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薬剤師のための最新コロナ対策

更新日: 2021年3月9日

【感染症対策】アルコール過敏症の人の手指消毒方法は?

アルコール過敏症の人は、どうやって手指消毒すれば良いですか?の画像1

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大が続くなか、最近はコンビニへ入るのにも「アルコールによる手指消毒」を求められることが増えています。アルコールによる手指消毒は、確かに個人でできる感染対策として有効なものの1つではありますが、世の中にはアルコール過敏症の人も居ることを忘れてはいけません。

医療機関でもアルコールによる手指消毒をお願いする機会は多いですが、もし自分の目の前にアルコール過敏症の人が現れたら、どのように対応するでしょうか。その対応をこの機会に改めて考え直してみたいと思います。

そもそも、「アルコール消毒」でなければならない理由は少ない

一般的に、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のようにエンベロープを持つウイルスは、石鹸や家庭用の洗剤・ハンドソープでエンベロープを破壊すれば、不活化させることができると考えられます。そのため、通常時と同様に「流水+石鹸での手洗い」が最も基本的な感染対策となります。実際、厚生労働省も手や指のウイルス対策として「手洗い」を、「アルコール(濃度70~95%)」と並べて2つ提示(手洗いの後にアルコール消毒を重ねる必要はない)しています1)

「アルコール消毒」は時と場所を選ばず気軽に行えるため、色々な場面で広く用いられていますが、一般的な感染予防効果は「流水+石鹸での手洗い」と同等と考えられます2)。つまり、手をしっかりと洗える状況であれば、敢えて「アルコール消毒」でなければならない理由は特にない、ということです。このことから、アルコール過敏症の人の手指衛生としては「流水+石鹸での手洗い」が最も良い選択肢になると考えられます。

日本は上下水道が極めて整備された国のため、山奥や秘境の谷を旅している状況でもない限りは、お手洗いや化粧室で「流水+石鹸での手洗い」をしやすい環境にあります。アルコール消毒が適さない場合には、このインフラを存分に活かした手指衛生がお勧めです。

手洗いをできない状況での選択肢は…?

そうは言っても、車や電車での移動中、トイレが混雑している、席を立ちにくい…など、日常生活の中でも「手洗い」をしにくい状況や場面は少なくありません。そういった場合にはどんな代替案があるでしょうか。

たとえば、エタノールと並んでよく使われる手指消毒液に「ベンザルコニウム」があります。エタノールよりも効果の低い低水準の消毒液に分類されていますが、北里大学の調査では、0.05%または0.1%の「ベンザルコニウム」と1分間接触させることで新型コロナウイルスの消毒が可能だったことが報告されています3)。そのため、アルコール過敏症の人にとって、アルコールを含まない「ベンザルコニウム」だけの手指消毒液は1つの選択肢として考えられます。

しかし、手指消毒薬の中には、有効成分を「ベンザルコニウム」と表記しつつ、添加物として「エタノール」を含む商品も多い(わかりにくい)こと、「1分間の接触」というのは手指消毒としてかなり長時間になることを踏まえると、あまり良い選択肢とは言えません。

よくメディアでとりあげられる「次亜塩素酸水」も、かけ流しのようにして用いればそれなりの効果は期待できますが、そういったかけ流しができるのであれば、流水と石鹸で手を洗った方が確実です。その他の消毒薬として「ポビドンヨード」や「次亜塩素酸ナトリウム水溶液」などがありますが、いずれも手指の消毒に用いられるものではありません。

以上のことを踏まえると、可能な限り「流水+石鹸での手洗い」を行うようにし、どうしても難しい場合には「ベンザルコニウム」で入念に手指消毒を行う、「手袋をつけた状態でアルコール消毒を行う」などの代替案を検討する、というのが妥当と思われます。

「手洗い」をできる環境整備、案内を

マスクを着用していない人に対する「マスク警察」がよく話題になりますが、何らかの事情によりマスクを「着用できない人」が、世の中には居ます。そういった人を、まるで感染対策を怠る危険人物のように批難することは、避けなければなりません。社会のいたるところにアルコールの消毒液が配置され、どんな建物に入るにも「アルコール消毒」をすることが日常の光景になってきたいま、アルコール過敏症の人がどのような立場にあるのかにも、少し思いを巡らせる必要があると思います。

医療機関でそのような人から相談を受けた際には、手指衛生は「アルコール消毒」でなければならない理由はなく、「流水+石鹸での手洗い」で十分に可能であることを伝え、手洗いのできる場所へスムーズに案内できるよう準備しておくことが大切です。

また、手洗いを実施しにくい状況であれば、アルコールを含まない「ベンザルコニウム」の消毒薬で少し念入りに消毒を行うことを提案するなど、実現可能な次善策・代替案も用意しておきましょう。ただしその際は、科学的根拠に乏しい雑貨品での「感染対策をやったつもり」にならないよう、十分に注意してください。

1) 厚生労働省・経済産業省・消費者庁特設ページ「新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について」
2) Pediatr Nurs.33(4):368-72,(2007) PMID:17907739
3) 北里大学「新型コロナウイルスに対する消毒薬の効果を検証 」 (閲覧日:2021年2月5日)

著者:児島先生

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