第14回 糖尿病の合併症を整理しよう1
糖尿病の世界では長年、患者さんの総死亡を減少させる(長生きできる)治療法の確立を目指してきました。ここ最近、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬により総死亡を抑制できたという臨床試験結果が出たことで、各国のガイドラインなどが大きく変わってきています。
糖尿病療養指導士、糖尿病薬物療法認定薬剤師、抗菌化学療法認定薬剤師の資格を持ち、日本糖尿病学会、日本くすりと糖尿病学会、日本化学療法学会に所属する著者が薬剤師の皆さんに知っておいて欲しい糖尿病治療のポイントをご紹介します。
糖尿病とは慢性的な高血糖が持続することで、体中の血管が痛み、それによる疾患(合併症)が現れる特徴を持つ疾患です。この「糖尿病の合併症シリーズ」では、いろいろな合併症を一つずつわかりやすく整理していくことにしましょう。
糖尿病の合併症は数え切れません!
上でも述べたように糖尿病の合併症の多くは血管が痛むことで起こります。つまり、血管が走っているところには、合併症が起こってもおかしくないということです。体の中で切っても血が出ない(血管が走っていない)ところは、毛、爪の先、歯の先などわずかです。よって、いろいろな場所が血糖値の影響を受けていると言えるわけです。
細小血管障害(三大合併症)
出典:医療法人沖縄徳洲会 四街道徳洲会病院
まずは、有名な三大合併症から整理していきましょう。右の図のように三大合併症は、それぞれの頭文字をとって「し・め・じ」と患者さんには覚えてもらっています。神経障害の「し」、目の障害の「め」、腎臓の障害の「じ」といった感じです。また、これは、合併症が起こりやすい順番に並んでいます。もちろん例外もあり、この順番で起こると言い切ることはできませんが、神経障害が最も早く起こることは、間違いないと言われています。
それぞれの障害について詳しく紹介しましょう。
出典:医療法人沖縄徳洲会 四街道徳洲会病院
(1)糖尿病性神経障害
まずは、「しめじ」の「し=神経障害」。一番初めにどんな人にも現れる合併症と言われている神経障害。神経には、インスリンの作用がなくても糖が神経細胞に移行するものがあります。血管が痛む機序以外に、高血糖が直接影響する分、誰にでも起こるのかも知れません。「神経」と一言で言っても、物を感じる知覚神経、運動をつかさどる運動神経、意識せずに働いている自律神経と神経の種類もいろいろ。その中で最も患者さんの自覚につながるのが知覚神経障害(末梢神経障害)と言われています。もちろん、自律神経が障害されることで、心臓を支配する神経が痛めば、不整脈などを引き起こし、腸管を支配する神経が痛めば、便秘や下痢を繰り返す症状が出ることはあるでしょう。しかし、これを糖尿病が原因であると証明することはかなり難しく、排便トラブルなどに対しては対症療法しかないこともあり、あまり議論に挙がることはないのかもしれません。
末梢神経障害に関して、患者さんの自覚で言えば足や手の先の違和感、しびれ、痛みなどが有名です。糖尿病性末梢神経障害の特徴としては、手よりも足先に起こる頻度が高いこと、左右対称に症状が現れることがほとんどであることなどが挙げられます。
出典:小野薬品
上のように、末梢神経障害の症状は進行とともにいろいろな自覚症状を現わします。最初は、足先に違和感、ピリピリとした感じがするなどの訴えから始まることが多く、さらに進行するとビリビリと強い痛みを感じるようになり、中には「痛みで眠れない」など日常生活にも支障が出始める人が現われます。さらに症状が進行すると、もはや神経が感じなくなってくるため、痛みがなくなってきます。患者さんの中には「治ってきている」と勘違いする人もいるでしょうし、おかしいとは思っていても、「痛くなくなっているんだから、まあいいか」と楽観的に考える人もいます。これが怖いところ。感覚がないということは、いろいろな有害事象につながってしまいます。
糖尿病性神経障害の「感覚がなくなる」ことで起きること
まず、足の裏の感覚が鈍くなると歩くときに地面の位置を正確に感じることが難しくなり、つまずいたりこけやすくなったりします。足に違和感など自覚症状のある患者さんには、こけないように気をつける、階段などを上り下りするときには手すりをもって、こけない対策をとってもらうことが重要です。こけて頭でも打ったら大変なことになります。