薬剤師がおさえておきたい 2016年度調剤報酬改定

更新日: 2016年5月19日 藤田 道男

同意書取得、 地域活動の解釈で混乱続くVol.3

2016年度調剤報酬改定から2カ月近く経過したが、薬局業界では依然、試行錯誤の状態が続いているようだ。16年度改定では、調剤基本料、基準調剤加算、後発医薬品調剤体制加算などのハードルが高くなったほか、薬価等の引き下げも加わって厳しいスタートとなった。

「かかりつけ薬剤師」同意書取得の対応は?

大手調剤薬局チェーンは「かかりつけ薬剤師」の患者同意書獲得に積極的に動く一方、中小ではなお、模様眺めの傾向が目立つ。

大手チェーンは、かかりつけ薬剤師を持つことの意義等をアピールするポスターやリーフレットを作成、来局者に配布するなどのほか、かかりつけ薬剤師用の名刺を作成するなど、積極姿勢が目立つ。こうした活動で「グループ全体では万単位の同意書を取得」(A社)や「薬剤師1人で300人の同意書を取り付けた」(B社)―などの声も聞かれる。

生活習慣病患者中心に働きかけも

一方、「やみくもにかかりつけ薬剤師の同意書を取得するのではなく、患者の状況を勘案しながら慎重に声をかけていく」といった薬局も少なくない。かかりつけ薬剤師指導料は薬歴管理料に比べ、自己負担が約100円高くなる(3割負担の場合)。かかりつけ薬剤師指導料の趣旨が、「服用薬の一元的・継続的管理、投与後のフォロー、処方医への情報提供・処方提案」等であることを勘案すれば、生活習慣病などで継続して服用している患者を中心に働きかけるのが筋、というわけだ。

医療に係る地域活動の解釈で混乱続く

中小薬局ではかかりつけ薬剤師指導料の施設基準にある「医療に係る地域活動の取り組み」の解釈を巡って躊躇するところが少なくない。

厚労省が3月31日に発出した疑義解釈資料(その1)では、「地域の行政機関や医療関係団体等が主催する住民への説明会、相談会、研修会等への参加や講演等の実績に加え、学校薬剤師として委嘱を受け、実際に児童・生徒に対する医薬品の適正使用等の講演等の業務を行っている場合が該当する」と回答している。これは単なる講習会への受講ではなく、主催者としての取り組みなどを指したものと見られる。

申請内容が同じであっても厚生局によって受理されたり、戻されたりといった事例が相次いでおり、解釈の統一化を求める声は依然大きい。このため、日本薬剤師会では「医療に係る地域活動」に関し、再度疑義解釈資料で明確にするよう求めるという。ただし、行政による詳細な解釈が示されると逆にそれに縛られてしまう懸念もあり、悩ましい問題になっている。

参考:厚生労働省「疑義解釈資料の送付について(その1)」より(3月31日)

(問)かかりつけ薬剤師指導料及びかかりつけ薬剤師包括管理料の施設基準として、
「医療に係る地域活動の取組に参画していること」とあるが、具体的にはどのような取組が該当するか。
(答)地域の行政機関や医療関係団体等が主催する住民への説明会、相談会、研修会等への参加や講演等の実績に加え、学校薬剤師として委嘱を受け、実際に児童・生徒に対する医薬品の適正使用等の講演等の業務を行っている場合が該当する。なお、企業が主催する講演会等は、通常、地域活動の取組には含まれないと考えられる。

16年度改定の評価は新たな指標で

現状では調剤報酬改定の対応に追われている感がある薬局業界だが、落ち着きを取り戻した段階で改めて今改定の意味するところを振り返る必要があるだろう。近年、各界から相次いだ調剤バッシング、規制改革会議や経済税制諮問会議での費用対効果等の指摘があった中で、「医薬分業の原点に立ち返り、57,000の薬局を患者本位のかかりつけ薬局に再編するため『患者のための薬局ビジョン』を策定する」(昨年5月、経済財政諮問会での塩崎厚労大臣の発言)がスタートだったと言える。

医薬分業が患者にとってメリットがあることを示すためには、従来の業務の延長線ではなく、患者の目に見える形で具現化する以外にはなく、その象徴がかかりつけ薬剤師指導料ということになる。

これは患者のための薬局ビジョンに示された「立地から機能へ」(門前薬局から地域薬局への転換)、「対物業務から対人業務へ」(クスリ中心の業務から患者中心の業務へ)、「バラバラから一つへ」(服薬情報の一元的・継続的管理)の具現化に他ならない。今後も対人業務や医療連携が重視され、ワーキングフィーといわれる調剤料などは減額されていく。薬剤師業務を通じて2025年の構築を目指す地域包括ケアシステムの重要な一員として薬局・薬剤師が機能して欲しいとのメッセージだ。

このため、厚労省は今年度から医薬分業が患者メリットや医療の質向上につながっているかどうかの新たな指標(KPI:Key Performance Index)を6項目設定する方針だ。

患者のための薬局ビジョンで示された新たな指標
(1)かかりつけ薬剤師・薬局の体制
(2)服薬情報の一元的かつ継続的な把握と薬学的管理・指導の取り組み
(3)重複投薬・相互作用防止の取組件数
(4)重複投薬の件数
(5)在宅医療への取組件数
(6)後発医薬品の使用割合

これらの指標が16年度改定でどのような数字になって現れるかが明らかになる。極端に言えば実績が伴わなければ、調剤バッシングが再燃する可能性があるということになる。その意味では16年度改定は薬局・薬剤師の存在価値が問われる内容であることを意識して日々の業務に取り組む必要があるだろう。


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藤田 道男
ふじた みちお

中央大学法学部卒。医薬関係の出版社、(株)じほう編集局に勤務し、各種媒体の編集長を歴任。退職後フリーの医薬ジャーナリストとして取材・執筆、講演活動を行う。
2010年、薬局薬剤師の教育研修のために一般社団法人「次世代薬局研究会2025」を立ち上げ、代表を務める。
主な著書は『2025年の薬局・薬剤師 未来を拓く20の提言』『かかりつけ薬局50選』『残る薬剤師 消える薬剤師』など多数。

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