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薬剤師のための最新コロナ対策

更新日: 2020年12月29日 児島 悠史

薬剤師国家試験を控える薬学部生の方向け、COVID-19対策について

国試直前|どうする?薬学部生のCOVID-19対策

厚生労働省は、2021年2月20~21日に開催する第106回薬剤師国家試験について、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の診断がなされた場合は受験を認めないという措置をとることを発表しました(https://www.m3.com/news/general/851272)。追試などの救済措置も行わないということで、非常に厳しい対応と言えます。
数年前に同じ国家試験を受けた者として、ただでさえ不安の募る国家試験に際し、自分たちよりも遙かに大きな不安が積み重なっている後輩のために何かできることはないかと考えた時に、「世間に氾濫する様々な“画期的な対策”に飛びつくことなく、基本をひたすら忠実に徹底・反復し続けること」という、薬剤師になってからも非常に重要なことを伝える良い機会でもあると思い、筆をとらせていただきました。

ひとりひとりにできる対策は、とてもシンプル

世間では様々な感染対策グッズが出回り、スーパーやドラッグストアなどでも「ウイルス対策」といった文字を見かける機会は多くなったと思います。しかし、ひとりひとりが行うべき感染対策は、こうした面白そうな、時に画期的・斬新に見えるような、真新しい対策に飛びつくことではありません。実際の医療機関でも、こうした効果が不確かなものに頼ることはありません。行っているのは、いわゆる手指衛生の徹底や換気、マスクの着用といった「標準予防策」を、油断することなく、毎日ひたすら繰り返し続けることです。

個人が「感染しない・感染を広げない」ために徹底すべき標準予防策の例

  • 手洗い・手指消毒を徹底する
  • 3つの密を避ける
  • 近距離で会話をする際は、たとえ家族内であってもマスクを着用する

こうした基本的な対策は、あまり面白く効果的なもの、科学的なものには感じられないかもしれません。しかし、水道環境が整備された日本においては流水と石鹸を使った正しい「手洗い」ほど効果的な感染対策はありません。また、「3つの密」はこの1年で蓄積された多くの感染事例から「ハイリスクであることが実証されている」条件と言えるため、できる限り避けた方が無難です。さらに、飛沫感染が主体であり、なおかつ発症前から感染性があるというウイルスの特性を踏まえれば、たとえ症状のない人と接するときでも近距離(手の届く範囲≒1m以内くらい)になる際はマスクの着用を徹底することは、科学的にもとても理に適った対策です。

しかし、こうした対策は「正しく行う」ことと、「根気強く続ける」ことが何より大切です。今回は、こうした対策を続けるなかで「見落としがちなリスク」をいくつか紹介します。無事に国家試験を乗り切れるよう、この機会に自分や家族の感染対策を改めて見直しましょう。

「手洗い・手指消毒」で見落としがちなリスク

たとえば、ひとこと「手洗い」と言っても、いま自分の「手洗い」は十分な感染対策と言えるくらい正しい手洗いができているでしょうか。指先を濡らしただけ、10秒くらいで終わってしまうような不適切な手洗いはもちろんのこと、指先の洗い忘れがある、鼻をかんだ後に手を洗っていない、せっかく手を綺麗に洗ったのに外で触っていたスマートホンをそのまま扱っている・・・そんな、リスクの見落としをしていませんか。
こうした正しい手洗い方法の啓発は、新興感染症によって世界が未曾有の事態に陥っているいま、薬剤師にとって重要な仕事の1つでもあります。薬剤師になってからもしっかりと指導できるよう、この機会に自分だけでなく家族の「手洗い」の方法やタイミングを改めて確認しておきましょう。

(参考:厚生労働省の手洗い手順

「3つの密を避ける」で見落としがちなリスク

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染経路は、主に飛沫感染が主体と考えられています。飛沫感染とは、咳やくしゃみで飛び散った小さなしぶきを吸い込むことによって起こるものですが、これまでの調査から、「換気の悪い環境」では咳やくしゃみなどをしていなくても感染が起きています。そのため、「換気」を徹底することが非常に大切です。
このとき注意したいのは、「換気」という対策は「部屋の空気を十分に入れ換える」というものであるという点です。これから国家試験までは非常に寒い季節が続くため、「換気」は気の進む対策ではないと思います。しかし、家庭用のエアコンや空気清浄機を稼働させることは「換気」の代わりにはなりませんし、「空間除菌」などをうたう雑貨や消毒薬の噴霧にも実際の感染予防効果は認められていません(※実験室での結果や理論上の作用が、そのまま現実・臨床での効果を保証するものではない、というのは薬剤師として非常に大事な視点です)。
本来の定義と異なる方法に勝手に改変してしまうこと、効果のない“対策”で安心=慢心し必要な対策を怠ってしまうことは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策に限らず、医療においては様々な場面で大きなリスクに繋がります。公衆衛生を司る薬剤師を目指すものとして、改めて自宅や家庭内の対策見直しを行ってください。

(参考)

「マスク」で見落としがちなリスク

マスクは、自分から飛沫を飛ばすことを防ぐのに役立ちます。そのため、近距離で人と会話をする機会がある際には、お互いがマスクを着用することが、感染予防に効果的とされています。
人間、基本的なことを徹底している人をどこかで馬鹿にしたり鼻で笑ったりする傾向があります。友人と何人かで集まって話をする際、「こんな少しの時間だけなのにマスクなんかして(笑)」といった、マスク着用を軽視するような風潮は漂っていないでしょうか。もしそんな人が居たら、勇気を持って、「薬剤師の卵」として、マスク着用のお願いをしてみてください。(※皮膚などの事情でマスク着用ができない人の場合は、換気や席の配置など別の方法で対応するなど、十分に配慮しましょう 。正論を押しつけるだけでは、やさしい医療は実現できません)。
また、国家試験とはやや話は変わりますが、特にこの年末年始に帰省する際は、自分が両親や兄弟から感染させられないこと、自分から両親や兄弟に感染させないことが重要です。たとえば、箸やコップを使い回す、食事の際に真正面や真横に座る、近距離で話をする際にマスクをつけ忘れる・・・そういった行動は、確実に感染のリスクを高めてしまいます。必要な対策がどこかのタイミングで緩んでいないか、無意識のうちにリスクの高い行動をとってしまっていることはないか、いま一度自分の1日の行動を振り返ってみてください 。

(参考)


まとめ

個人にできる感染対策には、何も特別なお金をかける必要はありません。世間に出回る不確かな情報に惑わされ、不要なお金や過剰な労力を使うことなく、効果的で必要な対策をしっかりと継続するようにしてください。正しい方法と適切なタイミングでの手洗い、部屋の空気を十分に入れ換えられる換気、近距離で会話をする際はマスクを着用する、少しでも体調の悪い人は他人と接触しない、外食をする際は適切な対策を行っているお店を選ぶ・・・そういった基本的で地道な対策を、国家試験までしっかりと徹底し続けることこそが大切です。
現場に立つ薬剤師として、無事に皆さんが薬剤師国家試験を受けられることを願っています。

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児島 悠史
こじま ゆうし

薬剤師 / 薬学修士 / 日本薬剤師会JPALS CL6。
2011年に京都薬科大学大学院を修了後、薬局薬剤師として活動。
「誤解や偏見から生まれる悲劇を、正しい情報提供と教育によって防ぎたい」という理念のもと、ブログ「お薬Q&A~Fizz Drug Information」やTwitter「@Fizz_DI」を使って科学的根拠に基づいた医療情報の発信・共有を行うほか、大学や薬剤師会の研修会の講演、メディア出演・監修、雑誌の連載などにも携わる。
主な著書「薬局ですぐに役立つ薬の比較と使い分け100(羊土社)」、「OTC医薬品の比較の比較と使い分け(羊土社)」。

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