薬剤師主導で、BZ、抗精神病薬の漫然投与を回避
医師、看護師とどう関わったのか?【茨城県薬剤師学術大会レポート】
『医師不足問題を抱える地方病院における病棟薬剤師の取り組み』発表者:井口 知美氏(鹿島労災病院)
「第29回茨城県薬剤師会学術大会(2018年11月18日開催)」に、現役・薬剤師レポーターが密着!今回のレポートは、薬剤師の井口 知美氏(鹿島労災病院)による口頭発表『医師不足問題を抱える地方病院における病棟薬剤師の取り組み』です。
夜間・休日医師1人体制で、看護師が患者の不眠・不穏に対応してきた鹿島労災病院。漫然投与を懸念した病棟薬剤師主導により、看護師と連携し、病棟患者の不眠時・不穏時指示薬の見直しを行った事例です。
きっかけは漫然投与の懸念から。依存性のある薬の見直しへ
薬剤師が主導となり、指示薬を見直すことになったきっかけについて、「当院では、夜間・休日は医師1人しかいないため、看護師が患者の不眠・不穏に対応しています。
医師の指示のもと、不眠に対し、ベンゾジアゼピン系(以下、BZ)睡眠薬を、不穏に対し抗精神病薬を投与しますが、その後漫然投与となってしまうことに懸念を感じていました。BZや抗精神病薬には依存性があり、なかなか中止できなくなります。そこで、病棟薬剤師主導により、不眠時・不穏時の指示薬の見直しを行いました。」と、述べた。
茨城県の中でも、鹿行医療圏は特に医師不足が深刻なエリア。「患者のために」という思いは共通。薬剤師と医師、看護師による連携が始まった。
『医師不足問題を抱える地方病院における病棟薬剤師の取り組み』発表資料より
毎朝のミーティング・回診に参加。「看護師も不安だった」
病棟内の看護師にアンケートを行った結果、すべての看護師が「夜間の不眠・不穏対応に不安を持っている」事が判明した。そこで、薬剤師から看護師への教育研修を実施したという。
「スボレキサント、抑肝散の作用や、BZ、抗精神病薬の副作用について共有。看護師から薬剤師に相談しやすくなったという意見を多数いただき、毎朝のチームミーティングや回診に薬剤師も参加するようになりました。」こうして、医師と薬剤師が頻繁に意見交換をする体制が構築された。
提案薬が選択肢の1つに。処方頻度に変化
薬剤部にて不眠にはスボレキサント、不穏には抑肝散を投与するという案を作成し、医局会に提案を行った。「使用経験が少ないため、現在の指示薬を提案薬に変更する了承は得られませんでしたが、指示薬の種類を増やし、選択肢の一つとして提案薬を追加する了承を得ることができました。」
その結果、「入院患者に対する睡眠薬処方状況は、2017年上半期はゾルピデム、ブロチゾラム、ニトラゼパム、スボレキサントという順で処方量が多かったものが、2018年上半期には、スボレキサント、ゾルピデム、ブロチゾラム、ニトラゼパムの順となり」全体の対象薬剤処方量は減り、スボレキサントの処方量が増加した。
「抑肝散・リスペリドン内服液処方状況についても、2017年上半期にはリスペリドン内服薬1㎎、リスペリドン内服薬0.5㎎、抑肝散の順でしたが、2018年上半期には、抑肝散の処方頻度が増え、86%以上が抑肝散となりました。」病棟内の問題に対し、薬剤師主導の取り組みから、指示薬の処方頻度が変更となった事例だ。
シリーズ 地域の取り組み最前線
新たな地域医療「地域包括ケアシステム」で重要な役割を期待される薬剤師。すでに様々な団体が地域・多職種連携を強める活動を行っています。
薬剤師コラム「地域の取り組み最前線」では各種団体・地域のユニークな取り組みを紹介します。
取材レポーターO の視点
医師にも薬を減らそうとしている、志の高い先生がいらっしゃいます。薬剤師にも、薬が過剰である、不要な薬が処方されている、副作用の可能性がある薬が処方されている等の印象を持ちながら調剤している先生も少なくありません。2018年度改定にて、調剤で服用薬剤調整支援料、医科で薬剤総合評価調整管理料、連携管理加算が新設され、薬剤師による処方提案が評価されるようになりました。それでもまだ、処方提案自体がなかなか浸透しない、提案しても処方変更されない、という実態があります。
レポーターO今回の取り組みは、薬剤師と医師、看護師との継続的な意見交換、薬剤師による患者さんの状態確認により医師、看護師との信頼関係構築し、BZ、抗精神病薬処方減少に成功した好事例だと思いました。
製薬企業、CROの勤務を経て、薬局勤務7年目の管理薬剤師。エビデンスをもとに、ポリファーマシー問題に対応したいと思っている。