薬剤師の常識!?糖尿病治療の多剤併用でやってはいけないこと

前回の記事では、糖尿病治療薬の特殊な注意事項について解説しましたが、糖尿病の治療では、作用機序の異なる複数の薬剤を併用する場合が多いため、各薬剤の注意事項に加え、多剤併用時の注意事項を理解しておくことも重要です。
今回は、糖尿病治療薬の多剤併用療法に焦点を当て、多剤併用療法の現状、多剤併用療法の注意点、アドヒアランス向上のための服薬指導のポイントについて解説します。
糖尿病治療における多剤併用療法の現状とは?
糖尿病治療における多剤併用療法の割合は、どの程度なのでしょうか。
糖尿病データマネジメント研究会(Japan Diabetes Clinical Data Management Study Group:JDDM)の報告によると、2011年度の糖尿病患者のうち64.1%が多剤併用であったことが報告されています1)。
また、薬剤数を増やすことは血糖コントロールの改善につながることが示唆されています2)。
このような背景から、多剤併用療法を理解することは、糖尿病治療を理解するうえで非常に重要です。一般的に、血糖降下薬の単独投与を3ヵ月間継続しても目標の血糖コントロールが達成できない場合、薬剤の増量、他剤への変更、作用機序の異なる薬剤の併用のいずれかの方法を選択します2)。
しかし、日本では糖尿病治療薬の併用療法に関するガイドラインは確立されていないのが現状です。
併用療法における薬剤は、一般的に患者さん個々の病態や患者背景を考慮して選択していきます。
糖尿病薬の選び方の詳細は「糖尿病の薬②薬剤の選ぶ5つのポイントとは?」で確認してください。
血糖コントロール改善作用に関して、有用性が報告されている併用例は以下です2)。
① DPP-4阻害薬単独で効果不十分のとき
+BG薬、α-GI、チアゾリジン薬、SGLT2阻害薬、グリニド薬
② BG薬単独で効果不十分のとき
+DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬、SU薬、グリニド薬、α-GI、
チアゾリジン薬、SGLT2阻害薬
③ SU薬単独で効果不十分のとき
+GLP-1受容体作動薬、DPP-4阻害薬、BG薬、チアゾリジン薬、SGLT2阻害薬
④ BG薬+SU薬併用時
+α-GI、チアゾリジン薬、DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬
糖尿病治療における多剤併用療法の注意点とは?
作用機序の異なる糖尿病治療薬の併用は、血糖コントロールの改善のために有用である一方、低血糖の発現頻度が増加するなど注意が必要な場合もあります。以下に、多剤併用療法の注意点について解説します。
① 作用点が同じ薬剤は併用しない
血糖コントロールの改善が期待できるのは、異なる作用機序を持つ薬剤の併用時のみです。
以下は、作用点が同じであり、併用しないことが原則です。
SU薬+グリニド薬:作用点が同じであり、併用による相加・相乗効果や安全性が確認されていない3)。
DPP-4阻害薬+GLP-1受容体作動薬:いずれもGLP-1受容体を介した血糖降下作用を有し、併用した際の有効性及び安全性は確認されていない4)。
② 低血糖に注意する
糖尿病治療薬を併用する際は、単独投与に比べ、低血糖の発現頻度が高まるため注意が必要です。
特に、SU薬は、他剤との併用時に低血糖を引き起こしやすいとされています。