糖尿病の薬③「低血糖」を患者さんにどう説明する?
前回の記事では、糖尿病治療の目標や糖尿病治療薬の選び方について解説しました。糖尿病治療における服薬遵守の重要性についてもお伝えしましたが、それと同時に、重篤な副作用である低血糖への対応を患者さんに理解していただくことも大切です。
いざという時に、患者さん自身で対応できるよう、薬剤師は適切な服薬指導を行っていきたいですね。今回は、服薬指導の際に必ず伝えるべき重篤な副作用である「低血糖」について取り上げます。低血糖の弊害や症状、誘因、対応について、患者さんと家族への説明のポイントとともに解説します。
糖尿病の治療で起きる「低血糖」の弊害
糖尿病の治療では、高血糖を抑えるだけではなく低血糖を起こさないことも重要です。なぜなら、低血糖には以下のような弊害があるからです。
① QOLの低下につながる
低血糖症状は、倦怠感や意欲の低下、日常生活における行動制限につながる場合があり、QOLを低下させます。
② 認知障害が起こりやすくなる
55歳以上の血糖降下薬投与中の糖尿病患者を対象とした海外のメタアナリシスにおいて、低血糖は認知症発症リスクを1.68倍高めることが報告されています1)。
③ 心血管疾患が起こりやすくなる
2型糖尿病患者における重症低血糖と心血管病リスクとの関連についてメタアナリシスとバイアス分析で検討した研究において、重症低血糖は心血管病の危険因子となりうることが示されています2)。
また、低血糖症と心血管イベントおよび死亡には因果関係があるとする報告もあります3)。
④ 死亡のリスク因子となる
重症低血糖に陥ると、昏睡やけいれん、不可逆性の脳障害などを起こし、最悪の場合、死亡につながる可能性があります。
重症患者における低血糖と死亡との関連性を検討した研究において、低血糖を発症しなかった人と比較して、中等症低血糖を発症した人は1.41倍、重症低血糖を発症した人は2.10倍、死亡リスクが高かったとする報告もあります4)。
「低血糖」ってどんな症状?
低血糖の症状は、交感神経刺激症状と中枢神経症状の二つに大別されます5)。
血糖値が正常の範囲を超えて急速に低下し、およそ70mg/dL以下になると、アドレナリンやグルカゴンの分泌による「交感神経刺激症状」があらわれます5)6)7)。
さらに血糖値が50mg/dL程度になると、中枢神経のエネルギー不足を反映した「中枢神経症状」があらわれます5)。「中枢神経症状」が数時間以上続くと、生命に危険が及ぶ場合があります5)7)。
血糖値 | およそ70mg/dL以下 | 50mg/dL程度 | 50mg/dL以下 |
低血糖症状 |
交感神経刺激症状 ・発汗 ・不安 ・動悸 ・頻脈 ・手指振戦 ・顔面蒼白 など |
中枢神経症状 ・頭痛 ・目のかすみ ・空腹感 ・眠気(生あくび) など |
・意識レベルの低下 ・異常行動 ・けいれん ・昏睡 |
夜間低血糖は症状が現れにくいため注意が必要です5)。反動で翌朝に高血糖をきたし血糖コントロールに悪影響を及ぼしたり、夜間低血糖が繰り返されると無自覚性低血糖*を引き起こしたりする場合もあります。
無自覚性低血糖*:自覚症状がないまま意識消失などの重篤な低血糖症状に至ること。
「血糖値が緩やかに低下する場合」「低血糖を繰り返している場合」「乳幼児」「高齢者」「自律神経障害を伴う患者」において発現しやすい5)8)。
患者さんと家族への説明のポイント
低血糖の症状は患者さんによって感じ方が異なります。低血糖になったときの症状を患者さん自身で把握してもらうことが、次の低血糖時の適切な対応のために重要です。
高齢者の場合、低血糖による異常行動が認知症と間違われやすい5)ため、ご家族への説明も大切です。
悪夢や起床時の頭痛、寝汗をかいてうなされるなど、夜間低血糖の症状についても患者さんおよびご家族に伝えておくとよいでしょう。
「低血糖」を起こす原因を知ろう
低血糖の誘因の例として、以下が挙げられます5)6)。