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糖尿病の豆知識

更新日: 2022年7月3日 柳瀬 昌樹

糖尿病患者さんから学ぶこと5

絶対にインスリンの種類を変えたくないと訴える患者さんとの関係性構築

患者さんは70台の女性。インスリンをすでに30年近く続けておられました。ある時、外来で主治医の先生から血糖マネージメントについての相談がきたことがきっかけです。カルテなどから情報を整理すると、以前の入院時に測定した畜尿におけるU-CPRが1桁と内因性インスリン分泌がかなり落ちている患者さんで、速効型インスリンと中間型インスリンのプレミックス(3:7)を1日2回、1日量にして60単位以上も打っていらっしゃいました。HbA1cは12%台とかなり高く、頻繁に起こる高血糖に対しては、このプレミックスインスリン10単位を自己判断にて追加投与していることもあるようでした。一度、先生からもインスリンの種類を変える提案をしてもらいましたが、断固として拒否されたということでした。患者さんの思いを知るためにお話を聞くことにしました。

薬剤師:こんにちは。薬剤師の○○と言います。最近、血糖値やお体の調子はいかがですか?
患者さん:う~ん、調子は変わらないけど、やっぱり体調は良くないね。
薬剤師:先生からも少しお話を聞いたんですが、ご自身では血糖値についてどう思われますか?
患者さん:これ(血糖管理ノート)見て!私の血糖値は、すぐに上がったり下がったりして、低血糖が起こってしんどくなるのよ。先生にもいつも言ってるんやけど、調節がとても難しいのよ。高いとすぐにHiって出るし、その時は不安でインスリンを追加で打たないとね。
薬剤師:それはしんどいですよね。逆に血糖値が下がりすぎて低血糖を起こすことなどはないんですか?
患者さん:あるある。私の場合は、血糖値が200を切ったら低血糖なんだけど、意識を失って救急車で運ばれたこともあるわよ。

この患者さん、プレミックスのインスリンによりbolus部分とbasal部分のバランスが良くないこともあって、低血糖と高血糖を繰り返しているようです。また、高血糖の時の追加などによって特に中間型インスリンのオーバーラップが起こることが低血糖の原因になっている可能性が考えられました。これを是正するため、持効型インスリンと超速効型インスリンを別々に使用することを提案しましたが、インスリンの種類を変えると、調子が悪くなると受け入れてもらえませんでした。
ある時、この患者さんが自転車でこけて、足を骨折してしまい、手術目的の入院をされました。

薬剤師:今回は大変でしたね。痛かったでしょ?
患者さん:そうなんですよ。まさか自分がこんなことになるなんて思ってもみませんでした。
薬剤師:さて、手術に向けての準備を始めていくんですが、今の段階での問題点は、痛いことと、血糖値ですね。痛いというだけでも血糖値が高くなることもありますし、昨日の晩のように痛くてご飯が食べられないこともあるんですね。それに合わせてインスリンを調整していきたいんですが・・・。
患者さん:インスリン変えるの?
薬剤師:そうですね。より速く効くインスリンで、ご飯前の血糖値や、食べるご飯の量などにも合わせて微調節が必要になると思いますので・・・
患者さん:わかりました。手術のためには仕方ないのでやってみますが、不安なので色々相談させてください。

ここから、関係性構築が始まりました。超速効型+持効型のbasal-bolusをスタートし、毎日のように訴えを聞き、インスリンの量やタイミングについて、患者さんの意向を確認しながら、医師と相談し続けました。お陰で手術も無事に終わり、術後感染もなく自宅への退院を考えられるとことまで回復しました。

薬剤師:いよいよ先生もお家へ帰ることを考えてくれているみたいですよ。
患者さん:じゃあ、インスリンは元にもどしてくれるの?
薬剤師:やっぱり長年つかっているインスリンに戻したいと思いますか?
患者さん:そりゃ、その方が安心かなって思うけど、薬剤師さんはどう思いますか?
薬剤師:正直、前のインスリンだと、効いてほしいところのインスリンが足りなかったり、不要な部分にインスリンが多すぎたりして、低血糖でしんどくなることや逆に血糖値が高くなってしまうところが多くなったりしていました。今の治療なら必要な時に必要な量のインスリンを微調節できるので、今の治療を家の環境に合わせた方がいいと思っています。実際、インスリンを変えてみて、体調はどうですか?
患者さん:まあ、体調は悪くないです。でも、家では、昼にインスリンを打つのが嫌なんです。
薬剤師:それでは、朝と夕方のインスリンで治療ができないか、主治医の先生とも相談してみるので、今の種類のインスリンを使ってみますか?
患者さん:○○(薬剤師)さんが、そういうならやってみるわ。

この患者さん、1年以上も外来でインスリンの量や種類の変更を提案し続けてきましたが、全く聞く耳を持たない状態でした。入院中、毎日のように訴えを聞いて分かったことは、本当に自分の体が変化することが不安だったこと、訴えることに対して、今まではちゃんと聞いてもらえていないという思いを強く感じていたのだと思います。その後、外来でも話を聞き続けていますが、この治療法を初めて低血糖の回数がほとんどなくなり、初めてHbA1cが1桁となった症例でした。

※実際の患者さんの特定にならないように、表現を大意が変わらない程度に変更しています。

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柳瀬 昌樹
やなせ まさき

薬剤師。薬科大学を卒業後、現在に至るまで病院勤務を続け、糖尿病、感染症などの専門資格を取得。医師の先生方からの全面的ご協力の下、日々奮闘中。
主な取得資格:糖尿病療養指導士、糖尿病薬物療法認定薬剤師、抗菌化学療法認定薬剤師、日本病院薬剤師会病院薬学認定薬剤師、実務実習認定薬剤師
所属学会:日本糖尿病学会、日本くすりと糖尿病学会(認定薬剤師認定委員兼務)、日本化学療法学会、日本病院薬剤師会

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