPubMedもそういうイメージで検索語を選べばよいと思ったんですけど…

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S村さん

確かにGoogleで睡眠薬を調べたい場合、『エスゾピクロン 睡眠』で調べないよなぁ。せめて『エスゾピクロン 不眠症』かな

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T川さん

今、『エスゾピクロン 睡眠』でGoogle検索してみましたけど、クリニックのブログとか、そういう記事ばかりです……。でも、『睡眠潜時』1) とか、『主観的総睡眠時間』2) なんかで調べていると専門的なウェブサイトが上位に検索されますね

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S村さん

T川さん、すんごい難しい言葉知ってんだねぇ(汗)

1) 就床してから睡眠が始まるまでの時間
2) 1日のうちで睡眠が可能な時間のうち、覚醒している時間を除いた実際の睡眠時間

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O崎さん

『睡眠』という検索語から、『睡眠潜時』とか『総睡眠時間』という検索語の変換は、論文検索をするうえで非常に重要な視点だと思います。患者さんもしばらくこなさそうなので、少し整理してみましょうか

三人は調剤室の窓から、門前のクリニックの駐車場を覗き込みます。患者さんの車は1台も止まっておらず、今日の診察は落ち着いているようでした。

臨床疑問から抽出したPECOから論文検索用のPECOへの変換

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O崎さん

臨床疑問をPECOによって適切に定式化したとしても、検索効率に優れた検索語を抽出できるわけではありません。論文検索がうまくいかないと感じる原因の多くは、PECOの変換作業にあるといってもよいでしょう

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T川さん

変換作業!?

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S村さん

東京駅周辺の本屋さんのことじゃないの?Google検索で調べ物をするときに、任意の検索語で有益な情報が得られなかったとしたら、検索語を変更するね。生じた疑問の全てに参照可能な情報があるとは限らないけど、検索語を変更することで、有益な情報を入手できる可能性は高まるというわけ

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O崎さん

まさにその通りで、臨床疑問の解決においても、EBMのステップ①で定式化したPECOを、論文検索用のPECOに変換することで、より効率的な論文検索が可能となります。このようなPECOの変換プロセスは、EBMに関する参考書にはあまり明記されていません。この作業の多くは無意識的に行われるからなのでしょうね

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T川さん

でも、その変換作業とうのは、具体的にどのような修正を加えるんですか?

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S村さん

検索語を変換することの重要性は分かるけど、何かコツとか指針のようなものがあれば良いのだけど…

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O崎さん

PECOへの変換作業は、例えば、自分が研究者の立場になったとして、『目の前のから定式化したPECOをどのような研究手法で検討するか?』と問うてみると、変換のポイントが明確になります。また、論文検索をするうえでPECOの変換作業が特に重要だと思われる項目は『P』と『O』です

そういってO崎さんは、調剤室の隅にあるホワイトボードを引っ張り出したのでした。

PECOの変換作業-PatientからSubjectへの変換

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O崎さん

例えば、臨床疑問から設定したPECOの『P』、つまりPatientが『86歳男性で腎機能が悪く、脳梗塞の既往がある患者』だったとしましょう。ただ、このようなハイリスクな高齢者は、倫理的な観点からランダム化比較試験の被験者として登録されることは稀です。したがって、Pの内容に修正を加えなければ、参照できる医学論文はほとんど存在しないことになってしまいます

O崎さんはホワイトボードに、「Patient(目の前の患者)」「Subject(臨床研究の被験者)」と書き、それを表にしていきます【表1】。

Patient(目の前の患者)の例 Subject(臨床研究の被験者)の例
86歳男性で腎機能が悪く、脳梗塞の既往がある患者 (高齢の)高血圧患者
関節リウマチ、慢性閉塞性肺疾患、2型糖尿病を
治療中で、関節リウマチの症状が悪化している
50代女性
(関節リウマチの治療に関して調べたいときには)
関節リウマチ患者
健康診断で2型糖尿病を指摘された58歳女性 (心血管リスクの高い)2型糖尿病患者

【表1】「P」項目の変換作業の例(O崎さんのホワイトボードより)

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T川さん

なるほど。Patientの情報は、とても個別性が強くなっているんですね。臨床試験に参加した被験者、つまりSubjectに近しい情報に置き換えないと、参照できる論文が限られてしまうというわけですか。確かに、目の前の患者さんで調べた研究でもない限り、PatientとSubjectは厳密に一致しませんね。

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S村さん

この場合、高齢高血圧患者とするか、あるいは単に高血圧患者で検索して、検索結果から絞り込んでいくという感じが良いんかな

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O崎さん

はい、最初から詳しい患者情報、つまりPatientの内容を意識して検索語とするのではなく、臨床試験に組み入れられそうな患者背景、subjectを意識して検索語を設定すると、参照できる論文の数が増えるはずです。報告されている論文数が少ない臨床課題でも効率的な論文検索ができると思います

PECOの変換作業-OutcomeからEndpointへの変換

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T川さん

検索された論文があまりに多い場合は、subjectに関連する言葉を検索語に追加すれば良いわけですね。Patient/Subjectは分かりましたが、『O』はどうすれ良いのでしょう

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O崎さん

PECOの変換作業で最も重要な項目は『O』だと思います。例えば、「幸せ」になれるかどうかをランダム化比較試験で検証する場合、どんなアウトカムを設定すれば良いでしょうか

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S村さん

幸せを評価することは難しいよねぇ。人によって幸せの定義は異なるわけですし……

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O崎さん

発症率が一定レベルで確保できるアウトカムであること、定量的かつ客観的に表現でき、統計処理が可能なアウトカムであること、こうした要素を意識して『O』を修正変換すると良いと思います。先ほどT川さんが指摘してくれた『睡眠』から『睡眠潜時』への変換は良い例だと思います

そういって、O崎さんはホワイトボードにOutcome(目の前の患者にとっての真のアウトカム)、Endpoint(臨床研究における評価項目)と書き、先ほどと同じように表を書いていきます【表2】。

Outcome(目の前の患者にとっての真の
アウトカム)の例
Endpoint(臨床研究における評価項目)の例
よく眠れる 主観的睡眠潜時、主観的総睡眠時間
間接リウマチによる生活への影響 ACR20
(American College of Rheumatology 20)
延命効果 心血管死亡、心筋梗塞、脳卒中の複合心
血管アウトカム

【表2】「O」項目の変換作業の例(O崎さんのホワイトボードより)

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O崎さん

例えば『死亡率』を検討したくても、死亡の発生頻度は一般的に低く、長期間にわたり追跡調査しないと統計処理が可能なイベント数を確保できません。現実的にはそのようなランダム化比較試験の実施は困難です。そういう意味でも、統計解析が可能な発症率が期待できるアウトカムの設定、つまり死亡ではなく脳卒中や心筋梗塞といったアウトカム(場合によっては複合アウトカム)で検索語を設定するとよいでしょう

【臨床試験の実現可能性を踏まえる】

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S村さん

表1の右下で『(心血管リスクの高い)2型糖尿病患者』となっているのは、アウトカムの発生数の問題なんだね。つまり、心血管リスクの高い人を対象にしないと、心血管イベントに差がつかないというわけか

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O崎さん

はい、その通りです。また、倫理的な観点から研究遂行が可能なこと、臨床にとって興味深く有用であり、社会的にも貢献性が高く、学術的に新規性の高い臨床課題が優先的に検証の対象となります

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T川さん

みんなが疑問に思うこと、疑問を解決することで、より社会的にメリットがあるという視点で疑問の方向性も整える必要があるわけですね

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O崎さん

『優れた研究デーマ』を明文化したものにFINER 基準があります【表3】。論文検索用のPECOを設定する際に参考にするとよいでしょう。

F: Feasibility
実現可能性
時間、スタッフ、資金の面で十分なリソースがあること
I: Interesting
興味深さ
研究者や出資者にとって興味深い研究であること
N: Novel
新規性
過去の知見を否定したり、拡張するものであること
新規性の高い知見であること
E: Ethical
倫理的
倫理委員会の承認が得られる研究であること
R: Relevant
関連性
臨床医学や保健政策に貢献する研究であること
科学の進歩に貢献する研究であること

【表3】FINER 基準


青島の一言解説

PubMedを使った論文情報の収集にあたり、どんなワードで検索するかという問題は、検索の効率性を左右する重要なポイントです。例えば、『がん』に関連する検索語には、『cancer』『neoplasms』『tumor』など、様々な言葉が考えられます。

臨床疑問で定式化したPECOから論文検索用のPECOへの変換作業は、専門的にはPubMedで用いられる統一された医療用語、MeSH(Medical Subject Headings)に置き換えて検索するということでもあります。

『がん』の、MeSHは『neoplasms』で登録されおり、『neoplasms』でPubMed検索すると『neoplasms』のみならず『tumor』や『Cancer』も検索対象になります。MeSHを使いこなすことによって、よりノイズの少ない的確な文献を探すことができます。なお、MeSHはMeSH Database(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/mesh/)から検索することができますので、ぜひ利用してみてください。

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青島 周一
あおしま しゅういち

2004 年城西大学薬学部卒業。保険薬局勤務を経て2012 年より医療法人社団徳仁会中野病院(栃木県栃木市)勤務。特定非営利活動法人アヘッドマップ共同代表。
主な著書に『OTC医薬品 どんなふうに販売したらイイですか?(金芳堂)』『医療情報を見る、医療情報から見る エビデンスと向き合うための10のスキル(金芳堂)』『医学論文を読んで活用するための10講義(中外医学社)』

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