接客が苦手な薬剤師のための「コミュニケーション術」

更新日: 2021年6月4日 小原 一将

まずは第一歩!患者さんは「ここ!」を見ている

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せっかく豊富な知識や経験があるのに「コミュニケーション」が苦手で、なかなかうまく患者さんに接することができない、地域医療に貢献することができない・・・そんな悩みを抱えている薬剤師は多いと思います。話し方や接し方が上手で、多くの患者さんの心を掴む薬剤師、医師や看護師からも頼られる薬剤師、地域イベントで人気の薬剤師と、いったい何が違うのでしょうか。
そこには、”埋めることができないほどの大きな溝”はありません。実は、ほんのちょっとの心がけ、ほんのちょっとの工夫で、相手に与える印象は大きく変えることができるのです。
そこで本連載では、様々な職種の「接客の達人」に、薬剤師にこそ取り組んでほしい接客のコツを色々と語っていただきます。コミュニケーションに苦手意識を抱いている人は、ぜひ真似できるところから業務に取り入れていただければと思います。

スタイリストの髙野さんに聞く、薬剤師の「外見力」

「コミュニケーション」と「外見」はあまり関係ないようにも思えますが、実はそうでもありません。
ここで極端な例ですが、①ネクタイをせず、白衣もズボンもブカブカで、襟や袖周りが汚れている薬剤師と、②着丈にあった服装で清潔感のある格好をしている薬剤師が、服薬指導で全く同じことを言っていたとします。どちらの服薬指導に、より説得力を感じるでしょうか。
「意外と見られているのが”薬剤師の身だしなみ”」

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恐らく、多くの人が②後者の服薬指導と答えるでしょう。
いくら豊富な知識があって、丁寧な話し方ができていたとしても、「外見」が整っていないと、その良さを十分に活かし切れないことになってしまう…ということです。そういった意味で、自分が相手からどんな風に見られているのか、接客の際の自らの「外見」を意識することはとても重要と言えます。
そこで今回は、アパレル業界に16年携わり、現在南麻布でスタイリストとして活躍されている髙野大輝さんに、薬剤師という医療職が意識したい接客の”コツ”や”心構え”を、服装の観点から伺いました。

自分の着ている服のケアを始めることが重要

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小原

薬剤師の「外見」って意識されますか?

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髙野

職業柄、わりと意識しますね。ビシっと白衣を着こなしておられる方は、やっぱりかっこよく見えます。

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小原

かっこよく見える薬剤師に、対応してもらいたい?

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髙野

整った身なりの方に説明をしてもらえると、説得力は違いますよね。

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小原

そういえば、とある学会に参加した際、凄く良いことをお話されている先生にお会いしたのですが、もう少しスーツをこう、パリッと着るともっと説得力が増すというか、良い印象を与えられるのにもったいないな・・・と感じることがありました。

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髙野

お話の中身は素晴らしいのに、そこで損をしてしまうのはもったいないですね。

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小原

白衣やスーツの”見栄え”を意識する習慣がない薬剤師も多いのかもしれませんが、そういった人は何から取り組み始めるのが良いでしょう?

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髙野

まずは、「洋服のケア」をしていくことが重要になると思います。白衣であればシワをきちんと伸ばしてからハンガーにかける、定期的にクリーニングに出す、スーツであれば着た後にブラッシングをする、靴を磨く、シャツのアイロンをあてる・・・といったことです。

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小原

なるほど、そういったことでまず自身の外見に興味を持つ、ということですか?

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髙野

そうですね。洋服のケアをするようになると、「ここがほつれているな」とか「ここが汚れているな」といった、服の傷みや汚れに気付くようになります。そうすると、自分がこれまで気にしていなかった”服の見え方”を意識するようになり、その服を着る自分が”他人にどのような印象を与えているか”を考えるようになります。

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小原

確かに、まずは自分の服装がどんな印象を与えているのか、それを客観的に知ることが第一歩ですね。

薬剤師には白衣というユニフォームがあるため、外見や服装についてあまり議論することがないかもしれません。しかし、薬剤師の外見や服装は服薬指導の説得力に影響することもあります。自分の説得力にいまいち自信のない人は、自分の「洋服のケア」にも取り組んでみてはいかがでしょうか。

チームとして統一感をもたせる

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髙野

薬局ということであれば、スタッフの方に”統一感”もあると良いですね。

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小原

外見での統一感ですか?

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髙野

そうです。私が好きな香水屋さんは、スタッフ全員が同じ色の服を着ていて、店舗全体がピシッと締まっている印象を受けます。スタッフの外見に”統一感”もあり、誰に何を尋ねても高い専門性で回答してくれることと相まって、気分が良いです。

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小原

スタッフの質と統一感で、良い雰囲気を作り出せているのですね。

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髙野

はい。そして”統一感”があることによって、チームとしてもまとまりがあるように見えるようになります。薬局でも、事務員と薬剤師の役割は違っていても、「薬局というチーム」として患者さんに安心感を与える、ということが実現できると思います。

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小原

なるほど、患者さんにとって「あの薬剤師さんは・・・」という印象と同じように、「あの薬局は・・・」というチームとしての印象もとても大事ですね。自分1人だけで取り組むよりも、スタッフみんなで取り組めた方が効果がありそうです。

「外見」と言われると、どうしても自分1人の外見のことを考えてしまいがちですが、「薬局としての外見」を意識する、というのは私にとっても新鮮な考え方でした。
朝礼の際に、襟が歪んでいる、ボタンがとれている、袖が汚れている・・・そういうお互いの服装をチェックする時間を設けている薬局もありますが、こうした地道な努力が意外と大事なのかもしれません。

濃紺が最強?-服装の基本を知る-

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小原

改めて、服装でまず意識するべき基本的なところを教えてもらえますか?

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髙野

先ほどお伝えした「洋服のケア」によって生まれる清潔感は大前提です。その上で、シルエットが良いかどうかを考えると良いと思います。

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小原

シルエット?

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髙野

たとえば、シャツの袖の長さは適切か、ズボンの裾の長さは適切か…といったことです。全体を見た時にシルエットがきれいかどうかを、私はまず見ますね。

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小原

その人のサイズに合っているかどうかということですね。

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髙野

はい。薬剤師さんは病院でも薬局でも忙しくされていますから、つい「作業に楽だから」と少し大きめのものを着てしまうこともあると思います。けれど、「きれいなシルエット」を意識するのは大事と思います。

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小原

なるほど、確かにブカブカの白衣や、パツパツの白衣を着ている薬剤師って、ちょっと嫌ですね・・・。

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髙野

清潔感、シルエットと来たら、もう1つ考えたいのが「色使い」です。

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小原

薬剤師は白衣を着ているので「白」が基本になると思いますが、色を使うことができるんですか?

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髙野

はい。一般的に、服装に使う色は3色以内におさえることが良いとされています。白衣で「白」を使っているので、あと2色、使えます。

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小原

ピンクとか紫とか?

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髙野

まさか(笑)。そんな派手な色は仕事柄、使いにくいですよね。

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小原

まず使えないですね(笑)。何かオススメの「色」ってあるんですか?

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髙野

はい、私がお勧めしたいのは「濃紺」です。「濃紺」はとても使いやすい色なので、この色をパンツに持ってくるのが良いでしょう。もう1色はネクタイやベルト、靴に使うと良いでしょう。

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小原

なるほど、白衣の「白」をベースに、「濃紺」ともう1色を少し入れてみるということですね。

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髙野

はい。「濃紺」は、薬剤師さんの落ち着いた知的なイメージともよく合います。パンツやネクタイといったところで、さりげなくこうしたイメージの色を使えると、相手に与える印象もグッと変わってくるんじゃないかな思います。

薬剤師の白衣は、作業着であると同時に、患者さんと接する際の応接用の服装でもあります。清潔感だけでなく、シルエットや色使いも意識できると良いですね。
白衣がメインとは言え、全身が真っ白なのはやや圧迫感を与えてしまう可能性もあります。「濃紺」をうまく使って、落ち着いた印象を与えられる服装を考えたいところです。

目立たない落ち着きがある服装が、説得力の底上げに

今回は、薬剤師でも考えたい「外見」について、服装という観点からスタイリスト髙野大輝さんにお話をお伺いしました。

コミュニケーションを苦手に感じている薬剤師が、いきなりコミュニケーションの上達を目指すのはなかなか難しいことです。そんな時は、患者さんへの接し方を「外見」という別の角度から一度考えてみるのは、良いアプローチになると思います。
日々の業務や薬の勉強に忙しい薬剤師にとって、服装まで気を回す余裕はあまりないかもしれませんが、まずは「洋服のケア」・・・普段から使っている白衣やスーツのケアを心がけ、自分の服装が相手にどのような印象を与えているかを意識することから始めてみてはいかがでしょうか。何か1つ自分に自信を持てるようになると、きっと相手に与える印象は大きく変わってくるはずです。

次回は、これらの服装の基本に加えて、さらに詳細な「外見」について解説していただきます。

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小原 一将
こはら かずまさ

薬剤師/株式会社sing代表取締役
2009年京都薬科大学を卒業後、様々な保険薬局で勤務。薬剤師の価値をもっと社会に届けたいと考え、2019年12月に株式会社singを設立。「頼れる薬剤師が身近にある社会をつくる」をビジョンとして、薬剤師の教育や新しい働き方の支援を行っている。
Apple製品好きであり、薬剤師の業務や医療の発展に活用できないか日々考えている。

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