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糖尿病の豆知識

更新日: 2022年6月10日 柳瀬 昌樹

糖尿病患者さんから学ぶこと4

医療者との会話の中で、目標に気づけた患者さん

患者さんは、72歳の男性。今回、整形の手術を控えていましたが、事前の検査でHbA1c 11.9%とコントロール不良を指摘され、手術前の血糖マネージメント入院となった方でした。当院で手術をされる予定となっているため、整形、内科共観で周術期管理では中止すべき内服薬からインスリンへの置き換えを行っていくという治療方針を立てました。

入院して丸1日、今まで内服していただいていたお薬(ルセオグリフロジン5mg、リナグリプチン5mg、メトホルミン1000mg)を飲みながら、当院での1日1800kcalの食事を召し上がっていただくと、朝の血糖値が100台前半、その他の食前血糖が100台後半~200台前半と、入院直前に測ったHbA1c 11.9%とは大きく乖離する印象がありました。家での食事や動き方と入院後の食事、動き方が極端に異なる可能性や、家での服薬順守率が良くなかった可能性などを聞き取るために、糖尿病専門医の先生との回診にて患者さんとお話してみることにしました。

薬剤師:今回は、大変でしたね。まずは、手術を控えていますので、飲み薬を整理したりして血糖値を良い状態にしましょう。血糖値が高いまま手術をすると、傷が治りにくかったり、感染しやすくなってしまったりするんです。
患者さん:先生にもそう言われました。頑張ります。
医師:入院していただいて、血糖値見させてもらっていますが、かなり下がってきていますね。実は、今使っている薬も本来の〇〇さんなら必要ないのかもしれませんね。
薬剤師:家での生活について、少しお話を聞かせていただきたいのですが・・・家では、飲み忘れなどはどうでしたか?
患者さん:薬はちゃんと飲めていました。
薬剤師:では、ここで食べていただいているご飯についてはどうでしょう?家で召し上がるごはんに比べて、量などは違いますか?
患者さん:う~ん、食事の量はそれほど変わらないんですけどね。でも、ちょこちょこお菓子とかを食べるのがダメなんだと思います。
薬剤師:お菓子を召し上がるんですね。誰かと一緒に召し上がったりするんですか?
患者さん:一緒に暮らしている孫がね。「じいじ、どうぞ!」って言ってくれるとついつい食べますでしょ?それに、たまに知り合いが来ると盛り上がって多く食べたりすることもあって。
薬剤師:なるほど!そりゃお孫さんに勧められたら食べちゃいますよね。一緒に暮らされているんですね。楽しそう(笑)

糖尿病治療の本当の目的は、糖尿病治療ガイドにも記載されている通り、血糖値などをコントロールし、合併症リスクを減らし、健康な人と変わらない寿命を確保する。さらには健康な人と変わらない人生を送っていただくことです。お孫さんと一緒に暮らされているこの方にとって、お孫さんとのコミュニケーションの中にお菓子を一緒に食べるというものがあるのは、本当にいいことだと思います。確かに血糖値は高くなってしまいますが、お菓子だけで本当にこの方のHbA1cは11.9%になっているのでしょうか?同じように知人が来られた時の充実した話と食事は、過食につながっていることは否定できませんが、そんなに頻繁に知人の方が来られているわけでもなさそうです。もう少し話を続けてみることにしました。

医師:お孫さんとのお菓子や、知人との食事なども確かにそうですが、意外に飲み物なども原因になっていたりすることもあるんですが、どうですか?
患者さん:あっ、ジュース好きですね。炭酸のシュワシュワしたのとか、スポーツドリンクとかも好きです。
医師:それらの飲み物は、血糖値にどう関係すると思いますか?
患者さん:そりゃ血糖値は上がるやろうね。
医師:そうですね。思ったよりも血糖値は高くなります。本当にそれらのジュースが必要かどうかは、患者さんご自身が選べますので、一緒に考えてみませんか?
患者さん:う~ん、実は、前に足の傷が治りにくかった時に、いつも行っている病院の先生に血糖値が高いから治りにくいって言われて、ジュースをやめてみたことがあるんです。するとHbA1cは7%台になったんですよ。
医師:そうなんですね。じゃあ、そのジュース類を少し控えるのもいい方法なのかもしれませんね。
薬剤師:お孫さんとの楽しい時間やお知り合いとの会食を楽しむために、ジュースをどうするかを考えてみるのもありかもしれませんね。ゼロにしなくてもできるところからでもいいかもしれませんよ。
患者さん:ん?ピタッと止めなくてもいいの?
薬剤師:もちろん、飲む必要がなければ止めてしまった方が血糖値はよくなるとは思います。ただ、減らすだけでも血糖値に変化があるかもしれません。できることから始めてみますか?「1回に多く飲まない」、「1日に飲む量に注意する」とかでも、血糖値は変化するかもしれません。後、飲み物の種類を変えるだけでも、かなり血糖値が変わるかもしれません。
医師:うんうん、売る側は必死に色々なものを売っていますが、特に今の時代では、買う側が体に良いものを選んで買わなければならないですね。
患者さん:せっかくの機会なので考えてみます(笑)

この患者さんにとっては、やめられないことにも優先順位があり、ゼロかイチかでなくてもよいということが考えてもらえるきっかけになったのかもしれません。

※実際の患者さんの特定にならないように、表現を大意が変わらない程度に変更しています。

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柳瀬 昌樹
やなせ まさき

薬剤師。薬科大学を卒業後、現在に至るまで病院勤務を続け、糖尿病、感染症などの専門資格を取得。医師の先生方からの全面的ご協力の下、日々奮闘中。
主な取得資格:糖尿病療養指導士、糖尿病薬物療法認定薬剤師、抗菌化学療法認定薬剤師、日本病院薬剤師会病院薬学認定薬剤師、実務実習認定薬剤師
所属学会:日本糖尿病学会、日本くすりと糖尿病学会(認定薬剤師認定委員兼務)、日本化学療法学会、日本病院薬剤師会

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