高齢者糖尿病について詳しくなろう6
この高齢者糖尿病シリーズも第6回目。今回は、薬物療法を掘り下げていきたいと思います。糖尿病のお薬は、私が日本糖尿病療養指導士となった15年前と比較すると、非常にたくさんの種類が使用できるようになりました。たくさん選択肢があるということは、それぞれの薬剤の特性を理解し、患者さんにとってメリットとデメリットを検討しながら選択する必要性が増したとも言えます。特に高齢者では、生理機能低下、低血糖リスクの増大など非高齢者よりも多くの点を加味した選択が必要とされます。ここでは、各薬剤の高齢者糖尿病患者さんへの注意点などを中心にみていきたいと思います。
①ビグアナイド(インスリン分泌非促進系)
非常に安価で効果も高く(肝臓における糖新生の抑制、消化管からの糖吸収の抑制、末梢組織におけるブドウ糖利用促進など)、単独使用では低血糖をきたす可能性が低いなど良いお薬である一方、腎機能低下症例(eGFR<30:禁忌、eGFR<45では、減量を検討すべき)では特に考慮が必要な薬剤です。乳酸アシドーシスは致死的な副作用であり、この副作用を発症する背景によくみられる脱水、腎機能低下には特に注意が必要となります。加齢に伴って生理的にも腎機能が低下するため、経時的に減量、中止のタイミングを検討しておく必要性があります。
②チアゾリジン薬(インスリン分泌非促進系)
インスリン抵抗性改善作用を介して、血糖値が改善し、単独使用では低血糖をきたす可能性は低いものの、水分貯留を示す傾向があり、むくみに注意が必要です。心不全患者には使用してはいけません。また、海外の臨床試験では、女性において骨折の発症頻度が上昇すると報告されており、注意が必要です。
③α-グルコシダーゼ阻害薬(インスリン分泌非促進系)
食前に内服すれば、糖の吸収を遅らせることにより食後の血糖上昇を抑制してくれます。高齢者に限ったことではありませんが、内服開始後、下痢、放屁などの消化器症状が現れることがあります。多くは、継続内服により症状は改善していくことが多いですが、高齢者の場合、下痢で脱水や電解質異常に至る可能性があるため注意が必要です。(自覚症状が乏しい可能性がある)また、低血糖を起こした時には、ブドウ糖を内服しないと速やかに血糖値を上昇させることができないことに注意が必要となります。ご高齢の方の場合には、「低血糖=体調が悪い=寝るとよくなる」と一連の行動をとってしまう方もおられるため、定期的に低血糖対策についてのお話をしておく必要性があるかもしれません。
④SGLT2阻害薬(インスリン分泌非促進系)
尿細管のSGLT2という糖を再吸収する部分を阻害することで、原尿としてろ過された糖分を尿糖として排泄することで血糖値を改善するお薬です。インスリンに関係なく血糖降下作用を示し、単独使用では低血糖を引き起こす可能性が低い、中長期的には、腎保護作用を有するなど、良い点も多くあります。また、糖が尿に排泄されるためカロリーロスが起こり、体重の減少なども期待できます。一方で、高齢者では、体重を落とすことが良いとは限らず、筋肉量なども落としてしまう可能性があることから、サルコペニア・フレイルの誘因になる可能性も考慮して慎重に使用すべきとされています。さらに、浸透圧利尿により尿量が増加し、脱水の原因となったり、尿が甘くなることで尿路・性器感染症などを引き起こす可能性が高くなることにも注意が必要です。
参考:高齢者糖尿病治療ガイド2021