ジェネリック薬の歴史を書籍で学ぶ
続・薬剤師の本棚 最終回!
薬剤師のみなさん、こんにちは! ドクター・ホンタナの続・薬剤師の本棚、いよいよ最終回になりました。最終回のテーマはジェネリック薬。国の推進施策もあり調剤薬局で薬剤師さんにジェネリック薬を薦められることも増えました。ジェネリック薬とは「特許が切れたため、効き目は同じで価格が安い薬」程度の認識でいましたが、調べてみるとけっこう奥が深いんですね。
ジェネリック薬の歴史
まず読んでおきたいのが、ジェネリック薬のみならず現在へと続く近代製薬業の歴史がよくわかる本「ジェネリック それは新薬と同じなのか 」です。
20世紀になると化学・工学の発達によって工業的に合成された薬剤が治療薬として使われるようになりました。薬剤は化合物としての構造名と一般名と商標名があるのですが最初から命名ルールがあるわけではありません。例えばバイエル社の解熱鎮痛剤のアセチルサリチル酸(一般名)はアスピリンという商標名で呼ばれるようになり、いつのまにかアスピリンが一般名になる・・・というような曖昧な時代もありました。
20世紀半ばくらいから曖昧さを排除するための国際的な取り決めを作ろうという動きがありましたが、国や薬剤メーカーの利益など複雑にからんでまとまらない状態でした。当時は、別の会社が同等薬を作ることに経済的合理性がなく、まだジェネリック薬という概念はありませんでしたが、新薬が増えてくる第二次世界大戦前後から薬剤の特許という概念が確立してきます。
1960年代に入ると、そうした薬剤の特許が切れる時代が到来し、一般名は同じですが先発薬とは違う商標名のジェネリック薬が登場してきました。ジェネリックとは一般名という意味です。ジェネリック薬の主成分は先発薬と同じですが剤型や固めるための基材などはバラバラで価格は開発コストがかからない分安いのが特徴です。
ジェネリック薬が登場したころは先発薬との同等性についてさまざまな議論がありました。先発薬企業は当然、同等性の無さを、ジェネリック薬企業は同等性を証明しようとし、双方さまざまなロビー活動あり権謀術数ありの時代でした。また当時はマフィアも絡んだ偽造薬もあったので、それとリンクしたアンチジェネリック・キャンペーンもありました。
大きな転換点になったのはレーガノミクスの時代1984年に制定された「ハッチ―ワクスマン法」(薬価競争及び特許期間回復法)です。この法律でジェネリック企業には簡略申請でジェネリック医薬品の市場を拡大する道がひらかれると同時に、先発薬企業には特許期間延長(17年から20年に)によって新薬市場を保護するということになりました。先発品企業と後発品企業それぞれに利益を与えてバランスを取り、全体として米国の医薬品産業の発展を促進しようとするものです。
このハッチ―ワックスマン法以来、ジェネリック薬の承認に必須要件であった治験データが不要となったので、1984年以後ジェネリックメーカーは莫大な治験経費を投ずることなくジェネリック医薬品を安価で市場に送りだすことができるようになりました。このジェネリック医薬品の簡略承認方式が、日本を含めこの後の世界標準となったのです。
その後、ジェネリック薬のシェアが伸びてきたアメリカでは20世紀末からは薬剤給付管理(Pharmacy Benefit Management =PBM)機関が登場しました。これは医療機関や保険会社という薬剤消費サイドと製薬業界の間を仲介し、ジェネリック薬の価格交渉などを通して薬剤価格の最適化をはかる(もちろん手数料を取る)という営利組織なのですが、いまでは次第に大きな勢力となりつつあります。
21世紀になりジェネリック製薬会社もグローバル化してブラジル・インドと軸足を移すと、それらの国での品質管理の杜撰さや公的規制の違いもあって再び薬剤としての「同等性の危機」が叫ばれているのが現在です。そうはいってもHIVやHCVの治療薬など、合法・非合法あわせてインドの薬剤が途上国の医療にとっては欠かせないものになっているというのもまた事実なのです。
ジェネリック薬企業のビジネスモデルは先発薬の特許切れのタイミングでジェネリック薬を出すことでしたが、20世紀末までに開発された多くの薬剤特許は2015年頃には切れたため、いわゆるジェネリック・バブルは終わるという見方もあります。そこから時代は抗体医薬などの高分子薬の時代になり、その後発薬はバイオシミラーと呼ばれます。そしてそこにまた新たな「同等性の危機」が出現しつつ現在に至ります。
多くのプレーヤーがいてわかりにくい製薬業の世界ですが、本書はジェネリック薬だけでなく近代製薬業の発展の歴史を知るうえでも必読書です。
ジェネリック
それは新薬と同じなのか
ジェレミー・A・グリーン著
みすず書房 4600円 税別
2017年12月刊行
※clickするとm3ストアにリンクします
ジェネリック vs. ブロックバスター
新薬開発とジェネリック薬の複雑な関係を教科書風に解説してくるのが2冊目「ジェネリック vs. ブロックバスター 」です。ブロックバスターとジェネリックの関係や特許をめぐる先発製薬会社とジェネリック製薬会社の熾烈な駆け引きがすっきり理解できる一冊です。
この本によれば、新薬の研究開始から製品として成功する確率は3万分の1、そこまでの期間は7~17年、開発コストは300~1000億円。1000億円かけてハズレもあるわけで、まさに創薬はハイリスク・ハイリターン。しかし、当たればどうなるか・・・例えば2015年の日本国内売上、上位4製品(ハーボニー、アバスチン、プラビックス、ソバルディ)はいずれも国内年間売上が1000億円以上です。製造原価は価格の20%程度なので当たれば1品目で日本だけで800億円の利益を生むことになります。当たった新薬をブロックバスターと呼ぶのはご存じのとおりです。もちろん、こうした利益で次の新薬開発に乗り出したり、有望なベンチャー企業を買収したりするわけですから、あながち暴利・・・とも言えません。
新薬の特許は20年です。20年経つと、他の製薬会社がジェネリック薬を製造販売できる。ジェネリック薬は前述のハッチ―ワックスマン法以降は、簡略に薬事承認を得られるようになったため開発期間は3~5年、開発コストは1億円程度で済みます。薬価は先発医薬品の50%程度と定められています。
ジェネリックに対抗して、先発製薬会社は効能を追加したり(用途特許)合剤化したり(配合剤特許)して特許期間を伸ばすことができますがそれでも+5年までです。そこで先発製薬会社は子会社形式などを取り製造特許使用を許諾したいわゆるオーソライズド・ジェネリック薬でジェネリック製薬会社対抗する・・など利益を最大化するためにさまざまな駆け引きがくりひろげられるのです。
ジェネリックvs.
ブロックバスター
山中 隆幸 著
講談社 2000円税別
2017年12月刊行
※clickするとm3ストアにリンクします
処方薬全体に占めるジェネリック薬の比率はアメリカが92%、欧州諸国の70~80%であるのに比べ日本は20~30ポイント低いんですね。そこで2017年から政府の掛け声でジェネリックの比率目標80%を設定し、ジェネリック比率によって医師の処方料や薬局の調剤料を変える作戦にでました。医師はいわゆる商標名ではなく成分名処方をし、薬局で患者(=消費者)が先発薬にするのかジェネリック薬にするのかを選ぶというパターンが増えています。
調剤薬局でジェネリック薬を勧められるのはそういう仕組みからなのですが、患者さんに選ぶだけの知識があるはずもなく、薬剤師さんもそのやり取りに微妙なものを感じているのではないでしょうか。
一方で、ジェネリック薬を売っている側にも、胸をはって先発品と同じと言えるかというとそうでもない出来事が増えています。2020年にはジェネリック薬の製造過程で他の薬剤が混入し死者が出るという事件がありました。また2021年になって大手のジェネリック薬メーカーが長年の製造不正で営業停止になったりするなど、さまざまな問題が発生しています。
問題解決、つまり価格とクオリティのコントロールのためにはアメリカにおける薬剤給付管理(PBM)機関にあたる機関が日本にも求められているとも言えます。日本のジェネリック薬産業も大きな変化を迎えつつあるのです。
さて、「薬剤師の本棚」・「続・薬剤師の本棚」を担当させていただいて、薬剤師さんが読むという観点から本を選ぶということを通して、私自身もずいぶん視野が広がりました。長い間ありがとうございました。
新型コロナウイルス感染症の第3波・第4波と不安な日々は続きますが、100年前のスペイン風邪は約2年で自然終息しました。われわれも粛々と感染対策を続けながらアフターコロナのニューノーマルに向けて学び続けていきましょう。