「困ったら、一番に薬剤師を思い浮かべてほしい」
薬剤師が1日1回、患者さんに電話をかけ続けている理由
【茨城県】1985名の薬剤師が加盟する(2018年11月現在)茨城県薬剤師会の会長 根本清美氏に、調剤薬局勤務薬剤師のレポーターが話を伺いました。
医師数ワースト2位の県で、頼りになる薬剤師
──まずは茨城県薬剤師会(以下、県薬剤師会)の構成と、根本会長が就任されるまでのご略歴を教えてください。
茨城県薬剤師会は、全国47都道府県薬剤師会の一つであり、薬局開設者、薬局勤務薬剤師を始め、病院・診療所勤務薬剤師、製薬企業、医薬卸従事薬剤師、行政薬剤師など、様々な職種の薬剤師が加入している、薬剤師の職能団体です。
私自身、もともと勤務薬剤師としてチェーンドラッグストアの立ち上げに携わりました。40歳で独立、開局した際に県薬剤師会に入会し、その後医薬分業の委員、県薬剤師会の理事、常任理事、副会長を務め、平成14年より現職となりました。今では、47都道府県の中で、最も長く会長を務めている一人です。
茨城県は人口10万人当たりの医師数が180.4人で全国ワースト2位※です。そのため、医師以外の職種によるサポートが欠かせない医療環境となっています。この環境を生かし、薬剤師は調剤室で薬を渡すだけでなく、活躍の場を広げることで、自ら存在意義を示していく必要があるでしょう。
※厚生労働省平成28年(2016年)医師・歯科医師・薬剤師調査の概況より薬剤師が1日1回、患者さんに電話をかけ続けている理由
──薬剤師による取り組みの一つとして「1日1回、1人の患者さんに電話をかける」ことを県薬剤師会で推奨しているそうですね。
県薬剤師会では、10年前より、1日1回、1人の患者さんに電話をかける取り組みを推奨してきました。
全ての患者さんに連絡するなんて大変だから、自身が調剤した患者さんのうち1人、 気になる人に電話をかけて下さい、とお願いしているんですよ。1人に電話するだけなら、3分でできる。だけど、その3分で患者さんは安心できる。電話をかけてきてくれた薬剤師への信頼感も生まれるから、次に薬局に来た時にその薬剤師を探すようになる。
かかりつけ薬剤師指導料が始まった時、患者さんに電話番号を伝えることについて議論が起きていましたね。茨城県では今までにやっていたので動揺は少なかったですね。
信頼感があれば、患者さんからも薬剤師に連絡が来るようになります。ある薬局では、日曜日に、インスリンが足りないとの連絡が患者さんから入り、薬剤師から医師へ連絡し、対応したことがありました。患者さんと薬剤師の信頼関係もより強くなりますし、医師と薬剤師の信頼関係も生まれます。
第29回茨城県薬剤師学術大会で壇上に立つ根本氏
薬剤師の優しさに、県内8000人のインフル患者から感謝の声
2007年頃より、インフルエンザの時期には、薬の副作用による異常行動がニュースになっておりました。そのため、昨年、特に重点的に、インフルエンザ患者さんへの電話連絡を行うよう薬剤師会主導で声かけをしました。薬剤師会会員薬剤師から県内約8000人の患者さんに連絡をし、異常行動や副作用、体調変化の有無を確認しました。後日行った調査によると、電話が繋がったうち、90%以上の患者さんから感謝の声があったとのことです。
投薬時に説明した内容を薬歴に記録することも大事な仕事ですが、調剤した患者さんに後日電話をかけて、問題がなかったか確かめる方がより重要じゃないでしょうか。電話した時や投薬時の患者さんからの質問に答えるため、または患者さんに起きている問題を解決するため、資料を探す、周りの薬剤師に聞く、医師へ相談することが、一番の勉強になると思うんですよ。
災害時の公衆衛生を指導。いざという時、薬剤師の役割とは
県薬剤師会は、災害時、的確に行動できるよう、年1回、県の防災訓練に参加しています。災害が発生した際に、県内薬局の稼働状況や被災状況を確認することは、薬剤師会の役割の1つです。
また、茨城県では、県と医薬品卸売業者が災害時の協定を結び、消毒薬など、必要な薬を確保できる体制が整っています。いざという時、薬剤師は、費用の心配をせず、十分量の医薬品を確保することができます。
被災地において、都道府県や市区町村が、水害や炊き出しの衛生管理を行います。その際、指導・サポートすることも薬剤師の仕事です。薬剤師は、大学で公衆衛生について学んでいます。いざという時、活用できるように日頃から心構えが必要ですね。
就任歴現役最長の薬剤師会 会長が語る「理想の薬剤師像」
今の人は、風邪をひいたらすぐに医者にかかるでしょう。昔は、薬剤師に薬をもらって、それですませていました。薬を飲んだら様子がおかしい、飲んだ薬を吐いてしまった、飲み忘れてしまった、そういう事態は、本来薬剤師に相談すればいい。
1日1本の電話、災害時の対応、学校薬剤師としての活動等、患者さんとの信頼関係を作っていくんです。患者さんが何か困ったら、まず初めに薬剤師を思い出してほしい。そういう関係を築いていくことが大切ですね。
取材レポーターO の視点
薬を渡して終わりではなく、薬を渡した後のフォローこそ、薬剤師の専門職能を活かす場面だとの指摘もあります。
茨城県薬剤師会の提唱する1日1回1人への電話は、重要な取り組みだと思いました。お薬が変更になった後、副作用は起きていないか、薬は飲めているか、3分程度の電話が、患者さんにとって、非常に心強いことがあります。今後、私も自身の気になる患者さんに対して、後日電話をかけてみたいと思います。
レポーターO製薬企業、CROの勤務を経て、薬局勤務7年目の管理薬剤師。エビデンスをもとに、ポリファーマシー問題に対応したいと思っている。