糖尿病患者さんから学ぶこと3
さて、今回の「糖尿病患者さんから学ぶこと」シリーズ第3弾。第2回では、内発的動機付けや外発的動機付けの具体例を挙げ、それらが関わったのではないかと思われる患者さんについて書いてみました。今回も、過去に動機付けにより行動変容につながったと思われる症例を具体的にご紹介したいと思います。
ある目標を見つけたことで糖尿病治療薬から離脱した患者さん
患者さんはAさん50代前半の男性の方。体形は少しぽっちゃり。近医にて初めて糖尿病と言われ、内服薬でコントロールし始めたものの、HbA1c8%台と血糖コントロールがうまくいかず、当院へ教育入院となった患者さんでした。その患者さんとの会話です。
薬剤師:今回、大変でしたね。少ししんどかったんじゃないですか?
患者さん:体はどうってことないんです。元気なんですけどね。それよりも糖尿病って言われたことがショックでね。糖尿病って治らないって言われたんですけど。
薬剤師:それはショックでしたね。確かに糖尿病は完治という概念がないので、治らない病気、付き合っていく病気と言われます。ただ、完治しないというのは、どんな生活をしても何を食べても血糖値が悪くならない状態にすることは難しいという意味で、血糖値が普通の人と同じくらいにコントロールできるようになれば、普通の人と同じだとも言えるんですよ。
患者さん:じゃあ、頑張れば薬もなくせるってことですか?よーし、筋トレでもしてみようかな(笑)
薬剤師:まずは、血糖値を整えて普段のAさんの体を取り戻してから、色々試してみるのはいいと思います。筋トレ、いいかもしれませんね。実際、筋肉の量が多い人は、血糖値が下がりやすいですし、有酸素運動を一緒にすることで余分な脂肪が少なくなって、これまた血糖値が良くなっていくかもしれません。もちろん、血糖値が下がってくれば薬をなくすこともできますよ。
患者さん:えっ!?運動で薬をなしにすることも夢じゃないんですね。いやね、昔から肉体改造に興味があったんです。でも、きっかけがないとなかなか取り組めなくて。よし!かっこよくなってみます(笑)
薬剤師:いいですね。血糖値を整えたら、今よりもずいぶん体も楽になると思いますから、夢を叶えるチャンスにするのは、すごくいいと思います。
そんな入院中の会話から1年たった頃、外来で患者さんと再会し、声をかけていただいたのですが、正直、誰か分からなかった記憶があります。その患者さん、本当に肉体改造をしたらしく、週に2回程度ジムに通うようになったということを本当にうれしそうに話してくれました。目標としていた薬もなしとなり、なおかつHbA1cは6%台とコントロール良好となっていて、びっくりしました。「本当にやりたかったこと」=「糖尿病の治療」につながることで、この患者さんにとっては、「楽しみ」=「糖尿病治療」となった症例ではないかと感じました。
専門医に言ってもらえた意外な一言で考え方が変わった患者さん
患者さんは、70代後半の男性。体形はやせ型で、血糖コントロール目的の入院。事前に話を聞いていると、普段から夏にはかき氷が大好きだが、奥さんに見つかるとすごく怒られると訴えている患者さんでした。糖尿病専門医の先生と糖尿病回診を回るときのことです。事前情報として、「かき氷」について先生にも情報をお伝えして訪室しました。
医師:今回は大変でしたね。何か血糖値が上がる原因みたいなのがありましたか?
患者さん:いや~、何でですかね。家でそんなに食べていないと思うんですけどね。まあ、病院とは少し違うかもしれませんが・・・
妻:先生!この人ね、いくら止めてもお気に入りのかき氷のお店におっきなかき氷食べに行くんですよ。車椅子に乗ってまで食べに行ったりするんです。その後、血糖値測ったらすぐにわかるんですよ。
患者さん:いや、たまには食べたくなるよ・・・
(奥さんが席を離れたタイミングがあり・・・)
医師:なるほど、私も食べたくなりますよ。かき氷。じゃあ、来週の回診の時までに、奥さんにばれないかき氷の食べ方、考えておきますね。
(ザワザワザワ・・・・・)
患者さんは、驚いた表情をしていたことが印象に残っています。この回診から1週間後、再度回診で回るタイミングとなりました。
薬剤師:先生、先週「奥さんにばれないかき氷の食べ方」考えておくっておっしゃっていましたが、どんなアドバイスされるんですか?
医師:どうしますかね。まずは、患者さんの話を聞いてみましょう。
(患者さんの病室で奥さん不在)
医師:こんにちは。先週もお会いしましたね。
患者さん:先生、先週は色々話をしましたが、考えてみれば、やっぱり家での食事とここでの食事が違いすぎると思いました。少し食事自体を考え直してみようと思っています。かき氷の話もしましたが、あれも大丈夫です。
医師:いやでも、上手な食べ方がきっとありますよ。一緒に考えていくこともできますよ。
患者さん:また、そうなったときに聞きますよ。頑張ります。
この患者さん、1週間の間に色々なことを考えたようです。もしかすると、自分としてはよくないことだと思っていることを、専門医の先生など医療者に認めてもらい、また、それを実現する方法を考えましょうと言われたことが、驚きだったのではないかと感じています。少なくとも、この会話こそが、もう一度、自分の治療について考えてみようと思うきっかけになったのだと感じました。
私は、過去にもこのように人に受け入れてもらえたことで、行動が大きく変わる患者さんを多く見てきました。このようなアプローチは患者さん目線で考える1つの方法だと思っています。
※実際の患者さんの特定にならないように、表現を大意が変わらない程度に変更しています。