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糖尿病の豆知識

更新日: 2022年12月2日 柳瀬 昌樹

高齢者糖尿病について詳しくなろう5

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さて、第5回目の今回は、とても大切な一方で、すごく難しい運動療法を掘り下げていきたいと思います。高齢者の運動は、若い人のように何をどれくらいするかを考えるだけでなく、運動療法を行うことによるリスク(転倒したり、怪我をしたり)なども考える必要があります。また、無理をしすぎると、体に残ったダメージにより逆にADLを落としてしまう可能性などもあったりします。

運動の種類

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上の図のように、運動は、息が軽く弾む程度に行う有酸素運動と、筋肉に負荷をかけ、筋肉量を増やす目的で行うレジスタンス運動、体幹を鍛え、不安定な姿勢からの回復を速やかに行えることを目的に行うバランス運動、加齢に伴う柔軟性を改善させる目的で行うストレッチングに大別されます。バランス運動とストレッチングは、日常生活のADLを向上したり、怪我をするリスクを低くすることも期待できる運動です。血糖値を改善する効果が高いとされる有酸素運動+レジスタンス運動については、水中歩行が足腰への負担の観点からも推奨されます。ただし、水着に着替えて、プールまでいかなければいけないため、気軽にできる運動なども一緒に考えておくことも必要です。

運動の強度

一般的に中強度と表現される運動が推奨されますが、この中等度をどのように設定するかには色々な方法があります。目標心拍数を指標とする場合には、以下の式で求めます。

目標心拍数=安静時心拍数+0.5×(最大心拍数―安静時心拍数)

最大心拍数=220-年齢(簡易的計算方法)

ただし、心拍数で運動強度を設定するためには、やはり理学療法士や医療従事者の下で設定する必要があり、多くの患者さんでは、難しい可能性があります。そこで、次に推奨されているのが、自覚と血圧の上昇による判断方法となります。自覚としては、運動してみて「楽である」または「ややきつい」といった体感を目安とし、「きつい」と感じる運動はさけるべきです。また、収縮期血圧が180mmHgを超えるような運動も心血管イベント防止の観点からも避けるべきとされています。

運動療法の頻度

運動療法の目標
有酸素運動(中強度) 150分/週、週3回以上
運動しない日が2日以上連続しないこと
レジスタンス運動 連続で行わず、週2~3回

目標となる運動療法は上記の通りですが、やはり日常生活の中で運動量をあげる行動が継続にもつながると言われています。例えば、お買い物をいつも車で5分のスーパーまで行っているのであれば、たまには自転車で行ってみるのもいいでしょう。犬の散歩など、楽しみやストレス解消を兼ねる運動を見つけることもポイントの1つとなります。歩くときには、水分補給目的もかねて、500mlのペットボトルを持ち歩けば、重さによる筋負荷も期待できるかもしれません。

高齢糖尿病患者における運動療法の効果

2型糖尿病患者さんへの運動を含む生活習慣への介入は、収縮期血圧、ウエスト周囲長、運動耐容能、QOLを改善することが明らかになっています。70~90歳の高齢糖尿病患者さんが、週4時間以上の身体活動を行っていると、これを行っていない患者さんに比べて死亡が少なくなるという報告もあります。その他、うつや不眠の予防、フレイルの防止、認知機能改善など様々な効果が期待できると言われています。

高齢者糖尿病の運動療法を行う上での注意

まず、以下のような運動療法を禁止すべき条件に抵触しないかなどのメディカルチェックが大切です。

【運動療法を禁止あるいは制限した方がよい場合】

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メディカルチェックで問題なかった場合、運動に適した衣服、シューズなどを準備し、無理のない運動から始めることが大切です。また、薬物療法を行っている場合には、運動をした直後の血糖値が下がるだけでなく、運動してから数時間経過した時にも血糖値が下がる場合があることなどに注意が必要です。低血糖が起こった場合の準備として、人がいない時間帯の運動は避け(できれば食事1時間程度が良い)、必ず、ブドウ糖を数包とそれを飲むための水分を持ち歩くことも重要です。もちろん、運動している間、こまめに水分補給するためにも水分の携帯は必須と考えられます。インスリンを使用している場合には、投与する場所にも注意が必要であり、四肢にインスリンを打っている場合、運動により皮下にとどまっているインスリンの吸収が早まってしまい、低血糖につながる危険性があるため、腹部への投与が推奨されます。

参考:高齢者糖尿病治療ガイド2021

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柳瀬 昌樹
やなせ まさき

薬剤師。薬科大学を卒業後、現在に至るまで病院勤務を続け、糖尿病、感染症などの専門資格を取得。医師の先生方からの全面的ご協力の下、日々奮闘中。
主な取得資格:糖尿病療養指導士、糖尿病薬物療法認定薬剤師、抗菌化学療法認定薬剤師、日本病院薬剤師会病院薬学認定薬剤師、実務実習認定薬剤師
所属学会:日本糖尿病学会、日本くすりと糖尿病学会(認定薬剤師認定委員兼務)、日本化学療法学会、日本病院薬剤師会
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