「3次資料☓メタ知識」が薬剤師を救う
最後の藁
突然ですが質問です。
「最後の藁」という言葉をご存知でしょうか?
これは英語の慣用句(It is the last straw that breaks the camel's back.)に由来しています。「ラクダの背中に限界まで荷物を積んでしまうと、たった1本の藁を乗せただけでラクダの背骨が折れてしまう」という意味です。
ラクダと同様、人間の能力にも限界があります。記憶力も然りで、どんなに努力しようと100%覚えるのは不可能です。
その一方で、分子標的薬・免疫チェックポイント阻害薬・再生医療等製品など近年“ややこしい”薬が急増しています。そこには従来の薬とは比べ物にならないボリュームの情報が付随しており、我々薬剤師はそれらと対峙しなくてはならないのです。
ひょっとしたら、明日入荷する薬が「最後の藁」になるかもしれません。
ところで、我々の身の回りには驚くほど知識が豊富な人がいます。たとえば、弁護士。
では、弁護士は全員があの分厚い六法全書を全て記憶しているのかといえば、答えはきっと「NO」でしょう。にもかかわらず彼らが仕事をこなせている秘密を解き明かせば、「最後の藁」を克服する糸口が見つかるかもしれません。
ここで五つ目のシン常識を提示しておきます。
シン常識❺:「3次資料☓メタ知識」が薬剤師を救う
メタ知識で脳内メモリを節約
膨大な知識を丸暗記ではなく、効率的に運用するために必要なこと、それは「メタ知識」です。言い換えれば「知識の構造化」です。
このメタ知識を活用することで、脳内メモリを節約できるのです。薬剤師的には「適切な3次資料にたどり着けるスキル」を指します。少しわかりにくかったと思いますので、具体例を挙げます。
こんな相談が来た時、瞬時に具体的な資料を思い浮かべることができれば、「メタ知識がある」と言えるでしょう。ちなみに模範解答は以下の通りです。
1 → インタビューフォーム
2 → 患者向医薬品ガイド
3 → 審査報告書
4 → 医薬品リスク管理計画書(RMP)
5 → 治療ガイドライン
6 → 医薬品副作用データベース(JADER)
お気付きでしょうか?全て3次資料です。
念のために申し上げておくと、これらの資料を知っているだけではダメで、必要時にたどり着けてはじめて「メタ知識がある」と言えます。
もちろん専門用語等の基礎知識や文章の読解力は必要となりますが、3次資料に書かれていることを丸ごと記憶する必要はありません。適切な3次資料にたどり着ければ良いのです。この「メタ知識」さえあれば「最後の藁」を(当面)恐れる必要はなくなります。
「肉じゃが」理論!?
メタ知識のメリットは、3次資料にたどり着けることだけではありません。
それは「応用力」です。メタ知識、つまり3次資料の有無を把握していると、それを土台にして発想を広げることが容易になるのです。私は後輩たちに「肉じゃが理論」について熱弁を奮うことがあります。先日X(旧Twitter)でもこんなポストをしました。
「肉じゃが理論」のキモはな、肉じゃがの作り方を知らんでも済む点なんよ。知識や経験なんかあらへんでも、材料があって料理本さえ読めれば、誰でもそこそこ美味しい肉じゃがは作れるわな。そらそうよ。何でも「勉強不足」のせいにしてる薬剤師は、そこを根本から誤解してるんよ。お〜ん。
私は大の虎党なので時折岡田監督が憑依します(笑)。自宅に材料(ジャガイモ・ひき肉等)と料理本があること(=メタ知識)を知っていればこそ、「肉じゃが」という献立が思い浮かぶのです。3次資料とメタ知識さえあれば、情報収集は完了したも同然です。勉強や経験は、3次資料を読了してからでも遅くはありません。
私はメタ知識こそ、大学や実務実習でDI業務を学んでいない「ゆとり世代」を救う特効薬だと考えています。
アクションプラン
最後に薬剤師の皆さんにメッセージです。
「メタ知識」を育めば、薬剤師業務が質的にも量的にも向上します。
闇雲に知識だけを詰め込んでも、いずれ限界は訪れてしまいます。
「3次資料×メタ知識」こそが薬剤師が追求すべきテーマです。