ドクター・ホンタナの薬剤師の本棚

更新日: 2020年6月25日 Dr.ホンタナ

こころの薬とDSM

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薬剤師のみなさん、こんにちは!ドクター・ホンタナ(Fontana)です。「薬剤師が読んで楽しめ仕事にも役立つ」そんな本を紹介するコラムの第3回は「こころの薬とDSM」。
精神医療は平成年間に大きく変わり、処方される薬も様変わりしました。パニック障害・発達障害など新しい病名が次々に登場しただけでなく、うつ病のようなおなじみの疾患に対してもSSRIやNSRIなど続々と新しいタイプの薬が登場しています。じつは、この変化の震源地となったのはDSM-IIIという1980年にアメリカで出版された診断基準です。今回はこのDSMについてじっくり考えてみましょう。

DSMの本質を知るための一冊

DSMとはDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders 「精神疾患の診断・統計マニュアル」のこと。1980年出版のDSM第3版で革命的に改定されました。そのDSM革命の本質を教えてくれるのが「シュリンクス-誰も語らなかった精神医学の真実 」(シュリンクスとは俗語で精神科医のこと)。
 精神の異常が医療の対象となったのは19世紀後半からです。20世紀になるとあのオーストリアの精神科医フロイトが精神分析療法を創始しました。精神分析療法とは精神疾患の原因を無意識のこころの葛藤であると考え、対話による分析を通して治療しようというものです。戦争の影響もあって多数のユダヤ人精神分析医がヨーロッパからアメリカに渡り、第二次世界大戦後には世界中が精神分析の時代に突入しました。しかし次第に怪しげな心理療法家が跋扈するようになり、1960年代になると精神分析に反対する「反精神医学運動」が起こり精神医療は危機の時代を迎えました。
そこに登場したのが気鋭の精神科医スピッツアーです。スピッツアーがそれまでの精神分析寄りだったDSMをまったく別物に作り変え、第3版として学会に認めさせたのです。DSM第3版のポイントはそれまでの主観的であいまいな診断を排除し、「(こころの病気の原因はどうせわからないのだから)病気の原因を前提とはせず、観察された症状のまとまりに基づいて障害を分類する」というものでした。
斬新なのは病気の原因を無視したところです。身体の病気であれば「原因aで症状Aが起こる」と考えますが、DSMでは症状a1、a2、a3があれば障害名Aと名づける」ということです。わかりにくいですが重要ポイントです。薬について言えば、身体の病気であれば「症状Aの原因aに対して薬Bを使う」となりますが、DSMでは「障害名Aの患者集団に薬剤Bを試してみたら効果があった」と考えます。病気の原因は何かという部分をまったく考えないことにしたのです。まさに発想の転換。
アメリカで医療保険を提供する保険会社があいまいさの少ない新しいDSMを支持しDS医療保険支払の根拠にしたことでDSMは大きな意味を持つようになってきました。しかし、そのためにDSMは医療経済の中に組み込まれることになり、そこからDSMの暴走が始まるのです。

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シュリンクス-誰も語らなかった精神医学の真実

ジェフリー・A.リーバーマン/オギ・オーガス

※クリックするとm3ストアにリンクします

暴走するDSM

DSMでは原因を考えず症状だけから精神疾患を分類しその先の研究につなげるというのが本来の目的でした。ところが、例えば「発達障害」とDSMで分類されると、患者も社会も保険会社もあたかもそういう客観的な病気があるかのように受け止めてしまいます。2冊目に紹介する「発達障害バブルの真相 」では発達障害をテーマにDSMが暴走するメカニズムを教えてくれます。
DSM医療では問診表にマルをつけるだけで「はい、あなたは発達障害」と診断されかねません。画像診断や病理診断のような明確な客観的診断方法があるわけではなく問診だけで診断つけられてしまうあやうさがあります。そして、その診断が一人歩きして薬が処方され、障がい者支援立法に発達障害が組み込まれていく、本書はそうしたプロセスを描き切っています。本書の最重要なポイントを引用します。これ重要。

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Dr.ホンタナ
勤務医

元外科医 昭和の31年間で医者になり、平成の31年間は外科医として過ごし、令和と同時に臨床を離れました。本を読んだりジャズ(ダイアナ・クラールの大ファン)を聴いたり、プロ野球(九州時代からのライオンズファン)の追っかけをやってみたり。ペン・ネームのホンタナは姓をイタリア語にしたものですが、「本棚」好きでもあるので・・ダジャレで
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