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糖尿病の豆知識

更新日: 2020年7月25日 柳瀬 昌樹

【第17回】 糖尿病の合併症4 見落とされがちな合併症

第17回 糖尿病の合併症4 見落とされがちな合併症の画像

糖尿病の世界では長年、患者さんの総死亡を減少させる(長生きできる)治療法の確立を目指してきました。ここ最近、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬により総死亡を抑制できたという臨床試験結果が出たことで、各国のガイドラインなどが大きく変わってきています。
糖尿病療養指導士、糖尿病薬物療法認定薬剤師、抗菌化学療法認定薬剤師の資格を持ち、日本糖尿病学会、日本くすりと糖尿病学会、日本化学療法学会に所属する著者が薬剤師の皆さんに知っておいて欲しい糖尿病治療のポイントをご紹介します。

皆さん、こんにちは。糖尿病の合併症に関して数回にわたってお伝えしています。いよいよ合併症シリーズも第4回。最後になるこの回では、一般的な三大合併症や動脈硬化以外の合併症について取り上げていきたいと思います。


(1)歯周病

まずは、何と言っても見落とされている可能性の高い歯周病を取り上げていきたいと思います。実は、歯周病と糖尿病はお互いに助け合ってしまう病気といわれています。つまり、糖尿病が悪いと歯周病が悪化し、歯周病が悪化するほど糖尿病も悪化するということです。
体の中ではどうなっているかと言うと、糖尿病で血糖コントロールが悪い状態が続くと、免疫応答が弱くなり、歯茎の感染の一種である歯周病はどんどん悪化していきます。歯周病が悪化していくと、炎症性サイトカインであるインターロイキンやTNF-αなどといったサイトカインが分泌され、これがインスリン抵抗性を惹起してしまいます。(つまりインスリンが効きにくい状態を作ってしまうということです)。実際に行ってくださっているかは別の話として、糖尿病の患者さんが眼科に定期的に通う必要があることはある程度周知されてきましたが、歯科も定期的に受診するように周知していくべきかもしません。
私は、歯磨きをするたびに歯茎から血が出る患者さんには、すぐに歯科受診をおすすめしますし、症状が何もない患者さんでも1年に1回程度の歯科点検をおすすめしています。早めに歯科受診をしておけば、「早い・安い・痛くない」とまるで牛丼のキャッチフレーズのような3拍子がついてきますしね。

第17回 糖尿病の合併症4 見落とされがちな合併症の画像2

出典:東京都保険局

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(2)認知症

高齢になるにつれてリスクの高くなる認知症。第12回の高齢者糖尿病の中でも述べましたが、慢性的な高血糖が脳血管を痛める原因となり、血糖コントロール不良の患者さんでは、明らかに認知症の発症頻度が高くなります。以前にまとめた内容なので、ここでは、簡略化しますが、認知症は、患者さんのQOLを低下させ、また、糖尿病治療を困難にさせる大きな要因の1つになるため、注意が必要です。

(3)易感染、免疫低下

糖尿病性の足壊疽でも、少しふれましたが、血糖コントロール不良は、免疫自体も低下させ、免疫抑制状態を引き起こします。私は、抗菌化学療法認定薬剤師の資格も有しており、院内でも感染症に対するコンサルテーション業務を行っておりますが、実感として、HbA1cの高い患者さんの感染症治療には難渋することが多いです。普通なら1週間もあれば回復する疾患であっても2週間以上かかる症例も見られますし、手術後の周術期血糖コントロールがうまくいっていない症例では、術後感染症との闘いが厳しくなることもあります。
同時に動脈硬化も進んでいると、免疫をつかさどる白血球などを運ぶ経路(血管)自体も正常でないため、末梢などではさらに易感染になるということもあるでしょう。さらには、感染の治療が難しくなるだけでなく、結核などが発症するリスクも上がってしまう場合もあります。

(4)糖尿病性ED

この合併症は意外に多くの患者さんが罹患していますが、あまり話題に上がらないかもしれません。しかし、実際の患者さんの中には、悩んでいる人も少なくないと思います。
そもそも、糖尿病性EDとは、糖尿病によって陰茎が勃起しなくなったり、あるいはその維持をできなくなったりするために、満足に性交が行えない状態のことを言います。もちろん、加齢によりEDの罹患率は高くなりますが、糖尿病があるとそのリスクは同世代の健康な人の2~3倍になるといわれています。推定で糖尿病性EDの患者さんは100~200万人と言われていますが、実際に治療されているのは1%程度だと思います。
糖尿病性EDの原因は、血糖コントロール不良により生じる自律神経障害と血管障害です。この2つにより血流の確保が難しくなることで起きます。この類の症状は、どうしても言いにくいという傾向があり、患者さんには合併症症状の1つである可能性があると情報提供しておくことが必要かもしれません。


これまで、4回にわたり、糖尿病の合併症についてご紹介してきました。糖尿病の合併症は、いつの間にか近づき、ある時、急に患者さんのQOLを低下するほどの症状を表す、まさに「サイレントキラー」と呼べる存在です。患者さんが合併症に苦しむ未来を止めるために、我々医療者は数々ある情報を患者さんに提供し続ける必要があると思います。

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柳瀬 昌樹
やなせ まさき

薬剤師。薬科大学を卒業後、現在に至るまで病院勤務を続け、糖尿病、感染症などの専門資格を取得。医師の先生方からの全面的ご協力の下、日々奮闘中。
主な取得資格:糖尿病療養指導士、糖尿病薬物療法認定薬剤師、抗菌化学療法認定薬剤師、日本病院薬剤師会病院薬学認定薬剤師、実務実習認定薬剤師
所属学会:日本糖尿病学会、日本くすりと糖尿病学会(認定薬剤師認定委員兼務)、日本化学療法学会、日本病院薬剤師会

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