制酸作用と止血作用などを持ち合わせる意外なものとは?
生薬といえば、聞いたことのあまりないものや名前は知っていても実物をあまり見たことがないからちょっと取り入れるのには抵抗があると思われている方は少なくないのではないでしょうか。
でも実際はそんなことはないのです。普段何気なく使っているものや身の回りのものも立派な生薬として効用を持っているのです。そんな身近な生薬にスポットを当てて、取り上げて行くこのシリーズ。クイズ形式になっているので、楽しみながら患者さんとの会話に取り入れられる知識を広げてみてください。
制酸作用を利用して胃・十二指腸潰瘍に効果を示し、穏やかな止血作用を持つ海の生き物のある部分とは?
- 鯛のうろこ
- 烏賊の内殻
- ウニのとげとげ
- クラゲの食指
答え
- 烏賊の内殻
お刺身やお寿司、お祭りの屋台など様々なシーンで登場する烏賊。その種類はとても多くなんと世界に450種類ほどもいるそうです。さらに世界の中でも日本での消費が群を抜けて高いということをご存じでしたか。
そんな烏賊、実は貝類が持っている殻が退化した軟体動物の一種なんだそう。皆さんご存じのように貝類の殻は生薬としてよく用いられます。その貝類の殻が退化した烏賊の内殻が生薬になるというのも、なんとなくうなずけますよね。
今回紹介する烏賊の内殻「烏賊骨(うぞくこつ)」は烏賊の中でも甲いかの骨状の内殻を日干ししてから酥炙(そしゃ:乳製品などで炒る)するか粉末にしたものになります。実は「烏賊骨」、別名を「海螵蛸(かいひょうしょう)」ともいいます。漢字だけを見ていると烏賊なのか蛸なのかわからなくなってしまいますが、甲いかの内殻なので、混乱のないように。
「烏賊骨」の主な作用は「収斂作用」「制酸作用」「止血作用」と幅広く、とても穏やかな作用を持ちます。
止血を目的にするときは、主に泌尿器や生殖器系の出血に使います。例えば女性の不正性器出血や子宮の出血、便に血液が混じってしまうときなどにも、ほかの薬と配合して使ったりします。
また、炭酸カルシウムが主成分になるので、胃酸を中和して胸焼けや胃・十二指腸潰瘍などにも効果があります。
ほかにも面白い使い方としては、外用剤としてこの粉を出血部位に塗ることで止血作用を示します。
ちなみに、生薬ほどの力はありませんが、内殻がついた状態の甲いかを使ってスープを作れば、そのスープに「烏賊骨」と同様の効果が期待されるので試してみてください。また、烏賊自体に活血化瘀(かっけつかお:瘀血が原因となった様々な症状や疾患を治療する力)、益陰養血(えきいんようけつ:陰の症状を改善し血を補う作用)の力があるので、貧血の人や不正性器出血のとき、閉経後のときなどに烏賊で作ったスープを食べるとよいでしょう。
余談ですが甲いかは無脊椎動物の中でも最も知能が高いそうです。その知能にもあやかりたいものですね。
「漢方294処方生薬解説」根本幸夫監修 じほう
「方剤学」東洋医学健康会 神戸中医学院
「薬膳学」東洋医学健康会 神戸中医学院