なぜ心不全治療薬に「SGLT2阻害薬」を使うのか?
「SGLT2阻害薬」といえば、糖尿病治療薬というイメージが根強いかもしれません。しかし、今やこの薬剤は心不全治療薬として第一選択薬になっており、「2025年改訂版 心不全診療ガイドライン」では、HFrEF(左室駆出率の低下した心不全)だけでなく、HFpEF(左室駆出率の保たれた心不全)にもクラス I 推奨となり、心不全治療薬の中心となりつつあります。
この記事では、薬剤師として押さえておきたいポイントについて、ガイドラインのアップデート内容、服薬指導時の注意点を中心に、現場目線で整理していきます。
なぜ心不全治療薬に「SGLT2阻害薬」を使うのか?
「SGLT2阻害薬」は、もともと糖尿病治療薬として開発されましたが、近年の大規模臨床試験(DAPA-HF、EMPEROR-Reduced、DELIVER、EMPEROR-Preservedなど)で、驚くべき「おまけ」の効果が明らかになりました。
それが、糖尿病の有無にかかわらず、心不全患者さんの再入院や心血管死を有意に減らす効果であり、この効果はHFrEFだけでなく、従来は治療薬の選択が限られていたHFpEFやHFmrEFにも及ぶことがEMPEROR-Preserved試験やDELIVER試験で証明されました。
これらの結果を受け、SGLT2阻害薬は心不全治療の基本薬として位置付けられています。
SGLT2阻害薬が心不全に効果を示す主な作用機序としては、腎臓でナトリウムとグルコースの排泄を促し、体内の余分な水分を減らして間質性浮腫を軽減する浸透圧利尿作用と腎保護効果、ケトン体の生成を促進し、心臓がより効率の良いエネルギー源を利用できるようにする心筋のエネルギー代謝改善が考えられています。
この他にも、糖代謝改善、ヘマトクリット上昇なども寄与する可能性が考えられており、多面的な作用が心不全改善に寄与すると考えられています。
心不全治療に使用する「SGLT2阻害薬」の特徴とは?
国内で心不全に適応を有する「SGLT2阻害薬」は、ダパグリフロジン(フォシーガ)およびエンパグリフロジン(ジャディアンス)の2剤です。
いずれも心不全の再入院・心血管死リスクの低減効果が確認されており、通常の用量は1日1回10mgとなっています。
なお、用法については相違点があり、ダパグリフロジン(フォシーガ)は「1日1回経口投与」と内服のタイミングに制限はありません。
しかし、エンパグリフロジン(ジャディアンス)は「1日1回朝食前又は朝食後に経口投与」と朝に限定されているため、注意が必要です。
心不全患者さんの中には慢性腎臓病を合併している方も多く、薬剤性の腎機能低下を避けるためにも薬剤の選択は慎重にならざるを得ません。
ですが、SGLT2阻害薬はeGFR 20mL/min/1.73m²以上での投与が可能とされており、腎機能が低下した患者さんでも比較的使用しやすいとされています。
ただし、フレイルの高齢者では、利尿作用による脱水や低血圧に注意が必要であり、患者さんごとの全身状態を踏まえた使用の判断と経過観察が求められています。
心不全治療で「SGLT2阻害薬」を服用する際の服薬指導のポイント
「SGLT2阻害薬」服用中の患者さんの服薬指導では、シックデイルールの徹底と副作用モニタリングが特に重要です。