心不全治療ではβ遮断薬のカルベジロールとビソプロロールのどちらを選ぶ?
「心不全患者にβ遮断薬?」と違和感を覚えた経験のある方もいるのではないでしょうか。かつて、β遮断薬は、心拍数低下(陰性変時作用)や心拍出量の低下(陰性変力作用)作用を有するため、収縮能が低下した心不全に対して禁忌と考えられていましたが、いまや心不全治療の柱です。特に左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)では、β遮断薬が死亡率や再入院率を低下させることが、CIBIS-IIやMUCHA(Multicenter Carvedilol Heart Failure. Dose Assessment Trial)、COPERNICUS試験で示されています。
心不全療養指導士の視点からβ遮断薬が「なぜ効くのか」「どの薬をどう使うか」「薬剤師が果たすべき役割は?」を、実践的に解説します。
なぜ心不全に「β遮断薬」を使うのか?
心不全では交感神経系が慢性的に活性化され、それがかえって心機能の悪化を招く“悪循環”に陥ります。この交感神経が活性化した状態を抑えることで、心臓の構造と機能を安定化させるのがβ遮断薬の役割です。
β遮断薬の有効性について詳細な機序は不明とされていますが、心拍数低下や陰性変力作用による心筋酸素消費量の抑制、レニン分泌抑制による体液貯留の抑制、カテコラミンによる心筋傷害抑制、抗不整脈作用等の様々な機序が考えられています。
「β遮断薬」の「カルベジロール」と「ビソプロロール」のどちらを選ぶ?
現在、日本で心不全の予後改善効果が示されている「β遮断薬」は「カルベジロール」と「ビソプロロール」の2剤です。どちらも2025年改訂のガイドラインで推奨されており、一律の使い分けルールは存在しません。
しかしながら、患者背景に応じた“適材適所”の選択が、治療効果と忍容性を高めるうえで重要です。
例えば、COPDや喘息の既往がある患者では、気管支収縮作用の少ないβ1選択性の高いビソプロロールが第一選択になりますし、血圧が高めの心不全患者では、α1遮断による末梢血管拡張作用をもつカルベジロールが適しているケースもあります。また、腎機能が低下している患者では、腎排泄型のビソプロロールは用量調整が必要になるため、腎機能障害の影響が少なく、肝排泄中心のカルベジロールが選ばれることがあります。