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糖尿病の豆知識

更新日: 2020年2月24日 柳瀬 昌樹

【第8回】 薬剤師が気を付けたい糖尿病患者のシックデイ対策

【第8回】 薬剤師が気を付けたい糖尿病患者のシックデイ対策の画像

糖尿病の世界では長年、患者さんの総死亡を減少させる(長生きできる)治療法の確立を目指してきました。ここ最近、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬により総死亡を抑制できたという臨床試験結果が出たことで、各国のガイドラインなどが大きく変わってきています。
糖尿病療養指導士、糖尿病薬物療法認定薬剤師、抗菌化学療法認定薬剤師の資格を持ち、日本糖尿病学会、日本くすりと糖尿病学会、日本化学療法学会に所属する著者が薬剤師の皆さんに知っておいて欲しい糖尿病治療のポイントをご紹介します。

連載第8回では、糖尿病患者のシックデイ(調子の悪い日)を取り上げます。薬剤師として、患者さんのシックデイ時にどのように指導をすればいいのか、ポイントをおさえておきましょう。


参考文献:表1-4 糖尿病療養指導ガイドブック2016

【第8回】 薬剤師が気を付けたい糖尿病患者のシックデイ対策の画像2

糖尿病患者さんが食事を取れない日、シックデイ

まず、はじめにみなさんはシックデイがどういう状態かご存知でしょうか?糖尿病治療ガイドには、「糖尿病患者が治療中に発熱、下痢、嘔吐をきたし、または、食欲不振のため食事ができないときをシックデイと呼ぶ」と記されています。要は、糖尿病治療を行っている患者さんが、いつもと違う状態となったり、ご飯があまり食べられなくなったりした状態を示します。糖尿病患者にとっては、歯科で歯を抜いたときや妊娠中のつわりもシックデイに入ります。
なぜ、ここでシックデイを取り上げるかというと、シックデイに備えて薬剤師がやるべきことは山ほどあるのに、自分自身も含めて十分な対策ができていないと感じるからです。

シックデイには、どんなことが起こっている?

糖尿病患者の体調が良くなかったり、傷などの炎症が起こったりしているとき、体の中で血糖値はどのようになっているのでしょうか。「ご飯が食べられなくなっているんだから、血糖値は上がらなくなっているはずだ」。と想像するかもしれませんが、はたしてそうでしょうか。実は、炎症が起こることで、炎症性サイトカインやインスリン拮抗ホルモンが多く産生され、それらによりインスリン抵抗性が惹起され、血糖値が上がることがあります。だからこそ薬剤師として、どのような薬剤の管理をすべきかが大切になってきます。

シックデイルールの画像

前述のシックデイルールを見ていただくとわかるように、まず、脱水を起こさないようにいかに水分の摂取させることができるか、炭水化物をどの程度取れるか、また、糖尿病治療薬を適切に調整できるかがポイントになります。上記が担保できない場合には、医療機関へ速やかに受診しなくてはいけません。医療機関の受診が必要な場合については次の表2にまとめられています。

医療機関の受診が必要な場合の画像

次にシックデイ時の経口血糖降下薬、インスリンの対処法を表3、4でご紹介します。

表3 シックデイ時の経口血糖降下薬の減量・中止の目安

シックデイ時の経口血糖降下薬の減量・中止の目安の画像

表4 シックデイ時の(超)即効型インスリン量増減の目安

シックデイ時の(超)即効型インスリン量増減の目安の画像

原則として、持効型、中間型インスリンは食事量に応じてインスリン量を変更しない、食事不安定時期は食直後にインスリン注射を行う。
():総インスリン量30単位未満の患者に対するスケール
(上野宏樹、他:最新医学 別冊 新しい診断と治療のABC 18/糖尿病/代謝2改訂第2版、最新医学社、大阪、p.210-220、2010、改変引用)
出典:  糖尿病療養指導ガイドブック2016

シックデイ時の治療薬の継続、中止のポイント

シックデイ時の薬の調整量をご覧いただき、どんな印象をうけましたか。たしかに理解度の高い患者さんであれば、使用している薬剤に合わせた対処方法を事前に指導しておくことは有効です。ただし、シックデイに陥る患者さんの大部分が高齢者であり、また多くの高齢者の内服処方は一包化されています。
「グリメピリドを食事量に合わせて調整が要ります」と説明しても、どれが当該薬剤グリメピリドなのかわからないかもしれません。また、病院で先発品のアマリール®を処方していても、いつの間にかジェネリックになっているかもしれません。私もシックデイの指導をどうすべきか、とても迷ったことがあり、今でも迷うことがあります。

そこで、まずは「ここだけは外してはいけない」ポイントを押さえておきましょう。


(1)ビグアナイド系、SGLT2阻害薬は中止

シックデイでは脱水が陥りやすく、避けるべき状態のひとつです。ビグアナイドは、脱水を起こしてしまったとき、重篤な副作用である乳酸アシドーシスを起こしてしまいます。また、SGLT2阻害薬は、そもそも浸透圧利尿により脱水を助長する可能性が高いため、中止しておくべきです。
余談ですが、以前にもお話しした通り、現在、日本で最も使用されているDPP-4阻害薬も消化管へ影響することがあるため、シックデイで食欲が落ちている高齢者などでは注意する必要があるでしょう。


(2)ベースインスリンはやめない

ある程度の期間、インスリンを継続使用している患者さんが急にインスリンを中止すると、血糖が上昇し、かえって状態が悪化する場合があります。超速効型インスリンは、食事が摂れない場合には中止して問題ありませんが、持効型インスリンは止めないように指導しておくべきでしょう。そこで問題になるのが混合型インスリンを使用している場合です。このシックデイ対応に関しては、私自身も答えが見つかっていませんが、シックデイに陥る可能性が高い患者さんに、混合型インスリンを使用するかどうか、慎重に考える必要があると考えています。


あくまでもここで取り上げた内容は最低限の対処方法であり、当然、患者さん個々に合わせた対処法が必要であることは忘れないでください。今後、ますます高齢糖尿病患者さんが増加し、シックデイへの対応が欠かせなくなってくると思います。調剤薬局では、かかりつけ薬剤師制度により24時間対応も可能になってきています。ぜひ、開局薬剤師の先生方のお力をお借りして、患者さんの状態に合わせた安全な対応を実現させていきたいと考えています。

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柳瀬 昌樹
やなせ まさき

薬剤師。薬科大学を卒業後、現在に至るまで病院勤務を続け、糖尿病、感染症などの専門資格を取得。医師の先生方からの全面的ご協力の下、日々奮闘中。
主な取得資格:糖尿病療養指導士、糖尿病薬物療法認定薬剤師、抗菌化学療法認定薬剤師、日本病院薬剤師会病院薬学認定薬剤師、実務実習認定薬剤師
所属学会:日本糖尿病学会、日本くすりと糖尿病学会(認定薬剤師認定委員兼務)、日本化学療法学会、日本病院薬剤師会

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