循環器疾患について腎不全への理解 : 解答編
チーム医療の実践に関する知識を修得することで、臨床薬剤師の資質向上を目指します。事例検討を通して、治療、副作用マネジメント、チーム医療での薬剤師の関わりについて、様々な疾患を検討する連載コラムです。示された患者情報から後に続くQuestionを考えてみましょう。
更新日: 2019年6月20日 近畿国立病院生涯教育センター
チーム医療の実践に関する知識を修得することで、臨床薬剤師の資質向上を目指します。事例検討を通して、治療、副作用マネジメント、チーム医療での薬剤師の関わりについて、様々な疾患を検討する連載コラムです。示された患者情報から後に続くQuestionを考えてみましょう。
A.①または③
腎機能指標のgold standardは、イヌリンクリアランス測定によるGFR(糸球体ろ過量)ですが、一般診療では測定が困難であるため、イヌリンクリアランスに代わる指標として血清Cre値から換算する推算CCr・GFRが使用されます。まず、それぞれの腎機能指標の特徴について概説します。
① Cockcroft&Gault式によるeCcr(ml/min)
eCcr(ml/min) = (140-年齢) × 体重 × 0.85(女性)/ ( 72 × 血清Cr )
薬物の投与設計によく使用される腎機能指標ですが、身長が考慮されていないため、体重が2倍になると腎機能も2倍に推算されてしまうという欠点があり、
また、日本の血清Cr値は正確な酵素法によって測定されているのに対し、欧米では血清Cr値が0.2mg/dL高めに測定されるJaffe法(クレアチニンに特異的な反応ではなく、血清に含まれるピルビン酸、アスコルビン酸などの類似物質にも反応するためやや高値となる)によって測定されているため、ほとんどの医薬品の治験が欧米で行われていた多くの
②体表面積補正eGFR (mL/min/1.73m2)
eGFR (mL/min/1.73m2) = 194 × Cr -1.094 × Age-0.287 × 0.739(女性)
患者の体格を標準体格(例:身長170cm、体重63kg)の体表面積(1.73m2)に補正した場合の腎機能指標で、
CKD(慢性腎不全)の重症度診断に用いられます。
③体表面積未補正eGFR (mL/min)
eGFR (mL/min) = (mL/min/1.73m2) × { BSA/1.73m2 }
日本腎臓病薬物療法学会では、添付文書に記載されているCcrは、ほとんどがJaffe法により測定された血清Cr値によるものであり、Ccr(Jaffe法)はGFRに近似するため、薬物投与設計には、eGFR(mL/min)を使用するか、Cockcroft&Gault式の血清Cr値に【血清Cr値(酵素法)+ 0.2】 を代入して計算したeCCrの使用が推奨されています。
上記を踏まえ、回答は①または③となります。
① Cockcroft&Gault式による Ccr(ml/min)を使用する場合、患者はBMI:30.9の肥満体型であるため、理想体重または標準体重を代入します。
また、添付文書に記載されているCcr(Jaffe法)の読み替えのため、血清Crに【血清Cr(酵素法)+ 0.2】 を代入して計算します。
eCCr (ml/min) = | { (140 - 70) × 51.88 × 0.85 } ÷ { 72 × (1.59 + 0.2)} = 23.95ml/min |
理想体重(女性):45 + { 2.3 × (身長 - 152.4)/2.54 = 51.88kg |
③ eGFR (ml/min) は、患者の体表面積を代入して計算します。
eGFR (ml/min) = | 25.4 × (1.83 ÷ 1.73) = 26.91ml/min |
BSA (m2)= 体重(kg)0.425 × 身長(cm)0.725 × 0.007184 = 1.83m2 |
eCCr、eGFR < 30ml/minであるため、患者の腎機能は重度腎障害に分類されます。
※日本腎臓病薬物療法学会のHPに掲載されている「eGFR・Ccrの計算」を利用すると、腎機能推算値や理想体重等を自動計算することができます。
参考資料:日本腎臓病薬物療法学会「腎機能を正しく評価する10の鉄則」