薬剤師は医薬品情報の「補完」役である
添付文書に「答え」が載っていない理由
突然ですが質問です。添付文書さえあれば、薬物療法に関する疑問は全て解決できますか?当然ながら、答えは「No」です。
では、添付文書だけで解決できない疑問は、どのように解消すべきでしょうか。今回はそんなお話となります。さっそく三つ目のシン常識を提示しておきます。
シン常識❸:「薬剤師は医薬品情報の「補完」役である」
「補完」とは、あまり馴染みのない言い回しかもしれませんが、薬剤師ならば常日頃から当たり前のように行っている行為です。それを顕著に感じるのは、薬物相互作用を確認する時でしょう。
先日、こんな事例に遭遇しました。バルネチールとネキシウムの組み合わせが、電子カルテの相互作用チェックに引っ掛かったのですが、どうしたことか、バルネチールの添付文書にはネキシウム(エソメプラゾール)の記載が見当たりません。
バルネチールの添付文書より
結局ネキシウムは、「QT延長を起こすことが知られている薬剤」のその他大勢。つまり「等」の一つとしてカウントされていたことがわかりました
今回は運良くチェックシステムが見つけてくれましたが、もし添付文書だけで判断していたらどうなっていたことやら…。これは何も添付文書だけの話ではありません。
「医薬品インタビューフォーム記載要領2018」には以下の記載があります。
製薬企業の機密等に関わるもの及び利用者自らが評価・判断・提供すべき事項等はIFの記載事項とはならない。言い換えると、製薬企業から提供されたIFは、利用者自らが評価・判断・臨床適用するとともに、必要な補完をするものという認識を持つことを前提としている。
医薬品インタビューフォーム記載要領2018(2019年更新版)より
患者情報も含め、添付文書やインタビューフォームで入手できない医薬品情報は薬剤師が的確に「補完」を行う。そんな時代が到来していることを、我々薬剤師は強く認識するべきです。
医薬品情報の「補完」がチーム医療の潤滑油になる
先程バルネチールの例を挙げましたが、その後日談です。
先日、とある医薬品情報データベース会社の担当者さんとお話する機会があったのですが、その際に件の相互作用チェックの話題になりました。担当者さんいわく、顧客から「添付文書に記載のない薬剤を相互作用チェックに掛けないで欲しい」と要望がたびたび寄せられるらしいのです。そして、最終的には顧客の要望をのむしかないこともあるそうです。
しかし、これはおかしいですよね。先述の通り、添付文書には100%の情報が載っている訳ではありません。薬剤師が「補完」の役割を果たす場面なのに、煩雑さを嫌って、みすみすそれを放棄するなんて・・・。ある意味、DI業務が十分に教育されていない弊害と呼べるかもしれません。
また、薬剤師が「補完」役であることを忘れると、チーム医療の一員としての「意見」が浮かばなくなります。逆に「補完」役を果たす機会が頻繁にあると、他職種からの信頼度が増し、薬剤師からの意見も通りやすくなります。DI業務は地味ですが貴重な「潤滑油」になり得ます。オイル切れのままで、円滑なチーム医療ができるでしょうか。
大学も現場も膨張していく3次資料を持て余している
DI業務に対する理解度が低い薬剤師が多い理由のひとつとして、大学教育に否があるようにも感じます。しかし、それを一方的に非難するのも酷な話です。
なぜならこの10年間、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬、果ては数千万~億単位の「黒船」が続々と来航したからです。それまでの10年間とは完全に潮目が変わっているのです。
医薬品を承認する側の厚労省は続々と適正使用情報を作成しましたが、それらは果たして大学、つまり文科省にまで伝わっていたでしょうか?
いずれにせよ、使用法も管理方法も難しい医薬品が増えたことで、それを「補完」する資料(3次資料)も激増したことは確かです。近年では民間企業による3次資料作成も旺盛ですが、裏を返せばそれだけの多様なニーズがあるという証左でもあります。
果てしなく膨張していく3次資料を持て余しているというのが、医療現場での肌感覚です。そしていかに優れた資料も、アクセスできなければ最初からないのも同然です。
現存する3次資料を100%把握している者は恐らく皆無ですし、大学でその術を教えようにもキャパオーバーは明らかです。
「資料は十分にあるがアクセス面で問題を抱えている」
これこそ薬剤師が「補完」役を担うために解決すべき課題なのです。
アクションプラン
最後に薬剤師の皆さんにメッセージです。
「補完」役を全うする限り、薬剤師への信頼は揺らぎません。
問題は添付文書に載っていない情報をいかに「補完」するかです。
ならば、必要な情報を入手するまでの道筋を描きましょう。
次回は3次資料の情報収集に関して、掘り下げてまいります。