在宅患者訪問薬剤管理指導料の算定要件は?在宅医療での薬剤師の役割を解説!

高齢化が進む中、利用する患者が年々増えてきている在宅医療。今や薬局で働いている薬剤師も、一度は在宅業務を経験したことがある方が多いと思います。しかし意外と在宅患者訪問薬剤管理指導料の算定要件や、居宅療養管理指導費との違い等について正しく理解できていない方もいるのではないでしょうか。実際にどのような流れで在宅患者訪問薬剤管理指導料が算定されるのかにもついても詳しく解説していきますので、この記事を読んで正しく理解していきましょう。
在宅患者訪問薬剤管理指導料とは
在宅患者訪問薬剤管理指導料とは、外来の患者とは異なり、自力での通院が難しく、在宅で療養を続けている方に対して、薬剤師が定期的に患者の自宅を訪問し、薬歴管理や服薬指導などを行ったときに算定できる薬学管理料です。
継続的な訪問薬剤管理指導が必要と認められた患者に対してのみ算定が可能なため、実施の可否については一定の条件があります。
在宅患者訪問薬剤管理指導料の算定要件
在宅患者訪問薬剤管理指導料の主な算定要件は、医師の指示のもと患者の自宅を訪問し、必要な薬学的管理や指導を行うことです。
詳細な実施事項については後ほど解説しますが、まず初めに対象患者や算定点数について詳しくお伝えします。
算定対象患者
在宅患者訪問薬剤管理指導料の対象となるのは、以下の3つの条件を満たす患者です。
① 独歩での定期的な通院が困難な患者
一人で歩いて通院ができない患者や、家族・ヘルパー等のサポートが必要な患者は定期的な訪問薬剤管理指導の必要性があるとして、算定対象となります。
② 在宅で療養を行っている患者
自宅で療養を続けている方が対象となり、この場合サービス付き高齢者向け住宅などに入所している患者の多くも対象です。
③ 患者の自宅と調剤薬局の距離が16km以内の場合
基本的には、患者宅の近隣の薬局が訪問薬剤管理指導を行いますが、もし16km圏内に在宅患者訪問薬剤管理指導料の届出をしている薬局がない場合は、16km以上離れた薬局でも算定が可能です。
これらの算定要件に基づき、以下のような場合は算定対象となりません。
在宅患者訪問薬剤管理指導料の算定対象外の患者
- 医師や薬剤師の配置が義務付けられている病院、診療所、施設等に入院・入所している患者
- 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)に入所している患者
(末期の悪性腫瘍の患者に限り算定可能) - ほかの医療機関や薬局の薬剤師が訪問薬剤管理指導を実施している患者
- 継続的な訪問薬剤管理指導の必要のない患者
- 自分で来局できる患者
参照:要介護被保険者等である患者について療養に要する費用の額を算定できる場合 平成20年3月27日 厚生労働省告示第128号/厚生労働省
参照:特別養護老人ホーム等における療養の給付(医療)の取扱いについて 平成18年3月31日 保医発第0331002号/厚生労働省
参照:調剤報酬点数表に関する事項/厚生労働省
算定点数
在宅患者訪問薬剤管理指導料は1〜3の3区分あり、単一建物の患者数によって算定点数が定められています。また、オンライン服薬指導を行った場合も指導料が算定可能です。
区分 | 単一建物診療患者数 | 算定点数 |
① 在宅患者訪問薬剤管理指導料1 | 1人 | 650点 |
② 在宅患者訪問薬剤管理指導料2 | 2〜9人 | 320点 |
③ 在宅患者訪問薬剤管理指導料3 | 10人以上 | 290点 |
④ 在宅患者オンライン薬剤管理指導料 | 規定なし | 59点 |
単一建物診療患者数とは
点数算定の際の基準となる、「単一建物診療患者数」とはどういったものでしょうか。
それは、「同じ建物に住んでいる人のうち、当該薬局が訪問薬剤管理指導を実施している患者の人数」のことです。自宅やサービス付き高齢者向け住宅など、建物ごとに何人訪問薬剤管理指導を行っているかによって算定できる区分が変わります。
基本的に、一人暮らしの患者宅に訪問する場合は全て在宅患者訪問薬剤管理指導料1を算定しますが、以下のような特殊な場合も含まれることを覚えておきましょう。
【在宅患者訪問薬剤管理指導料1を算定する特殊な場合】
- 夫婦2人に算定する場合は2人とも在宅患者訪問薬剤管理指導料1 (650点×2)
- 患者数が建築物の戸数の10%以下の場合
- 建築物の戸数が20戸未満で、患者数が2人以下の場合
※ユニット数が3以下の認知症対応型共同生活介護事業所については、ユニットごとの算定人数を単一建物診療患者の人数とみなす。
算定上限回数
在宅患者訪問薬剤管理指導料は月の算定回数に上限があるため注意が必要です。
- 月に4回まで算定可能(中6日以上空けること)
- 以下の患者に対しては週2回、月8回まで算定可能
末期の悪性腫瘍の患者
注射による麻薬投与が必要な患者
中心静脈栄養法の患者 - 保険薬剤師1人につき、①〜④合わせて週40回まで算定可能
2024年度診療報酬改定における在宅医療に関わる変更点について詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
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在宅訪問薬剤管理指導料と併算定できないもの
在宅訪問薬剤管理指導料と併算定できない項目がありますので、算定の際は注意しましょう。
【同時算定できないもの】
- 重複投薬・相互作用等防止加算
- 外来服薬支援料1
- 服薬情報等提供料1、2、3
【同月内に算定できないもの】
- 服薬管理指導料と加算項目
- かかりつけ薬剤師指導料
- かかりつけ薬剤師包括管理料
- 重複投薬・相互作用等防止加算
- 外来服薬支援料1
※外来服薬支援料1以外の薬学管理料は、薬学管理指導計画書に関わる疾患以外の処方(怪我や風邪といった臨時処方等)の場合は同一月であっても算定可能。
在宅患者訪問薬剤管理指導算定の流れ
ここでは、実際に在宅患者訪問薬剤管理指導料を算定するまでの一連の流れを確認していきます。単に患者宅を訪問し、服薬指導を行うだけでは、在宅患者訪問薬剤管理指導料を算定することはできませんので、以下の流れを実施するようにしましょう。
1)あらかじめ地方厚生(支)局長に届出を行う
在宅患者訪問薬剤管理指導料を算定するにあたって、あらかじめ地方厚生(支)局長に在宅患者訪問薬剤管理指導を行う旨の届出をする必要があります。
薬局の名称、所在地、開設者の氏名を提出するのみになっていますので、医師から依頼を受けたときにいつでも訪問を開始できるよう、事前に届出を行っておきましょう。
2)医師からの指示を受け、薬学的管理指導計画書を作成する
医師から訪問薬剤管理指導の指示を受けたら、薬学的管理指導計画書を作成する必要があります。これは、処方医からの情報提供に基づいて、実際に薬局が実施していく薬学管理や指導内容、訪問回数、訪問間隔などを計画するものです。
患者宅を訪問する際には、この薬学的管理指導計画をもとに、必要な管理や指導を行っていくため、非常に重要なものになります。また、処方薬の変更や体調変化、他職種からの情報提供があった場合など、薬学的管理計画に変更が必要になった場合はその都度対応します。
少なくとも月に1回は見直し、常に患者にとって最適な薬学管理を提供できるよう計画を立てていきましょう。
3)患者宅を訪問し、薬学的管理指導を行う
患者宅を実際に訪問し、事前に立てた薬学的管理指導計画をもとに必要な服薬指導や支援を行います。また、患者の服薬状況、薬剤保管状況、残薬の確認も重要です。
患者宅に訪問し生活の様子を観察することで、健康管理に関わるあらゆる情報を得ることができるので、注意深く確認し、必要であれば他職種に報告しましょう。
※調剤を行っていない月に訪問薬剤管理指導を実施した場合は、調剤年月日及び投薬日数を調剤報酬明細書の摘要欄に記入する必要あり。
4)薬歴に必要事項を記載し、薬学管理指導計画の見直しを行う
訪問後は、訪問内容に関して薬歴に記載を行い、必要に応じて薬学管理指導計画の見直しを行いましょう。
在宅患者訪問薬剤管理指導料の算定に必要な薬歴への記載事項は以下の通りです。
- 訪問の実施日、訪問した薬剤師の氏名
- 処方医から提供された情報の要点
- 訪問に際して実施した薬学的管理指導の内容
- 処方医に対して提供した訪問結果に関する情報の要点
- 他職種との情報共有事項があればその内容
参照:調剤報酬点数表に関する事項 薬学管理料の通則(4) 令和6年3月5日/厚生労働省
5)訪問結果について、医師に文書で情報提供を行う
訪問後は処方医に対して、文書で訪問結果についての情報提供を行いましょう。
決まった様式はありませんので、店舗で採用している報告書に則って作成すれば問題ありません。一般的には以下のような内容を記載している例が多いです。
- 薬局の情報
- 患者基本情報
- 訪問回数
- 服薬管理者
- 管理方法
- 調剤方式
- 併用薬
- 特記事項
- 次回訪問予定日
必要に応じて処方医以外の医療関係職種にも情報提供を行いましょう。
在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料とは
在宅で療養する患者の急変などにより、定期訪問の予定とは別に患者宅を訪問した場合に、在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料を算定できます。3区分に分かれており、緊急で訪問した場合は、以下の点数が算定可能です。
① 在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料1 500点
計画的な訪問薬剤指導に係る疾患の急変
例)降圧剤を服用中の患者が急な血圧低下により、減薬の必要が出た場合
② 在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料2 200点
1以外の場合
例)風邪症状、怪我などによって臨時薬が処方になった場合
③ 在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料3 59点
オンライン服薬指導を行った場合
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在宅患者訪問薬剤管理指導料と居宅療養管理指導費の違い
在宅医療を行う場合に算定できる点数には、在宅患者訪問薬剤管理指導料だけではなく、「居宅療養管理指導費」というものもあります。基本的にどちらも患者宅を訪問し、必要な薬学的管理・指導を行うという点では、実施することは大きく変わりありませんが、重要な違いもありますので理解しておく必要があります。
最大の違いは医療保険・介護保険のどちらを使用するか
在宅患者訪問薬剤管理指導は医療保険、居宅療養管理指導は介護保険を利用したサービスである点が最大の違いです。
居宅療養管理指導の対象となる患者は、要介護認定を受けた患者であり、認定を受けていないが、訪問薬剤管理指導の必要がある患者は在宅患者訪問薬剤管理指導を受けることになります。
また、要介護認定を受けている患者に在宅医療の必要がある場合は、介護保険が優先となるため、居宅療養管理指導を行うことになります。
居宅療養管理指導の算定単位について
居宅療養管理指導に関しても、単一建物居住者数に応じて算定単位が変わります。
単一建物居住者数 | 薬局の薬剤師 | 病院/診療所の薬剤師 |
1人 | 518単位 | 566単位 |
2〜9人 | 379単位 | 417単位 |
10人以上 | 342単位 | 380単位 |
参照:令和6年度介護報酬改定における改定事項について/厚生労働省
在宅患者訪問薬剤管理指導に関する疑義解釈
- 「在宅療養を担う保険医療機関の保険医と連携する他の保険医については、担当医に確認し、薬学的管理指導計画書等に当該医師の氏名と医療機関名を記載すること」とあるが、担当医への確認は、在宅療養を担う保険医療機関の保険医と連携する他の保険医の求めにより、患家を訪問して必要な薬学的管理指導を行った後に行ってもよいか。
- よい。なお、この場合においては、薬学的管理指導の実施後に担当医への情報提供を行う際に確認を行うこと。
出典:疑義解釈資料の送付について(その1)令和4年3月31日/厚生労働省
- 在宅患者訪問薬剤管理指導における医師の指示は、どのような方法で行えばよいか。
- 医師による訪問の指示については、診療状況を示す文書、処方箋等(電子メール、FAX等によるものを含む。以下「文書等」という。)に、「要訪問」「訪問指導を行うこと」等の指示を行った旨が分かる内容及び処方日数を記載することにより行われる必要がある。ただし、処方日数については、処方から1か月以内の訪問を指示する場合は記載されている必要はなく、緊急やむを得ない場合においては、後日文書等により処方日数が示されていればよい。
出典:疑義解釈資料の送付について(その1)令和4年3月31日/厚生労働省
- 在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料における「状態の急変等に伴い」には、化学療法の副作用対策としての支持薬処方、状態変化に伴う処方変更など、今後の継続的な薬物療法に影響を及ぼすことが想定される場合は該当するか。
- 当該患者の在宅療養を担う保険医療機関の保険医又は当該保険医療機関と連携する他の保険医療機関の保険医の求めがある場合には、該当する。
出典:疑義解釈資料の送付について(その1)令和4年3月31日/厚生労働省
地域の医療を支える一員として役割を果たしていきましょう
在宅医療の利用者は年々増え続けており、今後ますます重要となっていく制度と言えます。算定要件を正しく理解し、患者に寄り添った薬学管理・指導を行うことで、よりよい在宅医療の提供につながります。薬剤師としての専門性を活かし、医師や他職種との連携をおこなっていくことで、地域医療を支える一員として、患者一人ひとりが自宅にいながらも安心して受けられる医療を提供していきましょう。