【第16回】 糖尿病の合併症「大血管障害」
糖尿病の世界では長年、患者さんの総死亡を減少させる(長生きできる)治療法の確立を目指してきました。ここ最近、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬により総死亡を抑制できたという臨床試験結果が出たことで、各国のガイドラインなどが大きく変わってきています。
糖尿病療養指導士、糖尿病薬物療法認定薬剤師、抗菌化学療法認定薬剤師の資格を持ち、日本糖尿病学会、日本くすりと糖尿病学会、日本化学療法学会に所属する著者が薬剤師の皆さんに知っておいて欲しい糖尿病治療のポイントをご紹介します。
糖尿病合併症シリーズ3回目は「大血管障害」について説明します。糖尿病の合併症の代表格「しめじ」については、以前の記事をチェックしてください。
第1回「糖尿病性神経障害」
第2回「糖尿病性網膜症」「糖尿病性腎症」
大血管障害
大血管障害は、三大合併症の「しめじ」に対応して、キノコつながりの「えのき」で覚えていただくことが多いのではないでしょうか?
え・・・壊疽の「え」(糖尿病性壊疽)
の・・・脳血管疾患の「の」
き・・・虚血性心疾患「き」
まず、大きな特徴として、細小血管障害が糖尿病によっておこる糖尿病の専売特許みたいな合併症であるのに対して、大血管障害は、糖尿病を含むさまざまな要因で動脈硬化が進み、これにより引き起こされます。それでは、1つずつ見ていきましょう。
(1)糖尿病性壊疽
血糖コントロールが悪く、動脈硬化が進んだ患者さんは、末梢の血行循環が悪くなります。つまり手や足先にうまく血が回らなくなるため、極端に足が冷えるなどの症状が出てしまいます。そこに、重ねて末梢神経障害による鈍麻が重なると糖尿病壊疽のリスクが高まります。
壊疽の最初の原因は、傷ができることです。手は、比較的頻繁に肉眼で確認するため、傷に気づかないまま放置されていることは、比較的少ないと思いますが、足(特に足の裏や指の間など)はなかなか見る習慣がないため、傷を発見しづらいです。
末梢神経障害により痛みに鈍くなっていると、痛みによって小さい傷に気づくことも少なくなります。さらに、末梢への血流が乏しくなると、小さい傷では出血さえ確認できなくなることもあります。また、血行循環が悪くなっていると免疫応答に必要な血球類が足先まで届きにくく、結果として、免疫力も低下することになります。すると、傷から入り込んだばい菌が、足を腐らせてしまうわけです。
実は、皆さんが思っている以上に足壊疽の進行は早く、はじめは少し気になる程度の傷から始まっても、1~2週間で切断をしなくてはいけない判断になる症例も見受けられます。
私は、足に違和感(ピリピリ、鈍麻、冷えなどの症状)がある場合には、できるだけ頻繁に足を見ることをすすめています。
足裏ケアにひそむ意外な落とし穴
足壊疽の“落とし穴”の1つに、足裏の処理があります。冬場のカサカサかかとなどの対応として、軽石でこする(最近はあまり聞かなくなりましたが)、専用の美容器具などを使用してツルツルにしている方もいらっしゃるでしょう。もちろん、一般的には上記の方法で足裏のケアをすることに問題はありませんが、血糖コントロールが悪い方は例外です。