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糖尿病の豆知識

更新日: 2019年10月30日 柳瀬 昌樹

【第3回】薬剤師のための糖尿病治療の豆知識
~患者さんの変化に気づき、正しく指導できるようになろう~

【第3回】薬剤師のための糖尿病治療の豆知識~患者さんの変化に気づき、正しく指導できるようになろう~の画像

糖尿病の世界では長年、患者さんの総死亡を減少させる(長生きできる)治療法の確立を目指してきました。ここ最近、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬により総死亡を抑制できたという臨床試験結果が出たことで、各国のガイドラインなどが大きく変わってきています。
糖尿病療養指導士、糖尿病薬物療法認定薬剤師、抗菌化学療法認定薬剤師の資格を持ち、日本糖尿病学会、日本くすりと糖尿病学会、日本化学療法学会に所属する著者が薬剤師の皆さんに知っておいて欲しい糖尿病治療のポイントをご紹介します。

症例を見極めよう!チアゾリジン系・自己注射の糖尿病治療薬

全3回で紹介してきた糖尿病治療薬について、最後は、チアゾリジン系薬剤、各種自己注射薬について紹介します。見る機会が少なくなっている方もおられるかもしれませんが、適した症例を見極めることで、プラスの効果も期待できる薬剤です。

【第3回】薬剤師のための糖尿病治療の豆知識~患者さんの変化に気づき、正しく指導できるようになろう~ 症例を見極めよう!チアゾリジン系・自己注射の糖尿病治療薬の画像
脂肪肝の改善にも期待「チアゾリジン(TZD)」

大きなカテゴリーで見れば、ビグアナイド系と同じくインスリン抵抗性を改善することで血糖値を下げるお薬ですが、見る機会が少なくなっているかもしれません。個人的な意見ですが、このお薬を使用するときには、プラスの効果とマイナスな効果をしっかり理解して使用するべきだと思います。プラスの効果といえば、脂肪肝を有している患者さんには、脂肪肝の改善も含めて効果があることです。後述しますが、SGLT2阻害薬にも同様の効果が認められていますが、チアゾリジンも十分に使用できると思います。
一方、マイナスの効果としては、一般的に知られている(特に女性の)浮腫や心臓に疾患がある人には避けるべきという注意点だけでなく、骨折のリスクが上がるといわれています。内服する際には骨折に関する注意喚起は必要ですし、骨折しやすそうな人には使用しないなど、注意しなければなりません。

糖尿病治療薬の基本のような薬「インスリン製剤」

インスリンは、糖尿病治療薬の基本と言っても過言ではない薬です。ただ、注射という剤型からか、患者さんからは嫌がられることのある薬です。

忘れてはいけない事として、ある程度までHbA1cが高くなった場合、早期にインスリンを短期間でも導入する方が、導入が遅くなるより予後が良いということです。詳しくはシリーズでお届けする別の回で述べたいと思いますが、基本的なインスリンの特徴をまとめてみたいと思います。インスリンは、超速効型、速効型、中間型、持効型、それぞれの混合型に分けられます。最近では、より生理的インスリン分泌を再現できる超速効型と持効型の組み合わせが多くなっています。超速効型や持効型のいわゆるアナログインスリンは、打つ場所によって吸収動態が変わることもなく非常に使用しやすいインスリンです。

一方で、注意することもたくさんあります。例えば、ADA(アメリカ糖尿病学会)やEASD(ヨーロッパ糖尿病学会)のstatementにもまとめられているように肥満助長という意味でも肥満症例にはあまり推奨できないことや、SU、グリニドと同様、重症低血糖を起こす原因となることなどが挙げられます。インスリンは副作用も少なく、微調整もきく、いいお薬である反面、本当に適した症例を見極める必要のある薬なんです。

毎日打つタイプと週1回のタイプがある「GLP-1受容体作動薬」

インクレチンの一種であるGLP-1をアナログ化し、体内で分解されにくくして注射するタイプのお薬です。こちらも様々なタイプの薬があり、覚えるのが大変と思っている方も多いのではないでしょうか?確かに1日2回投与が必要な短時間作用タイプや、どちらかといえば朝の血糖値を抑制する効果が強く出るタイプなどの分類はありますが、まずは、基本的なところから押さえていきましょう。

GLP-1受容体作動薬にもDPP4阻害薬と同様、毎日打つタイプと週1回のタイプがあります。ここでは、それぞれの薬剤の簡単な特徴を整理しておきます。

毎日打つタイプのGLP-1受容体作動薬、リラグルチド(ビクトーザ®)は、本邦で初めて承認されたGLP-1受容体作動薬です。海外で先行して承認されており、日本人の体格に合わせ、海外用量の半分(MAX 0.9mg)で承認されましたが、最近、海外用量に合わせた用量(MAX 1.8mg)の承認が下りました。肥満症例に対して体重減少のエビデンスを持つお薬です。その他にも1日2回タイプのエキセナチド(バイエッタ®)や、他に比べて消化管運動への作用が強いといわれるリキシセナチド(リキスミア®)などがあります。大切なことは、これらの薬剤は、急に投与量をあげると消化器症状が強く現れるため、少量からゆっくり増量していく必要があるということです。

週1回のGLP-1受容体作動薬の中で、日本で発売されているものは、エキセナチドをマイクロスフィアに包埋することにより持続性を獲得したビデュリオン®とディラグルチド(トルリシティ)の2種類があります。リキセナチド(weekly)は、少しデバイスの扱いが難しい薬剤であり、また、マイクロスフィアの影響によりリポハイパートロフィー(硬結)の発症頻度が高いといわれています。ディラグルチドは、デバイスが高齢者でも扱いやすい3ステップで使用できるようになっている薬剤ですが、一部の症例では、丸1週間効果が持続しない(途中で効果が弱くなってしまう)という話も聞きます。私自身もディラグルチド投与後、6~7日目に効果の減弱を経験したことが数回あります。とはいえ、自己注射を週1回で治療継続できることは、特に高齢者糖尿病患者への治療では、第三者の援助を受けることで、今までできなかった治療を継続できるなど一筋の光と感じています。ただし、よいことばかりではなく、DPP4阻害薬同様、消化管への影響により食欲を低下させてしまう可能性などは見落とさないようにしましょう。ちなみに、dairy GLP-1受容体作動薬には体重を落とす効果が認められますが、weekly GLP-1受容体作動薬では、あまり認められません。

【第3回】薬剤師のための糖尿病治療の豆知識~患者さんの変化に気づき、正しく指導できるようになろう~ 毎日打つタイプと週1回のタイプがある「GLP-1受容体作動薬」の画像

最後に・・・
糖尿病の世界で、多くの大規模臨床試験が組まれ、多くの先生方が患者さんの総死亡を減少させる(長生きできる)治療法の確立を目指してきました。しかし、長い間、結果として総死亡を抑制できた薬剤はメトホルミンだけでした。ここ最近、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬により総死亡を抑制できたという大規模臨床試験の結果が出たことで、各国のガイドラインなどが大きく変わってきています。我々は、専門家として、日々、明らかになる最新の知見を知り、正しく論文を読み解く力を養うことで、目の前の患者さんにとって最善の治療法が何かを考えていかなければなりません。また、エビデンスを構成する要素の中に患者さんの嗜好が含まれていることを忘れず、患者さんそれぞれが満足できる治療法と理想的な治療法の架け橋になる活動が必要だと考えています。

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柳瀬 昌樹
やなせ まさき

薬剤師。薬科大学を卒業後、現在に至るまで病院勤務を続け、糖尿病、感染症などの専門資格を取得。医師の先生方からの全面的ご協力の下、日々奮闘中。
主な取得資格:糖尿病療養指導士、糖尿病薬物療法認定薬剤師、抗菌化学療法認定薬剤師、日本病院薬剤師会病院薬学認定薬剤師、実務実習認定薬剤師
所属学会:日本糖尿病学会、日本くすりと糖尿病学会(認定薬剤師認定委員兼務)、日本化学療法学会、日本病院薬剤師会

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