糖尿病患者のシックデイ対応の最重要事項は?
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前回の記事では、糖尿病治療薬の重篤な副作用である低血糖への対応について解説しましたが、低血糖を起こしやすい状態のひとつに、シックデイが挙げられています。糖尿病治療中の患者さんの体調不良時をシックデイと呼び、シックデイの際は、重篤な低血糖や高血糖をまねきやすくなるのです。
対処を誤ると、生命に関わる重大な合併症を引き起こしかねません。薬剤師は、低血糖への対応と同様、シックデイについても理解しておく必要があります。
そこで今回は、シックデイ時の対応の重要ポイントについて解説します。
シックデイとは?適切に対処しないと生命に関わることも
糖尿病治療ガイドでは、「糖尿病患者が治療中に発熱、下痢、嘔吐をきたし、または食欲不振のため食事ができない時をシックデイと呼ぶ」と記載されています1)。
つまり、糖尿病患者が体調を崩した時やご飯があまり食べられない時などを「シックデイ」と呼びます。
例えば、風邪や胃腸炎などの感染症にかかった時、妊娠中のつわり、骨折などの怪我をした時、抜歯後などです。
シックデイの際は、インスリン拮抗ホルモンや炎症性サイトカインが増加することにより、著しい高血糖に陥ることがあります2)3)。適切に対処しないと、糖尿病性ケトアシドーシス(Diabetic Ketoacidosis:DKA)や高浸透圧高血糖状態(Hyperosmolar Hyperglycemic Syndrome:HHS)などの生命に関わる重篤な高血糖緊急症に至る場合もあります4)。
逆に、食事ができずに低血糖になる場合もあり、対応が遅れると重篤な低血糖を引き起こして、不可逆性の脳障害や死亡リスクにつながる場合があります4)。
命を守るためにもこれらの重篤な合併症を回避する必要があり、シックデイには特別な対応が求められます。
対応の原則「シックデイルール」のポイントは?
シックデイ時の対応の原則(シックデイルール)は以下の通りです1)2)。
- シックデイの時は主治医に連絡し指示を受ける。
- 十分に水分を摂取し、脱水を予防する。
- 摂取しやすく消化の良い食物(お粥、麺類、ジュースなど)で糖分を摂取する。(絶食をしない)
- 食事摂取不良であっても、インスリンは決して自己判断で中断してはならない。
- 経口血糖降下薬、GLP-1受容体作動薬は種類や食事量に応じて減量・中止する。
- 発熱や消化器症状が強い時、24時間にわたって経口摂取ができないもしくは著しく少ない時、血糖値350mg/dL以上の時、意識状態が悪化している時は必ず医療機関を受診する。
<患者さんと家族への説明のポイント>
シックデイでは脱水に陥りやすく、高血糖を助長する可能性があるため特に注意が不可欠です。十分な水分を摂取するよう指導しましょう。また、日頃から体重を測定するよう指導しておくと、脱水の程度の推定に役立つでしょう。
食事摂取量や血糖値に応じて糖尿病治療薬を適切に調整することが、シックデイ時の対応のポイントとなります。
シックデイ時の糖尿病治療薬の調整方法については、予め主治医から指示を仰ぎ、ご家族も含め情報を共有しておくとよいでしょう。
シックデイ時の経口血糖降下薬とインスリン対応方法
以下に、シックデイ時の経口血糖降下薬、インスリンの代表的な対応方法を紹介します。
<経口血糖降下薬の対応方法>2)3)
薬効分類名 | シックデイ時の対応 |
スルホニルウレア(SU薬) 速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬) |
食事摂取不良であれば、減量や中止が必要となる。 目安として、食事量2/3以上で通常量、食事量2/3~1/3で半量、食事量1/3以下で中止とする。 |
GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)受容体作動薬 | 自己血糖測定値を参考に、インスリンへの切り替えも含めて対応する。 |
DPP-4(dipeptidyl peptidase-4)阻害薬 | 現在、コンセンサスが得られた対応方法はない。 |