疑義照会のコツ(薬剤師向け)

更新日: 2017年1月4日 村尾 孝子

第5回 知識不足で自信がないときの対処法

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自分の知識が不足しているのがわかっており、医師に対して、自信を持って疑義照会ができません。どのように対応すればよいでしょうか?

(病院勤務薬剤師)


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まだ薬剤師になりたてで、知識も経験もなく疑義照会に気後れしてしまう先生もいらっしゃるでしょう。今回は、自信がないときの疑義照会のコツと気構えをご紹介します。

『失敗は成功のもと』。まずは勇気を持って疑義照会

 医療の現場では「わかったつもり」になるのが一番怖いことですから、自分のことを謙虚に受けとめる姿勢は大切です。しかし、相談内容の本音はもしかしたら「疑義照会への不安」なのではないでしょうか。「直接話したことがないけど、どんな医師かなぁ」「やさしい先生だといいなぁ」「逆質問されたらどうしよう?」などと、疑義照会が始まる前から、うまくいかなかった場合をイメージして緊張したり萎縮したりしているのではないでしょうか。
 厳しいことを申し上げるようですが、「知識不足」を解消して「自信を持って疑義照会」できるようになるのはいつだと思いますか。そのような状況を解消するため、どんな努力や工夫をしていますか。知識がきちんと身につくまで疑義照会をしなくてもいいということであれば、自信が持てるまで研鑽を続ければいいと思います。しかし、実際にはそんな悠長なことは言っていられないはず。自信がなくても、疑義照会の機会は訪れます。ここは前向きに気持ちを切り替えてほしいと思います。薬剤師の使命は、患者さんが適切な薬物治療を受けられるようサポートすること。自分の知識や自信の有無とは関係なく、目の前の患者さんの役に立つために何ができるか考え、実行することなのです。自信は経験の積み重ねで少しずつ身に付くもの。しかも、失敗した経験から得る学びや気付きほど将来の大きな自信につながります。「あのときははうまくいかなかったから、今度は違う方法でアプローチしよう」と思えるのは、失敗を経験した人だけの特権です。まずは、勇気を持って疑義照会してみる。自信は後から必ずついてきます。

知識不足や自信の無さを補う具体策

 精神論だけでは尻込みしたままになってしまいますから、知識不足や自信の無さを補うための具体的な対策を考えてみましょう。まず、知識不足は照会前の事前準備でかなり補えるはずです。自分で思いつく限りの資料を当たり、医師に伝える内容をまとめて書き出します。資料だけでは不安というのであれば、職場の先輩や同僚の知恵を借りてもいいでしょう。疑義照会をしている間も患者さんが待っていることを忘れず「迅速に簡潔に」を心がけます。実際のところ、医師は本当に忙しく動き回っていますから、そもそも疑義照会などに長い時間をかけていたくはないはずです。医師を怒らせるような不用意な発言を控え、丁寧な言葉づかいで堂々と簡略に要件を伝えます。万が一医師の怒りに触れてしまったら、即座に謝罪し、「すぐに調べて折り返しお電話します」というように対応策を提案します。適切な返答ができずにおどおどしたりうろたえて適当なことを言ったりすれば、さらに印象を悪くしますし、治療に悪影響を及ぼす恐れすらあります。

自信がなければ医師に聞く

 意外かもしれませんが、経験を積んで知識も豊富な薬剤師ほど、医師の質問には慎重に答えるものです。すぐに答えられないことは、必ずしもイコール知識不足ということにはなりません。要は心の持ちようです。どうしても自信がないまま照会に臨む場合は最初から「○○について、勉強不足で間違っているかもしれませんが、□□のように思うのですが、いかがでしょうか」と白旗をあげて医師にそのまま疑問を投げかけてしまうのも一つの手です。「自信はないけれど、どうしても気になったのでご相談しました」と率直に伝えれば、少なくとも患者さんのためを思って問い合わせしたという意気込みは伝わります。怒られて「そのままの処方でいい」と言われたら、それはそれで一つの答えを得たことになりますから、チャレンジは無駄にはならないのです。

疑義照会は知識を身につけるチャンスと考える

 私自身、疑義照会して怒鳴られたり叱責された経験は何度もあります。勉強不足で間違った指摘をしてしまい、「何も知らないで勝手なことを言うな」と思いっきり怒鳴られたこともあります。後日、別の用事で医師の元を訪れた際「先日は申し訳ありませんでした」と謝ると、医師は予想に反して、照会内容について図や表を書きながら詳しく説明してくれました。緊張と恥ずかしさで滝のように汗が流れましたが、叱責されたことも忘れ、感謝の気持ちでいっぱいになりました。処方の見方を学ばせてもらい、今思えば、その後の疑義照会の心構えができた貴重な経験です。
 確かに、今は知識も不十分で自信もないかもしれません。しかし、新薬が次々に出て医療も日進月歩の今、全てを完璧に身に付けることなど不可能だと思います。だからといって、疑義照会を恐れて不安や迷いを抱えたまま投薬することは絶対にあってはなりません。自信は待っているだけでは決して身に付きませんが、失敗を恐れず一歩ずつ前に向かって進んでいく中で、一つずつ薬剤師の経験として身体が覚えていきます。もし失敗して医師に怒られたとしても、これくらい知らないのかと呆れられても、それらは全て薬剤師として成長する糧になります。数をこなすうちに緊張しなくなり、怒られたときの対応も自然にできるようになるはず。そして「今日は先生とどんな話ができるかな」と疑義照会が楽しみになる日も来るでしょう。なんといっても、疑義照会は新しい知識を身に付ける絶好の機会だからです。

ときには「当たって砕けろ」精神も大事

 医師はそんなに意地悪で怖い人ばかりではありません。たとえ怒鳴られたとしても、あなた個人を嫌っているわけではないということを覚えておいてほしいと思います。患者さんの命を預かり、真剣に医療に向き合うからこそ、間違いが許されないからこそ、真剣に怒り、叱責するのです。薬剤師の覚悟とはそれほどのものなのか?と。叱ってくれる医師がいたら、むしろ忙しい中指導してくれることに感謝してもいいくらいです。知識を豊富に身に付けても、疑義照会で思っていることを医師に100%伝えるのは至難の技。自信をつけるには、知識だけでなく「当たって砕けろ」の度胸も必要です。
 スラスラと迷うことなく疑義照会できる先輩方も、慣れるまでは自信なんてかけらもなかったはず。まだまだ成長できる余白がたくさんあることをラッキーと思って、積極的に疑義照会に挑戦してほしいと思います。

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村尾 孝子
むらお たかこ

薬剤師、医療接遇コミュニケーション コンサルタント、健康講演・企業研修セミナー講師、株式会社スマイル・ガーデン代表取締役。明治薬科大学薬学部薬剤学科卒業、埼玉大学大学院経済学部経営管理者養成コース修了、病院・薬局・教育研修会社勤務を経て現職。

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