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糖尿病の豆知識

更新日: 2020年5月6日 柳瀬 昌樹

【第13回】 高齢者の糖尿病 対応時のポイント

【第13回】 高齢者の糖尿病 対応時のポイントの画像

糖尿病の世界では長年、患者さんの総死亡を減少させる(長生きできる)治療法の確立を目指してきました。ここ最近、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬により総死亡を抑制できたという臨床試験結果が出たことで、各国のガイドラインなどが大きく変わってきています。
糖尿病療養指導士、糖尿病薬物療法認定薬剤師、抗菌化学療法認定薬剤師の資格を持ち、日本糖尿病学会、日本くすりと糖尿病学会、日本化学療法学会に所属する著者が薬剤師の皆さんに知っておいて欲しい糖尿病治療のポイントをご紹介します。

⁑1:国立国際医療センター・糖尿病情報センターHP

第3回を迎えました「高齢者の糖尿病」治療について考えるシリーズ。今回は、食事、運動療法など注意すべきポイントについてご説明します。

▼これまでの「高齢者と糖尿病」に関する記事も併せてご覧ください
第11回 高齢者の糖尿病 概要
第12回 高齢者の糖尿病 治療法と注意点

高齢者に合った食事療法

一般的には、性別・年齢、肥満度、血糖値、合併症の有無、活動量などから、必要なエネルギー量を決めます。高齢者ではエネルギー比率は炭水化物を50~60%、脂質20~30%、たんぱく質15~20%を目安(⁑1)にするといわれていますが、実際には目安に比べてたんぱく質の摂取が少なくなることが多く、第4回コラム(薬剤師のための糖尿病治療の豆知識)でもまとめた通り、1~1.5g/kg/dayのたんぱく質を摂取できるようにするべきでしょう。また、過剰なカロリー制限も筋力の低下につながるため、注意しなければなりません。

高齢者の運動療法

高齢者に限らず、どのような運動療法を行えるかに関しては、かなりの個人差が存在します。一般的には、息が弾む程度の有酸素運動を15~20分程度持続するのが理想とされています。また、そこに少しでもレジスタンス運動(いわゆる筋トレ)を加えると大きな効果が期待できるといわれています。高齢者であっても、十分上記の運動ができる方もいれば、足腰や合併症によって、運動が難しい方までさまざまです。まずは、負担がかからず続けられるような自分に合った運動からスタートし、気分転換などもかねて行うことが理想ではないでしょうか。座っている時間を短くするなど、体を動かすよう少し気をつけるだけでも効果は現れます。高齢者の運動では、「高齢者脱水を感じにくい」という特徴を踏まえ、こまめな水分補給や、十分な低血糖対策などに注意しましょう。

高齢者の低血糖

低血糖対策については、第7回のコラム(薬剤師のための糖尿病治療の豆知識)で詳しくまとめていますので、ここで対策に関しては割愛させていただき、高齢者の低血糖に関する注意点をまとめておきます。
一般的に、代表的な低血糖症状といえば、「動悸、異常発汗、手の震え」などの自律神経症状を思い浮かべる方が多いと思いますが、高齢者では、この典型的な症状が出ないことも多いとご存じでしょうか?高齢者では、神経糖欠乏症状といわれる「頭や体がクラクラする、動作がぎこちなくなる、めまい、脱力感、呂律が回らない」などの症状が優位に現れることがあるのです。ですから、高齢者糖尿病患者さんへの低血糖説明も実は比較的若い人とは区別して行わなければならないことになります。

高齢者とサルコペニア、フレイル

サルコペニア、フレイルという言葉を聞いたことがあるでしょうか?いずれも高齢に伴い、筋力低下が転倒や他の疾患につながる概念を示した言葉です。サルコペニアとは、加齢に伴う骨格筋の質や量が低下することを示し、フレイルとは、そもそも虚弱(frailty)に由来する言葉で、筋力や活力が衰え、体の予備機能が衰えていることを示します。健康な人と病気の人のちょうど間(要介護予備軍ともいえるかもしれません)と言われたりします。下の図は糖尿病疾患がある患者さんは、非糖尿病の患者さんに比べ、優位に筋力が低下し、それが転倒リスクにもつながっていることを示唆するデータです。

【第13回】 高齢者の糖尿病 対応時のポイント 高齢者とサルコペニア、フレイルの画像

このように、サルコペニア・フレイルは、転倒、要介護など様々な老年症候群につながる要素となります。寝たきりになる患者さんの多くは骨折(大腿骨警部骨折など)が原因になり、寝たきりは、認知機能の低下やその後のQOLにも大きくかかわってしまいます。高齢の患者さんを診る場合には、サルコペニア、フレイルを考慮にいれた食事、運動、薬物治療を選択しなければならないでしょう。

在宅医療に関して

在宅医療に関して 在宅医療はこれからのすべての診療と切っても切れないものです。ここでは、私の体験談から在宅医療について考えたいと思います。
在宅医療で問題になるのは、老々介護や一人で生活されている高齢者の方です。家で今までの生活や治療が難しくなったからといって、第三者が入ることが正解とは言い切れません。患者さん自身が、治療を継続可能で、そうしたいと考えている場合、「どこまでその意思を尊重し、治療によって生じるリスクを抑えるか」も大切なポイントとなります。事実、ヘルパーさんや訪問看護師さんが家に入ることを拒否する患者さんも少なくありません。
われわれ医療者の役割は、患者さんの意思を十分に考慮した上で、本当の意味のQOLを高める治療を実現するお手伝いをすること。これが大変難しく、大切なことなのだと感じています。

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柳瀬 昌樹
やなせ まさき

薬剤師。薬科大学を卒業後、現在に至るまで病院勤務を続け、糖尿病、感染症などの専門資格を取得。医師の先生方からの全面的ご協力の下、日々奮闘中。
主な取得資格:糖尿病療養指導士、糖尿病薬物療法認定薬剤師、抗菌化学療法認定薬剤師、日本病院薬剤師会病院薬学認定薬剤師、実務実習認定薬剤師
所属学会:日本糖尿病学会、日本くすりと糖尿病学会(認定薬剤師認定委員兼務)、日本化学療法学会、日本病院薬剤師会

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