COVID-19の拡大に伴い講義方法を変更 Vol.1
新型コロナウイルスが社会に甚大な影響を及ぼすことで薬学教育の現場にも大きな変化が生じています。2020年2月下旬からのCOVID-19の第一波発生直後から最近に至るまでどのような変化が求められたのか、昭和薬科大学の副学長である宇都口直樹教授と教務委員長である井上能博教授、臨床薬学教育研究センターの渡部一宏教授に話をお聞きしました。
副学長 宇都口直樹教授
井上能博教授
渡部一宏教授
流行直後からの迅速な対応
COVID-19の流行により教育の現場にも大きな影響があったと思われますが、2月の流行直後はどのような様子でしたか?
宇都口副学長 COVID-19が流行しはじめたころは学内にどの程度影響するのか予想がつきませんでしたから、正直、気楽に構えていました。4月になるころには通常の授業ができるだろうと思っていたのです。ですが、3月の下旬には通常の対面講義開始は無理だと判断し、4月に入ってすぐにオンライン会議システムZoomを使って全教員に対し使い方を含めた説明会を開き、急いでにオンライン授業の準備に取りかかりました。
本学では以前から講義の復習や病気で講義を休んだ学生の為に「e‐ラーニングビデオ録画システム」と「ラーニングマネジメントシステム(LMS)『manaba(マナバ)』」を導入していましたので、全授業が録画されオンデマンドでの受講が可能でした。「manaba(マナバ)」のコースごとのコンテンツでは練習問題や小テストに加え、課題を出したり資料を配布することもできます。そこにオンライン会議システムZoomを加え、この3つのツールを使って「学生の学びを決して止めない」という方針で進めてきました。
渡部教授 私は大学法人の衛生管理責任者として、これまでも大学構内の環境衛生管理はしてきたつもりですが、再度COVID-19が流行しはじめたころに環境衛生の設備面だけでなく,学生や職員に対する感染症予防教育に関して徹底しました。手洗い方法や手指消毒方法の徹底や食堂の飛沫感染防止のパーテーション設置、各所にソーシャルディスタンスやユニーバサルマスキングの啓蒙ポスターの掲示,さらにはマスクの入手が難しかったときは手作りマスクの作り方などの情報提供をしました。一時消毒用エタノールが入手困難だったときは、学内にある実験用の無水エタノールを希釈して80%エタノールとして消毒用に調製し用いた時期もありました。
オンライン授業を始めるに際しどんなことをする必要がありましたか?
宇都口副学長 全学生にWi-Fi環境と使用機器を備える必要があったので、本学では大学法人から一律5万円を支給していただきました。また,学生さんにZoomのシステムを理解し活用していただくために何度も講習会を実施しました。最初の頃は,授業を発信する教員やその授業配信をサポートする事務の方々も慣れていなかったので苦労しました。また、例年は授業で用いる教科書を学内で購入していただくのですが、登校禁止で購入ができないので、学生が購入した教科書を郵送費学校負担で自宅へ郵送しました。
井上教授 特に、新入生はまだ登校さえできていませんでしたから、どういう講義が行われるのかわからず不安に思ったのではないでしょうか。そこで学生に対しては,ただ単に「オンラインシステムの授業になるのでZoomを使ってください」とアナウンスするのではなく、前もってオンライン授業を受けるガイダンス動画を作成し配信しました。おかげで新入生もオンライン授業に対して大きな混乱を招くことはありませんでした。
宇都口副学長 Zoomやその他の学修支援システムについての学生さんの適応能力はとても高く、あっという間に使いこなせるようになりましたね。その結果、大学として4月20日という早い時期に滞りなくオンライン講義をスタートさせることができました。
薬学教育に必須の5年生の病院・薬局臨床実務実習はどうされたのか教えてください。
渡部教授 臨床薬学教育研究センターの教員の私から話させていただきます。薬局での臨床実務実習が2月25日から始まっていたのですが、4月7日に緊急事態宣言が出され全国の薬学部において実地実習が一斉に停止になりました。その後は,自宅における課題演習による学修に切り替ざるを得ませんでした。その後、5月25日に緊急事態宣言が解除され,臨床現場の協力もあり5月下旬から通常通りの病院及び薬局での臨床実務実習が再開されました。COVID-19流行下において、「自分が感染してしまうのではないかと不安で実習に行くことを躊躇します」と話す学生さんもいましたし、一方で薬剤師の卵として使命感を持って意欲的に取り組む学生さんもいました。
1年生から4年生までの大学内での基礎薬学の実習は,大学への登校自体ができない状況でしたので、前期は完全に中止しました。
オンライン授業開始決定から約3週間。ITを駆使することによって学生の学びを継続することは可能であることが分かりました。とはいえ薬学教育には必須の臨床実務実習など、対面で行わなければならない教育もあり、それをどのように行うかという課題もあります。コロナ禍での大学の授業は今後どうなっていくのか。昭和薬科大学での一連の取り組みから考察が得られます。