接客が苦手な薬剤師のための「コミュニケーション術」

更新日: 2021年8月26日 小原 一将

元JALキャビンアテンダントに聞く、接客の極意

元JALのCAに聞く、薬剤師のための接客術のメインの画像1

第3回では、「第一印象を良くすることによって、話しかけやすい雰囲気を作ること」などをテーマにお話しました。薬剤師の仕事では、服薬指導で患者さんに伝える内容やお薬の話に目がいきがちですが、服薬指導の前後の印象もまた、コミュニケーションに大きく関わることが分かりました。

第4回目の今回も、JALのキャビンアテンダントとして国内線や国際線、ファーストクラスなどで10年活躍された田中智子さんに、薬剤師という医療職が患者さんと接する際に意識したいポイントについてお伺いしました。

今回は、前回よりも具体的に、CAさんとしてどのような方法でお客さんと接していたのかを、薬剤師にも役立つ形で紹介します。そして、自分1人ではなくチームとして満足のいくサービスを提供し、どのようにリスクに備えていたのかをお伝えします。

一見、CAと薬剤師は全く違う職業のように見えますが、共通点や参考になる点が多くありました。ぜひ明日から、患者さんとのコミュニケーションの参考にしてみてください。

薬剤師にも役立つ、相手と接する際のポイント

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小原

お客さんと接する際に心がけていたことはありますか?

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田中

言葉だけで相手に合わせていると、それが伝わってしまうと思います。そのため、言葉だけではなく、相手の気持ちに寄り添えるようにというのは意識していました。思っていないことを言うと、相手には伝わってしまいますよね。

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小原

そうですね。私たちもそれは十分気をつけなければいけないことです。

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田中

合わせているだけと思われないように、まずは患者さんの名前を呼んで話をするのが良いと思います。『何かあれば電話してください』と言うのと『◯◯さん、何かあれば電話してください』と言うのでは受け取る側も伝える側も違うはずです。

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小原

名前を呼ばれると、”私をきちんと見てくれている”と感じることができますね。

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田中

他には、立つ位置も重要です。私はお客さんの後ろから声をかけないようにしていました。人は見えていないところに恐怖を感じてしまうので、声をかける時は必ず前に回るか横に並んでいました。座っている人と話す時は、少しかがんで対応していました。完全に目線を合わせることは難しいですが、少しでも目線を落として話をしていました。

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小原

これは薬剤師にとっても役立つところです。私も患者さんに話しかける際には位置を気にします。近づいた方が話しやすい時もありますし、少し距離がある方が話しやすい患者さんもいます。子どもさんと話す場合や座っている患者さんであればかがんだりもしますね。

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田中

とても良いと思います。あとは、話すことと動作は一緒にしないということも意識していましたね。

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小原

どういうことですか?

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田中

たとえば、話の途中に物を渡すのではなく、話を終えてから『どうぞ』と声をかけて渡します。その際もできる限りゆっくりと動くことを心がけていました。

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小原

それも大事ですね。同時に対応されると急かされている気がしますが、一つずつ丁寧に対応してもらえると、安心できると思います。

CAさんが接客のプロとして、細かなところに気配りをしていることが伝わりました。私たち薬剤師も、患者さんと接するという意味では接客業であると言えます。『お大事に』の一言でも、パソコンを眺めながら言うのと、患者さんを見て言うのでは大きく違います。些細なことかもしれませんが、常に意識するのが重要です。

お客さんの前ではプロとして気持ちを切り替える

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小原

これまでお伺いしてきて、とても高いプロ意識を持ってお客さんと接していると感じます。このクオリティを維持するために、自身の気持ちの部分はどのようにコントロールしていましたか?

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田中

確かにネガティブな気持ちの時もあります。ただ、やはりプロとしてお客さんの前に行く時はスイッチをいれるようにしていました。制服を着ると気持ちが切り替わっていました。

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小原

前回は外見の話を取り上げたのですが、外見を整えることは自分のスイッチをいれることにも繋がりそうですね。

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田中

はい、それはあると思います。制服をビシッと着て身なりを整えると気持ちが切り替わり、CAとしてプロの働きをしようと思います。

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小原

お客さんから見えていない部分では色々とありますよね。

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田中

それはもちろんどの職業でもあると思います。でも、私が落ち込んでいたりすることはお客さんからすると関係がありません。できる限りそういった部分を見せないようにして、私たちと接する時間を快適に過ごしてももらえるようにしていました。

前回、取り上げた外見の話が自然と話題になりました。CAさんは制服を、薬剤師は白衣を着るとスイッチが入ると思います。プロとして気持ちの切り替えをすることも、コミュニケーションにとって重要です。

コミュニケーションが重要になるのはお客さんだけではない

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田中

実は飛行機に乗り込む際、スタッフ同士も初対面であることは多いんです。会社にはたくさんの職員がいますから、会ったことがないスタッフと一緒になることの方が多かったですね。

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小原

そうなんですか?とても仲が良さそうに見えていたので、長年仲間として働いている同じスタッフたちと一緒に乗っているのかと思っていました。

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田中

初めてのスタッフが多いからこそコミュニケーションは重要になります。お客さんへのコミュニケーションはもちろん大事ですが、スタッフとのコミュニケーションも大事です。例えば、アレルギーがある方や病気を持っている方たちに、空の上で万が一があってはいけないので、お客さんの情報はどれだけ些細なことでも共有するようにします。

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小原

なるほど、そういった情報が共有されていなかったら大きな事故に繋がりますからね。

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田中

はい。だからどんなことでも共有するのと同時に、どんなことでも共有してくださいという雰囲気でいることが重要です。そのために、フライトの前にしっかりとあいさつをするなど第一印象が重要です。

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小原

前回にもお話いただいた”第一印象”ですね。

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田中

前回はお客さんに対してでしたが、こちらはスタッフへの第一印象です。周りから話かけられやすい雰囲気に自分がなっておくことで、色々な情報を共有してもらえます。それは、全てお客さんのために繋がります。

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小原

コミュニケーションは、私たちで言えば患者さんに向けたものと思われがちですが、スタッフ同士のチームワークのためにも重要ということですね。とても参考になります。

チームとして患者さんに接しているという意識を大事にする

「外見」をテーマに取り上げた際にも、”チーム”としての見せ方”が重要になるという話がありました。今回も、チームとしてどのようにお客さんと接するかについての話を聞くことができました。

コミュニケーションを考える場合、相手と自分というように1対1のシチュエーションを想定することが多いでしょう。しかし、患者さんから見たときに、この病院にいる薬剤師、この薬局にいる薬剤師、という風に見られています。そのため、自分1人だけではなく病院全体として、薬局全体として患者さんにより良い印象を届けるという意識を持つことはとても重要であると言えます。

今回のお話にあった接客のコツをできるところから取り入れ、そして自分が所属する組織はどのように患者さんと接しているのかを考えるきっかけにしてもらえると嬉しいです。

次回は、「患者さんからうまく話を聞き出すためのコツ」を接客のプロにインタビューしてお届けします。

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小原 一将
こはら かずまさ

薬剤師/株式会社sing代表取締役
2009年京都薬科大学を卒業後、様々な保険薬局で勤務。薬剤師の価値をもっと社会に届けたいと考え、2019年12月に株式会社singを設立。「頼れる薬剤師が身近にある社会をつくる」をビジョンとして、薬剤師の教育や新しい働き方の支援を行っている。
Apple製品好きであり、薬剤師の業務や医療の発展に活用できないか日々考えている。

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