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糖尿病の豆知識

更新日: 2019年10月4日 柳瀬 昌樹

【第1回】薬剤師のための糖尿病治療の豆知識
~患者さんの変化に気づき、正しく指導できるようになろう~

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糖尿病の世界では長年、患者さんの総死亡を減少させる(長生きできる)治療法の確立を目指してきました。ここ最近、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬により総死亡を抑制できたという臨床試験結果が出たことで、各国のガイドラインなどが大きく変わってきています。
糖尿病療養指導士、糖尿病薬物療法認定薬剤師、抗菌化学療法認定薬剤師の資格を持ち、日本糖尿病学会、日本くすりと糖尿病学会、日本化学療法学会に所属する著者が薬剤師の皆さんに知っておいて欲しい糖尿病治療のポイントをご紹介します。

糖尿病治療薬の特徴と副作用-よく使用される薬・新しく発売された薬

今回からシリーズでお送りする「薬剤師のための糖尿病治療の豆知識」。初回の3回で糖尿病治療薬の経口薬7系統、注射薬2系統を取り上げます。第1回は、新しく発売された2剤について紹介したいと思います。よく使用される薬だけに、薬剤師の皆さんは、その特徴や落とし穴のような情報をしっかり把握しておくことが大切です。

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最も使用されている糖尿病治療薬「DPP4阻害薬」

現在、日本では最も使用されている糖尿病治療薬になっているこの薬。血糖依存的にインスリン分泌を亢進させ、グルカゴン分泌を抑制することで、血糖値をいい感じに調整してくれる薬ですね。安全性も高く、高齢者にも使用しやすいことから多くの患者さんに使用されています。

ただ、知られていない副作用もある事に注意が必要です。例えば、消化管への影響により食欲が落ちることなどがあります。高齢者の糖尿病が増えている昨今、フレイルやサルコペニアと糖尿病疾患の関連などからも、特に高齢者の食事が見直されつつあります。糖尿病にとって食べなくなることが「別にいいんじゃない?」と言われていたのは大昔の話で、今は特に高齢者はタンパク質を摂らなくてはならないと言われているため、無視できない副作用の1つです。その他類天疱瘡の注意喚起についても、チェックしておくとよいと思います。

daily製剤か、weekly製剤か

DPP4阻害薬には、毎日服用するdaily製剤と1週間に1回でよいweekly製剤が選択肢として存在します。単純なイメージ、1週間に1回の方が、服用回数が少なく便利そうと思ってしまいますが、私が患者さんとお話しする中で、毎日飲むことが習慣になっているので、1週間に1回になると飲み忘れがあるとおっしゃっていました。ですので、その人に合った内服方法の選択が重要だと考えます。

また、日本で発売されているweekly DPP4阻害薬は、トレラグリプチン(ザファテック®)とオマリグリプチン(マリゼブ®)の2種類ですが、どちらでも一緒というわけではありません。トレラグリプチンは、元々、毎日内服するdaily製剤として開発が開始されたということもあり、連日投与した時の安全性は比較的高いといわれています。その分、連続内服した時の最終内服日から1週間後のDPP4阻害率は80%を切ってしまうという面も持ち合わせています。DPP4阻害薬の世界では、十分な効果を発揮するためには、DPP4阻害率が80%以上であることが求められるとされているため、この点には注意が必要だと思います。ちなみに、オマリグリプチンの連続内服した時の最終内服日から1週間後のDPP4阻害率は82.6%としっかり80%を超えています。

患者さんのBMI指数に注意

最後に、これも意外に知られていないのではないかなと感じることを1つ。それは、DPP4阻害薬は肥満症例(明確な基準があるわけではありませんが、おおむねBMI26~27を超えてくると)には効きにくくなるということです。日本における糖尿病患者さんの平均BMIは約25といわれており、ある程度の効果は発揮しますが、欧米などになると糖尿病患者さんの平均BMIが約32となるため、DPP4阻害薬の効果はあまり期待できず、実際、使用量もかなり少なくなっています。最近では、日本人でもかなりの肥満を持つ患者さんは少なくなく、そのような患者さんに漫然とDPP4阻害薬を使用し続けるのも考え直さなければならないかもしれません。後述しますが、このような肥満症例の場合、同じインクレチン製剤でもGLP-1受容体作動薬は効果を期待できる薬剤になります。 【第1回】薬剤師のための糖尿病治療の豆知識~患者さんの変化に気づき、正しく指導できるようになろう~患者さんのBMI指数に注意の画像

最も新しく発売された「SGLT2阻害薬」

SGLT2阻害薬は、最も新しく発売された経口血糖降下剤であり、原尿からの糖の再吸収を抑制することで、尿中に余分な糖を排泄することで、血糖値を下げる効果を発揮する薬ですね。このお薬、大きな特徴の1つとしてインスリン非依存的に(インスリンの効果に関係なく)血糖降下作用を発揮する希少な薬剤の1つです。また、余分な糖を尿に排泄するため、カロリーのロスが起こり、体重の減少も期待できるお薬です。発売当初より色々な副作用(皮疹、脱水など)が話題になってしまい、日本では使用量がなかなか上がってきていませんが、個人的な意見としては、症例をしっかり見極めれば、いい効果が強く期待できる薬だと考えます。さて、今一度、このお薬の注意点を整理しておきましょう。

SGLT2阻害薬服用中の脱水と感染症

まず、尿糖が大量におりる関係上、浸透圧による利尿が強くなります。よって、脱水を予防するためにいつもよりも余分に水分を摂取してもらう必要があります。500mlのペットボトルをいつもより〇本分くらい多めに飲んでくださいと具体的に指示することをお勧めします。ただ、発売後の調査では、多くの浸透圧利尿は1~2週間で元の尿量に戻るとされています。確かにそういう患者さんもおられますが、意外に長く尿量が増えている患者さんも見受けますので、患者さんごとの対応が必要でしょう。

次に、感染に関してですが、日本人は清潔な民族であることもあり、ほとんど発生していないとの報告がされています。ただし、性行為感染症はまれに見受けますので、陰部のかゆみなどの症状がこの薬と関係しているかもしれないという情報を、私自身、患者さんに説明し、言いにくい症状であるからこそ、症状に気づいた場合には、言いやすい人にいち早く申し出てもらうことを注意点として説明するようにしています。

循環器疾患にも‐SGLT2阻害薬の意外な効果

意外に知られていない良い効果の中に、循環器疾患に対する効果や腎機能の保護作用などがあります。一部の薬剤では、糖尿病だけでなく循環器疾患への適応を検討している薬もあるくらい効果を認めているそうです。腎機能に関しては、多くの大規模スタディーにより中長期的に見て、腎保護作用があることが証明されています。また、脂肪肝などに対しても効果が確認されていることも押さえておくべきポイントになります。

最近、1型糖尿病にも適応を取ったSGLT2阻害薬があります。インスリン非依存的に血糖降下作用を示すため、1型糖尿病にも効果が認められます。ただし、しっかりインスリン効果がある状態で正しく使用しないと、すぐにケトーシスを引き起こし、重篤な副作用となってしまうため、1型糖尿病へのSGLT2阻害薬の使用は専門医のもとに限られると考えています。

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柳瀬 昌樹
やなせ まさき

薬剤師。薬科大学を卒業後、現在に至るまで病院勤務を続け、糖尿病、感染症などの専門資格を取得。医師の先生方からの全面的ご協力の下、日々奮闘中。
主な取得資格:糖尿病療養指導士、糖尿病薬物療法認定薬剤師、抗菌化学療法認定薬剤師、日本病院薬剤師会病院薬学認定薬剤師、実務実習認定薬剤師
所属学会:日本糖尿病学会、日本くすりと糖尿病学会(認定薬剤師認定委員兼務)、日本化学療法学会、日本病院薬剤師会

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