漢方における体質の捉え方〜体質改善法
薬剤師のための中医学の基礎、第4回は、漢方における体質の分類をお届けします。多くの体質が出てきますが、特徴、改善法はそれぞれ違うので間違えないようにしましょう。
参考文献
「体質改善のための薬膳」 辰巳洋監修 日本国際薬膳師会編著 緑書房
「実用 体質薬膳学」辰巳洋著 東洋学術出版社
「体質・症状別薬膳の実践」東京カルチャーセンター
漢方では体質の分類に「陰陽学説」「五行学説」「気血津液」を使う
中医学でいうところの体質の分類方法ですが、これまで「漢方に関する基礎知識シリーズ」で述べてきた「陰陽学説」「五行学説」「気血津液」などの考え方を用います。
漢方の基礎知識をおさらいしよう!
(図1:体質の分類)
体質は「良質な体質」「虚性体質」「実性体質」「複合体質」の4種類に大きくわけられます。さらに「虚性体質」は「気虚体質」「陽虚体質」「血虚体質」「陰虚体質」の4種類、「実性体質」は「陽盛体質」「痰湿体質」「気鬱体質」「血瘀体質」の4種類にわけられます。(図1参照)複合体質は「虚性体質」と「実性体質」の複合ですが、少し複雑なので割愛し、ここでは「虚性体質」と「実性体質」について解説したいと思います。
はじめに、中医学の考え方において人間は自然界の中の一部と考えられています。良質な体質を維持するためには地球環境にあった食生活をし、自然の規則にのっとった生活を営むことが大切だと考えられています。それゆえ、季節、年齢、環境の変化に合わせた食事をすることで「良質な体質」を維持できると考えます。
一方、良質ではない体質のうち「虚性体質」とは、体に必要な要素が虚=不足している状態です。「実性体質」とは逆に臓腑の働きが旺盛で、水の停留や気・血のめぐりの渋滞などが現れる体質のことを指します。
漢方における虚性体質の特徴
まずは必要な要素が不足している「虚性体質」に属する4つの体質を見ていきます。
ひとつ目の「気虚体質」とは、気(「気・血・津液」のところでも触れているようにエネルギーや元気の元)が不足している状態の人のことをいいます。疲れや臓腑の働きが悪くなった時などにこの体質になる傾向がみられるほか、おびえやすい性格の人にも表れやすい体質です。
症状としては疲れやすい、声の小ささ、汗のかきやすさ、息切れ、食欲不振、むくみ、めまい、下痢や軟便、尿漏れなどがあげられます。女性では月経が早くくる、出血量が多い、月経痛がひどい、また不正出血があるなどの症状がみられる傾向にあります。またこの体質の人は風邪をひきやすいのも特徴です。「気虚体質」に属する人は気を補うために消化吸収を助ける食事などをとるようにして、体質を改善していくとよいでしょう。
ふたつ目は「陽虚体質」の特徴ですが、臓腑の働きが「気虚体質」よりさらに弱まり、陽が不足し、体の冷え、痛みといった症状が現れてくるようになった体質を言います。遺伝によるものや慢性病、加齢などによって引き起こされることもあります。
症状としては、手足や体の冷え、筋肉のたるみがみられます。物静かな性格の人に多いとされ、基礎体温が低い人もこの体質を疑ってください。
陽が不足しているので、温かいものを好む傾向があります。また目の周囲の色が暗く、抜け毛の増加、むくみや腰痛などが現れたりします。女性には生理不順もみられます。「陽虚体質」の人は体を温める食事をし、冷たいものや生ものは避ける方がよいでしょう。
3つ目は「血虚体質」ですが、血の量が不足し、また質も低下している状態のことを示します。栄養が体全体に行きわたらないので、出血や消化器官の疾病などが原因と考えられます。
症状にはめまいやたちくらみがあり痩せ型の人に多いとされます。この体質の人も温かいものを好み、性格的には内向的な性格の人やちょっとしたことで不安になる人が多いようです。この体質の人には、睡眠がうまく取れないといった症状や目や皮膚の乾燥がみられたりします。女性では月経が遅れたり、出血量が少ない、月経後に月経痛が起こったりするなどの症状が現れます。「血虚体質」の人は血を補ったり、気を補ったりするような食事をすることが改善のためにはよいでしょう。
4つ目は「陰虚体質」です。血、津液、精などの体を潤しながら養うとされる陰液が不足していて、体に虚熱があるような状態の人の体質をいいます。更年期の女性がこの症状をよく呈します。またほかには喫煙、飲酒、刺激の強い食事などが影響して起こるといわれています。
痩せている人に多くみられ、手足のほてりやのぼせを感じる人、寝汗を多くかくような人はこの体質を疑ってみてください。またせっかちな人の多くがこの体質に属する傾向があるようです。ほかにも便の乾燥や、尿の減少といった傾向があります。女性では月経が早くきたり、出血の色が赤かったりといった状態がみられます。
体が熱いので冷たいものを好み、体内の水分が少ないため、唾などの減少があります。「陰虚体質」の人は中医学でいうところの体の熱を冷ますような食事、栄養分を補いような食事をすることによって改善がみられることがあります。
特徴 | 症状 | 対応 | ||
---|---|---|---|---|
虚性体質 | 気虚体質 | 気(エネルギーや 元気)が不足 |
疲れやすい、汗が 出やすいなど |
消化吸収の よい食事 |
陽虚体質 | 体が冷えて 痛みが出る |
冷え、筋肉の たるみなど |
体を温める 食事 |
|
血虚体質 | 血が不足 | めまい、 たちくらみなど |
血や気を 補う食事 |
|
陰虚体質 | 陰液が不足し、 虚熱がある |
手足のほてり、 寝汗など |
体の熱を 冷ます食事 |
|
実性体質 | 陽盛体質 | 臓腑の 働きが盛ん |
呼吸があらい、 にきびができるなど |
体の熱を 冷ます食事 |
痰湿体質 | 津液、水分の 代謝が低下 |
むくみ、痰が でるなど |
水分を 出す食事 |
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気鬱体質 | 情緒の抗うつで 気の巡りが滞る |
顔色が悪い、 食欲がないなど |
肝の働きをよく する食事 |
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血瘀体質 | 血が滞り やすい |
物忘れ、 乾燥肌など |
血の流れを よくする食事 |
(図2:体質別の特徴まとめ)
臓腑の働きが盛んになっている実性体質の特徴
では、次に臓腑の働きが盛んになっている「実性体質」の4つの体質についてみていきたいと思います。
ひとつ目は「陽盛体質」の特徴ですが、この体質の特徴は臓腑の働きが盛んで、陰陽のバランスが崩れてしまっているのですが、陽が強くなっているために熱が体内にこもっているような状況です。
この体質は興奮しがちでせっかちな性格の人によく見られます。見た目が強そうで、がっしりタイプの人に多い体質だと思ってください。冷たいものや脂っこいものを好む傾向にあり、呼吸もあらく、汗をかきやすくにきびができやすい人が多く、歯茎の出血、痛みなどが見られることがあります。便のにおいが強い人、便秘がちの人もこの体質に多くみられます。「陽盛体質」の方は、体内の熱を冷ます食材をたべるようにすると体質が改善することがあります。また日常生活においてなるべく穏やかに過ごすことを意識するようにするとよいでしょう。
ふたつ目の「痰湿体質」についてみていきます。「痰湿体質」とは、津液の代謝の機能が低下しているため、水の流れが滞り、体内にとどまっている状態を指します。
食べたものが消化できずに胃腸にとどまり、また、体内に水がとどまることが原因となる場合があります。ほかにも気鬱体質で気の流れが滞り、水分の代謝機能が弱まることによって生じることもあります。
少し肥満気味で下半身にむくみのある人、痰が多い人にこの体質の人が多くみられます。顔色が黄色っぽく、脂っこいものや甘いものを好む傾向にあります。発汗過多で胸がつかえる症状を訴える人が多くみられます。尿は少なく濁っていて、下痢しがちの人が多いのもこの体質の特徴です。また睡眠にも影響が出やすく寝返りが多く、朝すっきりしない人などがこの体質に分類されるかと思います。「痰湿体質」の人は、余分な水分を外に排出するような食事を心がけ、甘いもの脂っこいものは控えることをおすすめします。
3つ目の「気鬱体質」は、情緒の抑うつ状態が長くなったり、気分がすぐれない状態が続くことにより気のめぐりが滞ったりが原因として起こります。また、過度のストレスや精神的な疲れにより臓器の働きが低下することにより引き起こされる場合があります。
神経質で、いろいろなことに敏感に反応する人にこの体質の人が多くみられます。顔色が暗く、食欲はあまりなく、表情に乏しいこともこの体質の人にありがちです。げっぷやしゃっくりをよくし、のどやお腹がつかえているような感じを持っていたりします。「気鬱体質」タイプの人には気のめぐりをよくし、肝の働きをよくする食事を心がけることが大切です。
4つ目の「血瘀体質」の特徴ですが、血が滑らかに流れず、滞りやすい体質をいいます。目の周囲の色が黒っぽく、内向的でイライラしている人に多くみられます。
物事を忘れやすく、肌は乾燥していて、あざができやすく、シミがあるのもこの体質の人によくみられる症状です。また、爪の色や唇の色が悪い人、舌の裏側の血管が太く浮き出ている状態の人は「血痰体質」を疑いましょう。血が滞っているということは、血の流れをよくするような食事を心がけるのが大切です。
駆け足で8つの体質の特徴を述べてきました。薬剤師の方には、患者さんが自らの体質を理解し、良質な体質に少しでも近づけるようにしていってもらえるようにアドバイスをお願いします。
<監修者プロフィール>
孫 華麗東洋医学健康会 神戸中医学院・院長
北京中医薬大学卒業 医学学士学位取得
中国中医科学院大学院卒業 医学修士取得
元中日友好病院中西医結合腫瘍科の医師、中医学と西洋医学を融合して癌の治療に従事。
来日後、東洋医学専門学校の講師となり、東洋医学健康会の開設を行う。