薬学生が直面する現実「薬の先に人の命がある」
近畿大学薬学部 伊藤教授に聞く!薬剤師の心構え
2006年から全国の薬学部で教育課程が見直され、医学部と同じ6年制が導入されました。近年、かかりつけ薬剤師や地域連携、多職種連携など、薬剤師を取り巻く環境が大きく変化し続けています。今、薬剤師になるために、何を身につけることが求められているのでしょうか。今年から近畿地域で始動する先進的な実習の取り組みや、今後、薬剤師が直面する課題などを、近畿大学薬学部医療薬学科の伊藤栄次教授に、薬剤師レポーターが質問しました。
薬局と病院それぞれで11週間の実習
──近畿大学薬学部独自の実習・取り組みがあると、大阪府薬剤師会の方に伺いました。
本学(近畿大学薬学部)1年次の早期体験学習で、大阪府薬剤師会館の中を見学させてもらっています。大阪府薬剤師会館の職員の方が、薬剤師会の取り組みや、薬剤師の役割など、実体験をもとに、学生に話をしてくれています。
また、2019年2月から、病院・薬局実務実習近畿地区調整機構と地域の薬剤師会と協力して、5年次の実務実習体制を改変する準備を進めています。
──実習体制の改変とは、具体的にどのような内容でしょうか?
薬学教育が6年制になって、学生は、薬局と病院それぞれで11週間の実習を受けることになりました。
今回、近畿地域で始動した取り組みは、薬局と病院が連携して、重複した実習内容を省き、より「薬局ならでは、病院ならでは」の経験ができる、質の高い実習環境を作ろう、という動きです。
指揮をとる、病院・薬局実務実習近畿地区調整機構と地域の薬剤師会が中心となって、連携する薬局と病院を、地域毎でグループ化しました。現場の先生方は、最初はかなり苦労されている様子でしたが、徐々に、連絡を取り合って、連携体制ができてきているようです。
モデルケースとして、大阪府の八尾市立病院のケースがあります。八尾市薬剤師会の協力のもと、八尾市薬剤師会会員の薬局が八尾市立病院と連携しています。(※)
八尾市立病院は、八尾市医師会や八尾市歯科医師会、八尾市薬剤師会と協力し、「病診薬連携システム」を構築しています。(八尾市立病院HPより)
──学生実習が、病院と薬局が繋がる病薬連携のきっかけになるかもしれないですね。
はい。学生実習をきっかけに、地域で薬局×病院×薬剤師会のグループができて、それが今後の、実務運用における連携に繋がることもあると思います。これまで以上に薬局と病院の間で、緊密に連絡を取るようになっていますからね。
薬学生が直面する現実。グリーフケアの必要性
──薬学生は何を身につけることが期待されますか。
薬学生の中には、薬=モノ視点から出発していて、患者さん=人の命、という意識が薄い学生もいます。入学したばかりの学生に、「薬の先に人の命があるよ」と言うのですが、ピンとこないようで。薬をお渡しした後、それが患者さん=人の体の中に入っていくのだ、人の命に関わっている、ということを意識して欲しいと思っています。
──「薬=モノ」を扱う視点で入学した学生には、ギャップが大きい気がしますが。
そうですね。社会に出て、在宅に行き始めると、人の死に直面することが出てくると思います。人が亡くなる、その現場に入ることがある。薬学部で一番欠けていることは、グリーフケアだと私は思っています。
薬学部で、そこまで扱っているところは日本にはほとんどありません。けれども、そのあたりまで踏み込んでおかないと、これからの在宅や、薬剤師に求められている役割を担うには、足りないのではないかな、と思っています。
伊藤教授が思う薬剤師の心構え「人の命を意識して」
──現役薬剤師に伝えたいことはありますか。
薬というのはモノでありながら、人の命につながっています。患者さんの体の中に入るモノなので、いつも命というものを意識してもらえればと思います。また、在宅医療も今後必要とされてくるでしょう。そのときには、薬剤師も人の死と向かい合うことがあります。薬剤師は医療者としての自覚を持ち、薬を渡すだけではなく、患者さんに向き合うことを考えていただきたいです。
シリーズ 地域の取り組み最前線
新たな地域医療「地域包括ケアシステム」で重要な役割を期待される薬剤師。すでに様々な団体が地域・多職種連携を強める活動を行っています。
薬剤師コラム「地域の取り組み最前線」では各種団体・地域のユニークな取り組みを紹介します。
取材レポーターI の視点
薬学部の先生から、グリーフケアという言葉が出てきたのには、大変驚きました。伊藤教授の深い洞察には感激します。
レポーターI患者やその家族から、医師・看護師と並ぶ医療人として認識してもらうことが、今後の薬剤師には必要不可欠です。しかし、患者とのコミュニケーション教育、と言っても、患者への接遇、という段階に留まることが多いのが、薬学教育の現状です。伊藤教授のお話のように、患者のためにも、また薬剤師自身のためにも、人の命・生き死に、に向き合える力をつける教育を構築していくことが今後の薬学教育の課題だと思いました。
薬剤師及び臨床心理士の資格を有する。製薬企業や病院の心理判定・心理療法などに従事したのち、教育の道へ。現在は薬学部と人文学部で指導にあたっている。