薬剤師にも共通する、人と接点を持つ職業の幸せとは
せっかく豊富な知識や経験があるのに「コミュニケーション」が苦手で、なかなかうまく患者さんに接することができない、地域医療に貢献することができない…そんな悩みを抱えている薬剤師は多いと思います。話し方や接し方が上手で、多くの患者さんの心を掴む薬剤師、医師や看護師からも頼られる薬剤師、地域イベントで人気の薬剤師と、いったい何が違うのでしょうか。
そこには、”埋めることができないほどの大きな溝”はありません。実は、ほんのちょっとの心がけ、ほんのちょっとの工夫で、相手に与える印象は大きく変えることができるのです。
そこで本連載では、様々な職種の「接客の達人」に、薬剤師にこそ取り組んでほしい接客のコツを色々と語っていただきます。コミュニケーションに苦手意識を抱いている人は、ぜひ真似できるところから業務に取り入れていただければと思います。
寿司職人の荒木さんに聞く、職人としてのお客さんとの接点
第9回目は、元プロボクサーの肩書きを持ちながら、現在は寿司職人として「すしさとる」というご自身のお店で活躍する荒木悟さんにインタビューをさせていただきました。
寿司はシンプルな料理に思えますが奥が深く、そして何よりも、小さい店内で大将の人柄などを目の前で感じつつ、会話をしながら食事をするという少し変わった料理とも言えます。寿司屋に行くと、大将の会話・接客がとにかく上手だと思う経験を何度もしているので、今回はこの秘訣を寿司職人の荒木さんにインタビューをさせてもらいました。
薬剤師に活かすことができるコミュニケーションのコツをたくさんおうかがいできましたが、それ以上に私たち薬剤師にも通ずる「プロとしての矜恃」を感じることができました。
今回のコミュニケーション上達のポイント
- 人と接点を持つ職業である幸せを意識する
- ”私から”薬をもらいたいと思ってもらう
- 患者さんから教えてもらうという心構えを持つ
薬剤師にとてもお世話になったエピソード
人と接点を持つ職業が得られる幸せ
寿司職人と薬剤師は、「寿司」と「薬」という全く違うものを扱う職業ではありますが、このプロフェッショナルとしての姿勢にはとても共感させられました。寿司職人の方がどのようなコミュニケーションを取っているのかをおうかがいしようと思ったのですが、改めて”コミュニケーションは何のためにあるのか”を考えさせられました。
寿司のネタがどのようにしてここまで届けられたのか、それを伝えられるのは寿司職人だけだと荒木さんは話しました。患者さんの抱える病気を治療できる薬がどのようにして手元にまで届いたのか、そしてその薬がどのように患者さんの人生を改善していくのか、それらを伝えられるのが薬剤師ですが、薬剤師の仕事の醍醐味もそこにあると言えます。
お客さんには「私の」寿司を食べに来てもらいたい
この話をお伺いして、「薬はどこでもらっても同じ」という言葉を思い出しました。”かかりつけ薬剤師”は、患者さんの様々な情報を把握して薬の一元管理をするという目的1)がありますが、そういったメリットだけではなく、”◯◯さんからもらう薬”という考え方も大きな付加価値となります。
確かに、薬そのものはどこでもらっても同じですが、「嬉しい」「安心する」といった感情とともに渡される薬は服薬アドヒアランスを向上させたり、患者さんの治療への取り組み方を変えたり、プラセボ効果を上乗せできる可能性もあったりすることは、無視できないはずです。
お客さんとだけではない、大事なコミュニケーション
謙虚な姿勢が、良いコミュニケーションを生む
インタビューの際に、「お金をいただいて勉強させていただいている」と荒木さんが話した言葉が印象に残りました。私たち薬剤師も、患者さんから勉強させてもらうことは多いです。病気のこと、薬のこと、感情や人生のことなど、薬剤師が知らなかったことを患者さんはいつも教えてくれます。
“修行”という単語が何度かインタビュー中に登場しましたが、それは寿司職人だけではなくプロフェッショナルである全ての職業に共通するはずです。常に修行中であると自らを捉えて、相手から教えてもらうという謙虚な気持ちがコミュニケーションの大事な要素であると言えます。
良いコミュニケーションをするためには、まずは自分がどのようにあるべきかを考えてみましょう。多くの人を繋いで届けられた”薬”を渡す職業であることを意識して、自分は学ばせてもらっている身であるという謙虚な姿勢で患者さんと接することができれば、”あなたの薬”をもらいたいという患者さんが増えていくと思います。
今回、取材に協力していただいた荒木さんのお店は、新型コロナウイルス感染症対策の対応をしながら、できる限りお客さまに満足いただける接客を心がけています。