接客が苦手な薬剤師のための「コミュニケーション術」

更新日: 2021年10月1日 小原 一将

心理学の専門家に聞く「薬剤師向け接客術」

心理学の専門家に聞く「薬剤師向け接客術」の画像1

せっかく豊富な知識や経験があるのに「コミュニケーション」が苦手で、なかなかうまく患者さんに接することができない、地域医療に貢献することができない…そんな悩みを抱えている薬剤師は多いと思います。

話し方や接し方が上手で、多くの患者さんの心を掴む薬剤師、医師や看護師からも頼られる薬剤師、地域イベントで人気の薬剤師と、いったい何が違うのでしょうか。

そこには、”埋めることができないほどの大きな溝”はありません。実は、ほんのちょっとの心がけ、ほんのちょっとの工夫で、相手に与える印象は大きく変えることができるのです。

そこで本連載では、様々な職種の「接客の達人」に、薬剤師にこそ取り組んでほしい接客のコツを色々と語っていただきます。コミュニケーションに苦手意識を抱いている人は、ぜひ真似できるところから業務に取り入れていただければと思います。

臨床心理士/公認心理士のK.Hさんに聞く、薬剤師の接客術

これまで、スタイリストさんとキャビンアテンダントさんにインタビューをさせてもらい、薬剤師に役立つ接客のポイントをお話しました。第五回目の今回と次回の第六回は、教員免許を取得した後、さらに臨床心理士と公認心理士の資格を取得して活躍されているK.Hさんに、話を聞く際に意識する点やコミュニケーションのコツをお伺いしました。

心理士さんは、クライエントの話を聞いて悩みや不安に寄り添いながらカウンセリングを行います。そこには、自分自身の悩みや、子どもの悩みなど様々なケースが存在します。それら一つ一つに丁寧に耳を傾け、クライエントに安心してもらいながら、今よりも良い心身の状態や日常を取り戻せるように日々活動されています。

私たち薬剤師も薬だけではなく、患者さんの悩みや不安に寄り添いながら服薬指導を行うことが多いです。そのため、今回の話も患者さんと接する際にとても役に立つ内容がありました。ちょっとしたコツや、日々気をつけていく必要があるものまで色々とお話いただいたので取り入れられるものから参考にしてみてください。

昔と違う、薬剤師の印象

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小原

心理士さんやカウンセラーさんというと、相手の話をしっかりと聞いてカウンセリングするという印象があります。現在は、臨床心理士と公認心理士の両方の資格を持たれているのですか?

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K.H

はい、そうです。臨床心理士は民間資格であり、公認心理士は後から出来た国家資格です。どちらもクライエントの話をよく聞いてカウンセリングを行います

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小原

私たち薬剤師も、患者さんの話をよく聞いて薬を渡すという共通点があるのですが、薬局や薬剤師の印象をお聞かせください

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K.H

最近、皮膚科を受診して処方箋が出たので、薬局に薬をもらいに行ったことがあります。その際に、昔の薬局と違うなと感じました。給水器が置いてあったり、丁寧な声かけがあったり、おもてなしのような居心地が良い雰囲気でした。「体調がよくないのですね?」などと声かけをしてもらい、薬剤師さんとして相手を見立てて共感しようとするという、とても良い姿勢でした

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小原

ありがとうございます。薬剤師は以前に比べて、より患者さんに適した対応をすることを意識しています

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K.H

とても良いことです。このような対応が、意識して出来ていると良いと思います。やはり、無意識に出来ていることと意識して出来ていることでは違うと思います

患者さんそれぞれの個別性に目を向ける

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小原

良いコミュニケーションが”意識して出来るようになる”ために注意する点や重要なことをお伺いさせてください

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K.H

先ほど話に出てきた”患者さんに適した対応”がポイントです。心理士がクライエントさんとカウンセリングする際は”個別性”を重視しています。誰にでも対応できる話し方というのがあるのかもしれませんが、私は万人に通じる話し方ではなくそれぞれのクライエントさんがどのように考えるかということを常に意識して話します

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小原

なるほど、その人に合わせて声のかけ方や話す内容が変わるということですね

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K.H

そうです。アセスメントと言いますが、お会いしたときの表情や服装、佇まい、質問に対する応答の内容や様子、これらのあらゆる情報を参考にして個別性を評価します。そして、それを活かしながらカウンセリングを行います

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小原

薬剤師であれば、同じ薬が処方されていても年齢や性別、そのときの様子や表情で話し方を考えるべきということですね

接客が苦手な薬剤師のための「コミュニケーション術」の画像
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K.H

その通りです。薬剤師さんは処方箋に書かれている情報から患者さんの病気や状態を想像することは難しくないと思います。それに加えて来局された患者さんの表情や様子といったあらゆる情報から患者さんの個別性を読み取ることが大事だと思います。それによって患者さんの抱える不安や要望をくみ取り、言葉かけの内容や、言葉かけの仕方が変わる可能性があると思います。

薬剤師にとっても”個別性”はとても重要であると感じました。薬がその患者さんに適した形で渡されるのと同じように、服薬指導もその患者さんに適した形に変えていかなければなりません。
同じ患者さんが薬局に来られたとしても、今日と明日では対応が変わる可能性もあるということです。良いコミュニケーションのために、それぞれの患者さんに適した声かけを意識してみてください。

相手の言葉を繰り返して伝える

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小原

心理士さんが、相手の話を聞く際に気をつけていることを教えてもらえますか?

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K.H

相手の言葉を繰り返しながら受け答えすることを意識しています。例えば、「ここが今日は痛くて」と言われたら、「ここが痛いんですね」と繰り返します

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小原

相手の言葉を繰り返すことで、しっかりと伝わっていると感じることが出来ますね

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K.H

『傾聴』という、聞く技術なのですが、あなたの話に興味があり、積極的に話を聞いているよというメッセージを伝えることが出来ます

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小原

どのような部分を繰り返すようにすれば良いでしょうか?

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K.H

そうですね、まずは相手の話の語尾を繰り返すことを意識してみると良いかもしれません。『~~~で、○○だったんだ。』と患者さんが話をされたら『○○だったんですね。』という具合です。また、会話の文脈を意識することも重要です。例えば、こちらからの質問に対して患者さんが話をする場合と、患者さんから自発的に声をかけてきて話をしてきた場合とでは、後者の方が患者さん自身の気持ちや思いを表している可能性があります。その場合も、患者さんの気持ちや思いを意識しながら相手の言葉を繰り返して話を聞いていくと良いでしょう

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小原

相手が伝えたい内容や、気持ちを込めている部分を繰り返すべきですね

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K.H

そうです。そのためにはオープンクエスチョンで質問することが良いかもしれません。YESかNOで答えられる質問であるクローズドクエスチョンよりも、自由に発言できるオープンクエスチョンの方が、自分の気持ちなどを話しやすいと思います

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小原

薬剤師の中には、患者さんとの服薬指導の最後に「何か心配なことや分からないことはありませんか?」と聞く方がいます

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K.H

とても良いと思います。患者さんは何でも話をして良いと感じて、薬剤師さんに尋ねやすいと思います。そこで引き出した内容を”繰り返し”で受け答えすると良いと思います

服薬指導の際に、どのように答えるべきか迷ってしまうこともあるでしょう。そのような場合、患者さんの気持ちや思いが込められた言葉を繰り返すことで、しっかり話を聞いていますと伝えることが出来ます。“繰り返し”という方法は、とても効果的で誰にでも取り入れられるので、ぜひ意識して、患者さん対応に役立ててみてください。

コミュニケーションとしての服薬指導を

今回のインタビューで、カウンセリングは相手に嫌な思いをさせてはいけないと言うのが大前提であるとK.Hさんはおっしゃっていましたが、これはコミュニケーションにも当てはまるでしょう。そして、相手が嫌だなと思うポイントは人によって違うので、個別性が大事であると言えます。

薬剤師の提供する服薬指導は、情報提供という側面もありますが、コミュニケーションであると考えるべきでしょう。そうすると、服薬指導は薬の副作用を伝えて終わりということにはなりません。
目の前の患者さんの個別性を意識することで、あえて副作用を伝えすぎないという対応が必要になるかもしれませんし、口頭ではなく文書で伝えた方が良い場合もあるかもしれません。そこに薬剤師の個性やスキルが活かされることになります。

次回のインタビュー記事では、コミュニケーションにとって重要な”共感”について、そしてコミュニケーションのためのコツをお伝えします。

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小原 一将
こはら かずまさ

薬剤師/株式会社sing代表取締役
2009年京都薬科大学を卒業後、様々な保険薬局で勤務。薬剤師の価値をもっと社会に届けたいと考え、2019年12月に株式会社singを設立。「頼れる薬剤師が身近にある社会をつくる」をビジョンとして、薬剤師の教育や新しい働き方の支援を行っている。
Apple製品好きであり、薬剤師の業務や医療の発展に活用できないか日々考えている。

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