糖尿病患者さんから学ぶこと1
今回は、いつもとは少し違う観点から糖尿病を学びましょう。これまで本当に色々な患者さんと触れ合ってきましたが、その中でも特に印象に残った患者さんを皆さんと情報共有していきたいと思います。また、これらの患者さんから自分自身が学ぶことも多く、その点についても共有できればと考えております。
金銭的な問題で糖尿病外来受診が継続できなくなった患者さん
この患者さんは33歳女性。BMI30kg/㎡弱の肥満傾向。第1子妊娠中に妊娠糖尿病と診断され、食事療法に加え、インスリンを使用し、血糖管理を行うことで無事出産。分娩後、1か月、3か月の内科フォローにより2型糖尿病発症が確認された患者さんです。本人とも相談し、第2子の挙児希望、授乳希望もあったため、強化インスリン療法を継続することとなりました。数か月間のフォローによりHbA1cは6%前半までコントロールできるようになってきていました。ところが、そこからしばらく外来でその患者さんに会わなくなり、約1年半経った頃、外来で再開することになるのです。その時に交わした会話が以下の会話です。
薬剤師:久しぶりですね。どう過ごされていましたか?大丈夫?
患者さん:実は、シングルマザーになってしまって、本当に大変だったんです。
薬剤師:そうですかぁ。それは大変でしたね。病院には行けていました?
患者さん:もう1年以上も病院にかかってなくて・・・
薬剤師:体は大丈夫??しんどくなかったです??
患者さん:もうしんどくて、しんどくて・・・・
この患者さん、治療中断となったことで体がしんどくてたまらなかった様子です。体がしんどかったのに、なぜ病院に来なくなってしまったのでしょうか?
薬剤師:しんどすぎて病院に来ることができなかったんですか?子供のこととかで大変でした?
患者さん:私も病院には来たかったんです。でも、シングルマザーになって、この子(第1子)にもお金がかかるし、自分の病院を受診するお金も余裕もなくなってしまったんです。でもね、今回、補助金が入ったでしょ?仕事もへっちゃったし、病院に行けると思って今日、やっとの思いで来たんです。
話をお聞きすると、この患者さんはシングルマザーとなり、経済的に苦しく毎日掛け持ちで仕事をしていたようでした。それでも金銭的に余裕がなく、また、育児に仕事と時間的にも病院を受診している余裕はなかったとのこと。
そんななか、2019年12月に新型コロナ感染症が世界的猛威を振るうことになりました。掛け持ちで行っていたアルバイトや仕事が減り経済的にますます苦しくなったものの、良くも悪くも時間的余裕が生まれ、また、政府から1人一律10万円のコロナ給付金が支給されたことが契機になり病院を受診しようと思えたようです。これを聞いて、本当に涙が出る思いでした。と同時に、患者さんに寄り添って病気を診させていただくということは、本当に患者さんを取り巻く環境に目を向けていないといけないんだと実感しました。
薬剤師:そうですか。本当に大変だったんですね。きっと治療を再開すれば、また元気になれますよ。一緒に考えていきましょうね。
患者さん:でも・・・。
薬剤師:どうしました?何か他に不安なことが?
患者さん:治療も再開していきたいし、体も早く元気になりたい。でも、定期的に病院に通うだけのお金が用意できるか不安です。
薬剤師:それも一緒に考えていきましょう。お金に関しての問題を考えることも治療の一環ですから。大丈夫!任せてください。治療薬や血糖測定など1か月にかかる概算額を計算し、予算に応じた治療法を選ぶこともできると思いますし、当院にはソーシャルワーカーもいるので、そちらにも相談してみましょう。
結果的に、この患者さん、1年半ぶりに受診した時には、HbA1cが9%台とかなり血糖コントロール不良であり、やはりインスリンによる治療が再開されることになりました。患者さんの金銭状況を主治医と共に加味し、SMBGはFPGのみ(月30)を選択し、血糖値がある程度改善後、メトホルミンを併用しながらのBOTとなりました。basalインスリン量も徐々に減量でき、今ではHbA1c 7.0%までコントロール可能となり、継続通院してくれています。
この患者さんだけでなく、金銭的な問題で通院を中断せざるを得なかったと訴える患者さんは少なくありません。私は薬剤師として本当の意味でのEMBを実践するために、患者さんを取り巻く環境や、患者さんの嗜好に目を向け、患者さんと共に治療の選択と目標を決めていく必要があると思っています。
※実際の患者さんの特定にならないように、表現を大意が変わらない程度に変更しています。