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糖尿病の豆知識

更新日: 2020年4月19日 柳瀬 昌樹

【第12回】 高齢者の糖尿病 治療法と注意点

【第12回】 高齢者の糖尿病 治療法と注意点の画像

糖尿病の世界では長年、患者さんの総死亡を減少させる(長生きできる)治療法の確立を目指してきました。ここ最近、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬により総死亡を抑制できたという臨床試験結果が出たことで、各国のガイドラインなどが大きく変わってきています。
糖尿病療養指導士、糖尿病薬物療法認定薬剤師、抗菌化学療法認定薬剤師の資格を持ち、日本糖尿病学会、日本くすりと糖尿病学会、日本化学療法学会に所属する著者が薬剤師の皆さんに知っておいて欲しい糖尿病治療のポイントをご紹介します。

今回は、前回(第11回「高齢者の糖尿病 概要」)の続きとして、高齢者の具体的な治療法、注意点などについてまとめていきたいと思います。

まずは、下の図をご覧ください。糖尿病患者の認知症リスクを示した表です。高血糖により血管が障害され、血管障害性認知症のリスクが高くなるのはいうまでもありません。最近では、高血糖のみならず、低血糖でも血管に大きなダメージを受けることが証明されており、低血糖も認知症のリスクになると言われています。ここでは認知症だけでなく、生体機能の低下に合わせた、より安全で現実的な治療法を考えていきましょう

【第12回】 高齢者の糖尿病 治療法と注意点の画像1

高齢者に合った薬物療法

1.アドヒアランスを考慮した薬剤選択

認知機能の低下を認めるような状態では、薬剤の自己管理が難しくなることも少なくありません。今まで、1日3回飲めていた、食前の内服でもしっかり飲めていた薬も、もしかすると飲めていない可能性が高いのではないでしょうか?まずは、アドヒアランスを確認する作業から行いましょう。調剤薬局の先生方にもご協力いただき、残薬の確認を行っていくことも一つです。第三者による介護支援などを活用し、在宅医療の一環として、実際のアドヒアランスを確認しに行くことが望ましいでしょう。その上で、実行可能な簡略化された処方を構築し、必要であれば減薬も積極的に行っていくべきでしょう。

2.代謝機能低下に対応した薬剤選択

高齢者では加齢に伴い代謝機能が低下したり、原疾患による腎機能、肝機能の低下などが認められたりします。肝機能の低下によって、血糖値が下がりにくくなるのは言うまでもありませんが、低血糖時のレスキューレスポンスが遅くなるということも忘れてはいけないでしょう。また、腎機能低下患者さんでは、高齢者糖尿病診療ガイドラインでも重症低血糖リスクが高くなる薬剤として挙げられているSU、グリニド、インスリンの代謝が遅れ、体内での蓄積、効果の延長などが原因となり、遷延性の低血糖につながります。このようなリスクを最小限に抑える処方を検討することも重要です。

3.有害事象リスクを低くする薬剤選択

高齢者に対する有害事象リスクとして、低血糖以外でも、転倒、骨折、体重減少、体重増加などが存在します。低血糖そのものが転倒、骨折などのリスクにもつながるため、総合的に考慮しなければなりません。体重に関しては、高齢者はBMI25前後が理想的だといわれていますが、過剰な体重増加は、ADLの低下に直結するため、好ましくありません。そういう意味では、肥満傾向の患者さんには、体重増加を引き起こしやすい薬剤を選択するべきではないでしょう。また、見落とされやすい有害事象リスクの1つに薬剤による体重減少があります。薬剤の中には医原性に食欲不振、体重減少を引き起こすもの(DPP4阻害薬、GLP-1受容体作動薬による消化器症状、SGLT-2阻害薬によるカロリーロス、BG薬による悪心など)もあり、注意が必要です。

4.シックデイに備えた薬剤選択と準備

高齢者になるとシックデイに陥る可能性も高くなります。シックデイの具体的な対策に関しては、第8回(薬剤師が気を付けたい糖尿病患者のシックデイ対策)で細かく解説しましたので、ここでは割愛しますが、高齢者で一番の問題は、「一包化されている薬剤の中止」ではないでしょうか?そもそも、食事が摂れない時に内服すると低血糖リスクや脱水リスク、他の副作用リスクを上げてしまう薬剤は内服すべきではありません。また、食欲を低下させる可能性のある薬剤も避けておくべきでしょう。
シックデイ時には内服を中止したり減量したりすべき薬剤が、他の薬剤と裸錠一包化されている場合、中止してもらうことは簡単なことはでありません。第8回のコラムで紹介した、「24時間対応しているかかりつけ薬剤師さんの力をお借りする」以外の方法も考える必要があります。例えば、事前に中止すべき糖尿病治療薬を抜いてある「体調が悪い時の薬」を別に作成しておく方法などはどうでしょうか?このようにその状況に応じたシックデイ対策は非常に重要です。

今回は、糖尿病と認知症の関係から始まり、高齢者にあった薬物療法をご説明しました。次回は、食事、運動療法、さらに注意すべき低血糖、フレイル、サルコペニアなどについて考えていきたいと思います。

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柳瀬 昌樹
やなせ まさき

薬剤師。薬科大学を卒業後、現在に至るまで病院勤務を続け、糖尿病、感染症などの専門資格を取得。医師の先生方からの全面的ご協力の下、日々奮闘中。
主な取得資格:糖尿病療養指導士、糖尿病薬物療法認定薬剤師、抗菌化学療法認定薬剤師、日本病院薬剤師会病院薬学認定薬剤師、実務実習認定薬剤師
所属学会:日本糖尿病学会、日本くすりと糖尿病学会(認定薬剤師認定委員兼務)、日本化学療法学会、日本病院薬剤師会

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