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糖尿病の豆知識

更新日: 2020年7月8日 柳瀬 昌樹

【第16回】 糖尿病の合併症「大血管障害」

第16回 糖尿病の合併症「大血管障害」の画像

糖尿病の世界では長年、患者さんの総死亡を減少させる(長生きできる)治療法の確立を目指してきました。ここ最近、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬により総死亡を抑制できたという臨床試験結果が出たことで、各国のガイドラインなどが大きく変わってきています。
糖尿病療養指導士、糖尿病薬物療法認定薬剤師、抗菌化学療法認定薬剤師の資格を持ち、日本糖尿病学会、日本くすりと糖尿病学会、日本化学療法学会に所属する著者が薬剤師の皆さんに知っておいて欲しい糖尿病治療のポイントをご紹介します。

糖尿病合併症シリーズ3回目は「大血管障害」について説明します。糖尿病の合併症の代表格「しめじ」については、以前の記事をチェックしてください。
第1回「糖尿病性神経障害」
第2回「糖尿病性網膜症」「糖尿病性腎症」


第16回 糖尿病の合併症「大血管障害」の画像2

大血管障害

大血管障害は、三大合併症の「しめじ」に対応して、キノコつながりの「えのき」で覚えていただくことが多いのではないでしょうか?
え・・・壊疽の「え」(糖尿病性壊疽)
の・・・脳血管疾患の「の」
き・・・虚血性心疾患「き」
まず、大きな特徴として、細小血管障害が糖尿病によっておこる糖尿病の専売特許みたいな合併症であるのに対して、大血管障害は、糖尿病を含むさまざまな要因で動脈硬化が進み、これにより引き起こされます。それでは、1つずつ見ていきましょう。

(1)糖尿病性壊疽

血糖コントロールが悪く、動脈硬化が進んだ患者さんは、末梢の血行循環が悪くなります。つまり手や足先にうまく血が回らなくなるため、極端に足が冷えるなどの症状が出てしまいます。そこに、重ねて末梢神経障害による鈍麻が重なると糖尿病壊疽のリスクが高まります。
壊疽の最初の原因は、傷ができることです。手は、比較的頻繁に肉眼で確認するため、傷に気づかないまま放置されていることは、比較的少ないと思いますが、足(特に足の裏や指の間など)はなかなか見る習慣がないため、傷を発見しづらいです。
末梢神経障害により痛みに鈍くなっていると、痛みによって小さい傷に気づくことも少なくなります。さらに、末梢への血流が乏しくなると、小さい傷では出血さえ確認できなくなることもあります。また、血行循環が悪くなっていると免疫応答に必要な血球類が足先まで届きにくく、結果として、免疫力も低下することになります。すると、傷から入り込んだばい菌が、足を腐らせてしまうわけです。
実は、皆さんが思っている以上に足壊疽の進行は早く、はじめは少し気になる程度の傷から始まっても、1~2週間で切断をしなくてはいけない判断になる症例も見受けられます。
私は、足に違和感(ピリピリ、鈍麻、冷えなどの症状)がある場合には、できるだけ頻繁に足を見ることをすすめています。

足裏ケアにひそむ意外な落とし穴

足壊疽の“落とし穴”の1つに、足裏の処理があります。冬場のカサカサかかとなどの対応として、軽石でこする(最近はあまり聞かなくなりましたが)、専用の美容器具などを使用してツルツルにしている方もいらっしゃるでしょう。もちろん、一般的には上記の方法で足裏のケアをすることに問題はありませんが、血糖コントロールが悪い方は例外です。どんなアイテムを使用しても結局は削っている(傷をつけている)ことになりますので、免疫が落ちている状態では、感染につながる可能性が考えられます。まずは、傷を作らないことが最優先になると考えます。かかとのケアに関しては、削らずに尿素などが配合されているクリームによるケアを勧めるのが良いでしょう。
また、胼胝や魚の目、タコなどの処理も手慣れた手つきで、カッターやハサミを使用してされている患者さんをたまに見かけます。ただ、どんなに手慣れた患者さんでもたまに失敗することがあります。この1回の失敗が命取りになることもあるのです。立ち仕事などをしている患者さんなどでは、足裏のチェックは必須ではないでしょうか?必ず、これらの処置は皮膚科などで専門の器具を使って、プロに行ってもらうようにしましょう。

「え」=脳血管疾患と「き」=虚血性心疾患について
第16回 糖尿病の合併症「大血管障害」の画像

出典「糖尿病セミナー16  糖尿病と脳梗塞・心筋梗塞」(糖尿病ネットワーク)

脳と心臓はまとめてご説明します。復習にはなりますが、血糖コントロール不良が長期間続くと、上記のように動脈硬化が進行します。形成されてプラークで血管の内腔が狭くなったり、できたプラークが血流とともに流れ、塞栓症を引き起こしたりします。このように動脈硬化性疾患である心筋梗塞や脳梗塞は、血糖コントロールが悪いと発生頻度は大きくなります。ただし、先でも述べたように血糖値だけで引き起こされる疾患ではなく、その他のリスク因子として、高血圧、脂質異常、肥満、喫煙など多くの因子が関係するといわれています。
ここで、患者さんに伝えるべきことの1つとして、それぞれのリスク因子は、掛け合わせて増していくということです。例えば、血糖コントロール不良なら、心筋梗塞リスクが3倍になると仮定します。同じく、脂質異常が3倍のリスク因子になるとすると、血糖コントロール不良と脂質異常が重なった時のリスクは「3倍+3倍=6倍」を上回るということです。いわゆるメタボリックシンドロームと同じ考え方で、それぞれのリスク因子は、重なりあうことで膨れ上がるといわれています。そこで、患者さんには、すべてを完璧に良くすることは難しくても、血糖値を少し良くする、脂質異常も正常値までには達しないが、前よりも少し良くする、小さな改善を積み重ねることで、心筋梗塞や脳梗塞が起こる可能性はどんどん小さくなっていくという話題を提供したりします。
小さな成功体験は、ハードルも低く、積み重ねることで大きなアウトカムにつながることが少なくありません。皆さんも、本当の患者さんが求めるアウトカムを常に考え、色々な指導方法を試してみてください。

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柳瀬 昌樹
やなせ まさき

薬剤師。薬科大学を卒業後、現在に至るまで病院勤務を続け、糖尿病、感染症などの専門資格を取得。医師の先生方からの全面的ご協力の下、日々奮闘中。
主な取得資格:糖尿病療養指導士、糖尿病薬物療法認定薬剤師、抗菌化学療法認定薬剤師、日本病院薬剤師会病院薬学認定薬剤師、実務実習認定薬剤師
所属学会:日本糖尿病学会、日本くすりと糖尿病学会(認定薬剤師認定委員兼務)、日本化学療法学会、日本病院薬剤師会

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