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糖尿病の豆知識

更新日: 2020年8月8日 柳瀬 昌樹

糖尿病患者における新型コロナ感染症リスク

糖尿病患者における新型コロナ感染症リスクの画像(1)

糖尿病の世界では長年、患者さんの総死亡を減少させる(長生きできる)治療法の確立を目指してきました。ここ最近、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬により総死亡を抑制できたという臨床試験結果が出たことで、各国のガイドラインなどが大きく変わってきています。
糖尿病療養指導士、糖尿病薬物療法認定薬剤師、抗菌化学療法認定薬剤師の資格を持ち、日本糖尿病学会、日本くすりと糖尿病学会、日本化学療法学会に所属する著者が薬剤師の皆さんに知っておいて欲しい糖尿病治療のポイントをご紹介します。

今回は今までと少し思考を変え、m3.com薬剤師会員の皆さんからいただいた「糖尿病患者への服薬指導における疑問・質問」について、文献や私の経験ももとにお答えしていきます。

今回のテーマ「糖尿病患者と新型コロナウイルス感染のリスクについて」

現在、世界規模で流行している新型コロナウイルス感染症。糖尿病患者さんの感染リスク、および重症化のリスクについてまとめます。 前提として、糖尿病を罹患していることが各種感染症のリスクを上げてしまうわけではなく、血糖コントロール不良状態が長期間続いていることが、免疫応答を低下させ、感染症リスクと引き上げることにつながることは明らかです。

糖尿病患者における新型コロナ感染症リスクの画像(2)
糖尿病患者は新型コロナウイルス感染症にかかりやすいの?
日本糖尿病協会のホームページでまとめられたデータによると、中国やアメリカでは、新型コロナウイルス感染症患者の内、糖尿病を持っている患者さんの割合と、国全体の糖尿病患者さんの割合に大きな差は認められませんでした。つまり、糖尿病患者さんが明らかに新型コロナウイルス感染症にかかりやすいとは言えません。
糖尿病患者における新型コロナ感染症リスクの画像(3)

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※糖尿病有病率:国民全体における糖尿病患者の割合

糖尿病患者さんは、新型コロナウイルス感染症にかかったら重症化しやすいの?
日本糖尿病協会がまとめたデータ をご紹介します。下図を見ていただくと、アメリカにおいて入院をせずに済んでいる患者さんのうち、糖尿病をお持ちの患者さんは6%、入院した患者さんの24%が糖尿病、ICU(集中治療室)に入らなければならないような重症患者さんでは、実に32%が糖尿病でした。重症度が上がるに従って、糖尿病罹患率が上昇していることから、糖尿病患者さんは、新型コロナウイルス感染症で重症化するリスクがあると言えます。
糖尿病患者における新型コロナ感染症リスクの画像(4)

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やはり血糖コントロールが重要

最初に述べた通り、糖尿病があるだけで感染症リスクが上がるわけではなく、血糖コントロールが不良であることが感染リスクの上昇と関係しているといわれています。新型コロナウイルス感染症でも重症化リスクと血糖コントロール不良に以下のようなデータがあります。

糖尿病患者における新型コロナ感染症リスクの画像(5)

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<このデータにおける分類>
血糖コントロール良好:血糖値が70-180mg/dLの範囲内で収まっている
血糖コントロール不良:血糖値が180mg/dLを超えることがある

このデータによると、HbA1cが7%前後と血糖コントロール良好な患者さんは、糖尿病を持っていない患者さんと新型コロナウイルス感染症による死亡率に明らかな差は認められませんでした。ところが、HbA1cが8%前後と血糖コントロール不良の患者さんでは、死亡率が大きく跳ね上がることが示されています。やはり重症化したり、死亡率が高くなったりしないように、HbA1cは7%前後まで、つまり食前血糖で120-130mg/dL、食後2時間値を180mg/dL未満にコントロールしておくことが大切だということになります。

その他、こんなことにも気を付けましょう!

自粛要請の影響は?

緊急事態宣言は解除されていますが、やはり新型コロナウイルス感染患者の数は、右肩上がりで増えてきています。これに伴って、外に出る機会が減ったり、仕事が在宅になることで、全体的な運動量が減ってしまったり、人と会う機会も減り、悩みや思いを話す人との接点さえも減ってしまっているかもしれません。このような環境の変化により血糖値も大きく変動する可能性があります。限られた環境の中で日々の体調に気を付け、治療を継続することが大切です。患者さんが何か悩んでいそうだなと気づいた場合は、「不安なときは気軽に相談してくださいね」など、薬剤師側から積極的に声をかけてあげるとよいでしょう。

前向きに何かにチャレンジしてみましょう!

血糖値が環境の変化により一時的に高くなってしまうことは、珍しいことではありません。それだけストレスや環境の変化が血糖値に与える影響は大きいのです。前向きになる「今だからできる新しいチャレンジ」を提案してみるのもいいかもしれません。「家にいる時間が長いことを逆に活用し、普段できなかったことを楽しくやってみてはどうでしょうか?」といった提案です。私の患者さんの中には、友達と自分が作った糖尿病用レシピと実際作った料理の写真を交換し、楽しんでいる患者さんがいらっしゃいました。患者さんの力は大きく、とても前向きでよいことだと感動しました。

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柳瀬 昌樹
やなせ まさき

薬剤師。薬科大学を卒業後、現在に至るまで病院勤務を続け、糖尿病、感染症などの専門資格を取得。医師の先生方からの全面的ご協力の下、日々奮闘中。
主な取得資格:糖尿病療養指導士、糖尿病薬物療法認定薬剤師、抗菌化学療法認定薬剤師、日本病院薬剤師会病院薬学認定薬剤師、実務実習認定薬剤師
所属学会:日本糖尿病学会、日本くすりと糖尿病学会(認定薬剤師認定委員兼務)、日本化学療法学会、日本病院薬剤師会

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