接客が苦手な薬剤師のための「コミュニケーション術」

更新日: 2021年11月24日 小原 一将

患者さんとのコミュニケーションに役立つプラスワンの意識

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せっかく豊富な知識や経験があるのに「コミュニケーション」が苦手で、なかなかうまく患者さんに接することができない、地域医療に貢献することができない…そんな悩みを抱えている薬剤師は多いと思います。話し方や接し方が上手で、多くの患者さんの心を掴む薬剤師、医師や看護師からも頼られる薬剤師、地域イベントで人気の薬剤師と、いったい何が違うのでしょうか。
そこには、”埋めることができないほどの大きな溝”はありません。実は、ほんのちょっとの心がけ、ほんのちょっとの工夫で、相手に与える印象は大きく変えることができるのです。
そこで本連載では、様々な職種の「接客の達人」に、薬剤師にこそ取り組んでほしい接客のコツを色々と語っていただきます。コミュニケーションに苦手意識を抱いている人は、ぜひ真似できるところから業務に取り入れていただければと思います。

IT業界の営業として活躍する前さんに聞く、薬剤師の接客術

第8回目の今回も前回に続き、デジタルマーケティングのコンサルティングを行うPLAN-Bで働く前夏葵さんにインタビューさせていただきました。営業をする際に気をつけているコツやコミュニケーションを円滑にするために後輩にどのように教えていけば良いかについてお伺いしました。

お客さんにとって、何か一つ新しいことをするという”プラスワン”の意識は薬剤師にとっても役立つ考え方です。そしてその”プラスワン”を考える際には、自分自身の歩幅で考えれば良いということを話してもらいました。明日からの業務に使えるこれらの考え方をご紹介します。

お話を伺った方

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前夏葵さん

2017年に新卒としてデジタルマーケティングのコンサルティングを行うPLAN-Bに入社。営業として新規、既存のお客様と広く関わる傍ら、採用にも携わっている。トップセールスとして活躍している。

今回のコミュニケーション上達のポイント

  • いつもの会話にひと工夫を加える”プラスワン”を意識する
  • 自分なりのひと工夫を見つけて試す
  • コミュニケーションはあくまでも手段でありゴールをイメージする

ひと工夫を加えて、コミュニケーションの向上を

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小原

前さんの活躍されているIT業界は、いわゆる競合の会社も多いと思いますが、営業する際の工夫などはありますか?

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同じような営業をしている人はたくさんいるので、私自身を覚えてもらうための工夫は常に考えています。その中で、”プラスワン”を意識しています

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小原

”プラスワン”とはどういうことですか?

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例えば、名前を覚えてもらうとしても「初めまして、前です」と言うと他の人と変わりません。私は名字が少し変わっているので「初めまして!名字は前、後の”前”一文字でございます」とジェスチャーをいれながらひと笑いを取ろうとしています(笑)

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小原

なるほど、普通のあいさつにもひと工夫するわけですね

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そうです、他にもメールをする際には用件の他に「この前の打ち合わせはこうでしたね」といれてみたり、お客さまの会社のサービスに役立つ情報をメモしておいてそれを少しずつ話したりしています

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小原

薬剤師が患者さんと接する際にも有効ですね

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薬剤師さんだと、あいさつなどに一言添えるだけでも良いと思います。薬局に行く時は病気になってしんどい場合が多いので、そんな時に優しい言葉を一言かけてもらえると安心したり嬉しい気持ちになると思います

”プラスワン”という考え方はとても良いと感じました。前さんのお話にもあったように、病院や薬局に患者さんが来る際は、辛い気持ちや不安な気持ちになっていることが多いでしょう。そのような場合に、優しい言葉や寄り添う姿勢があるだけでもコミュニケーションの質は大きく上がります。
このようなことは、処方箋をいくら眺めても分かりません。処方箋と同じくらい目の前の患者さんを観察して、これまでの対応に何か一つをプラスして、患者さんとのコミュニケーションを心がけてみてください。

コミュニケーションは自分の歩幅で成長しよう

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小原

前回、上司から営業でのコミュニケーションのコツを教えてもらったとお聞きしましたが、後輩にどのような指導をされていますか?

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上司に教えてもらったことを伝えています。そして、「まずはやってみて」と伝えています

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小原

いくら頭で考えても実践とは違いますよね

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実際にやってみて「ダメだったら一緒に考えてあげる」と話しています。もしくは「一緒に私が話をしてあげるから頑張ってみて」とも言いますね

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小原

そこまで寄り添ってもらえると、安心してチャレンジできますね

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先ほどもお伝えした”プラスワン”が大事なんですが、その人にとっての”プラスワン”を積み重ねていくことが大事だと思っています。取引相手にとって役に立つ情報を伝えることが”プラスワン”の人もいれば、今日は良い天気ですねと声かけするのが”プラスワン”の人もいます。自分から話しかけるのが苦手な人であれば、目を見て話すことが”プラスワン”の人もいるかもしれません

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小原

確かに、人によって違って良いですね

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はい、人によって”プラスワン”は違うと分かることは大事です。笑顔を作るだけが”プラスワン”でも良いんです。まずはそうやっていつもより”プラスワン”して、小さな成功体験を積んで自信を持つ必要があります。そうやって自分に自信を持っていければ、コミュニケーションは上達すると思います

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小原

なるほど

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それでもできない後輩がいたら、「できてるよー」と私が暗示をかけます。例えば、一人で本を読むことはとても大事ですし、今なら動画などでもコミュニケーション術を学ぶことができます。でも、コミュニケーションを上達させようと思ったら、結局は実践しないといけないと思っています

”プラスワン”の意識は大事ですが、その幅が人それぞれであるという視点も重要です。例えば、がんの治療をされている患者さんに、がん研究における海外の最新の知見を薬剤師として提供することはとても良いことです。ただ、薬局に来られる患者さんであれば、そのような最先端の情報よりも、治療による副作用が出ていないか、日々の生活で苦労している点がないかということを尋ねるだけでも良いでしょう。患者さん自身が何を求めているかを考え、自分たちができる範囲で、目の前の患者さんにとって何かプラスになることを考えることが重要です。
夜遅く来局された患者さんに「お仕事お疲れ様でした」と声をかけたり、しっかりと薬を飲んでいる患者さんに「忘れず飲めていて素晴らしいです」と一言添えるだけでも効果的です。”自分なりのプラスワン”を意識して患者さんとコミュニケーションをとってみてください。

コミュニケーションは手段なので、目的をしっかりと意識する

インタビューの最後に改めて、「良いコミュニケーションとはどうすれば良いか」と尋ねました。すると、前さんの答えは「最終的な目的がどこなのかが重要」という答えでした。

私たち薬剤師で考えると、「薬の知識を多く持っていること」と同じように、「良いコミュニケーション」は患者さんの問題を解決するための道具であると言えます。

薬剤師が業務を行うためにコミュニケーションはとても重要なので、上達するように努力することは必要ですが、それに加えて患者さんにどうなって欲しいかというゴールをしっかりとイメージすることが大事です。薬の専門家でありながら、在宅医療や健康食品、サプリメントなど幅広い知識を持つ私たち薬剤師は、患者さんのゴールをイメージすることで、大きな視点を持って患者さんの役に立つことができるはずです。

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小原 一将
こはら かずまさ

薬剤師/株式会社sing代表取締役
2009年京都薬科大学を卒業後、様々な保険薬局で勤務。薬剤師の価値をもっと社会に届けたいと考え、2019年12月に株式会社singを設立。「頼れる薬剤師が身近にある社会をつくる」をビジョンとして、薬剤師の教育や新しい働き方の支援を行っている。
Apple製品好きであり、薬剤師の業務や医療の発展に活用できないか日々考えている。

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