在宅医療で患者さんの生活の質も改善できる【在宅体験記Vol.4】
近年、在宅医療に関わる薬剤師が増え、「在宅」への興味が高まっている一方、実際の現場のようすや多職種との関わりがわからないという不安の声も聞かれます。
本企画「はじめての在宅体験記」では、在宅医療に携わっている薬剤師の方に、苦労した点ややりがい、薬剤師に求められる役割について伺いました。
第四回は、きらり薬局 横浜日吉店の鈴木周さんです。30歳という若さながらも、2015年から在宅医療に関わり、経験も豊富です。鈴木さんが在宅医療を通して伝えたいことを聞いてみます。
「これからは在宅医療が薬剤師のスキルとして必要」と思った
最初に薬剤師を目指したキッカケを教えてください。
鈴木大学受験をした当初は、明確に薬剤師を目指していたわけではなく、医療に関わる仕事ができればと考えていました。その後、薬局実習を経験して、薬剤師が地域の重要なプレイヤーとして活躍している姿を見て、職業にすることを決めました。
その薬剤師の中でも、在宅医療を選ばれたんですね。
鈴木そうですね。これからは在宅医療に携わることが薬剤師のスキルとして必要だと思ったことがキッカケです。前職でも、在宅医療をメインでやっている薬局に勤めていました。全国どこに住んでいても在宅患者さんが高いレベルのサービスを受けることができたらいいなと考え、2019年、その思いが実現できそうな現在の職場に転職しました。
現在はどのように業務を進めていますか?
鈴木担当する患者さんは、在宅、施設の方を含めて約50名です。朝9時に出勤し、午前中は訪問医の往診に同行します。昼頃薬局へ戻り、午前の往診で処方された当日配達の薬を準備し、午後に配達します。その後再び薬局に戻り、夕方以降は外来の投薬も担当します。
また、多職種との担当者会議への参加や地域住民への薬の講演といった業務も入ることがあります。
主な担当患者さん
80代男性 | 認知症 独居 |
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80代男性 | 脳梗塞 息子様と二人暮らし |
80代女性 | 糖尿病 独居 |
80代女性 | 末期がん 施設入居 |
80代男性 | 肺水腫 独居 |
患者さんの生活を薬以外の方法でも支える
かなり忙しい毎日ですね。在宅医療に従事する前の印象と経験してからは変化がありましたか?
鈴木はい。在宅医療を始める前は、患者さんひとりひとりの投薬の、日付まで管理できるのか不安でした。それに、在宅患者さんのご自宅にうかがうことに心配もありました。家の中はどんな状態だろう、大変そうだな、と想像していました。
在宅医療の業務に入ってみると、患者さんの投薬管理は、わかりやすく情報が共有されていて、自分ひとりで責任を持つことはなく、薬局内の全員で協力して対応していました。
患者さんのご自宅に訪問すると、生活の質を目の当たりにしました。心配していたような、家事ができないほど状態が良くない方もいます。そうした方は、服薬管理も難しいことが多く、薬剤師として「なんとかしないと」という使命感が芽生えます。服薬指導や服薬管理だけでなく、他職種と協力して、生活の質を改善することも自身のできることだと感じました。
初めて患者さんを訪問したときはどうでしたか?
鈴木独居の重度の認知症患者の方を先輩薬剤師と訪問し、血圧の測定、体調と服薬の確認、生活変化の質問などを行いました。
最初、患者さんは1週間前に訪問したことも覚えていないような状態で、今後どう関わっていいか悩みました。そこで、ご家族と相談し、服薬管理以外にも、日常生活の変化も観察することになりました。患者さんの生活を薬以外で支えることの大事さを学びましたね。
異変に気付いて多職種へ共有。チーム医療で患者さんの生活を支援
在宅医療はチーム医療ともいわれますが、現場で多職種と関わることはありますか?
鈴木薬の処方内容について提案があるときは医師に報告します。また、訪問看護師やケアマネジャーとは、生活上の問題が見受けられたときに相談します。
多職種との関わりで、印象に残っているエピソードはありますか?
鈴木夫婦ともに在宅患者で奥さんが精神疾患、旦那さんは栄養失調という方がいました。気になって調べてみると、旦那さんの栄養失調の原因は奥さんが部屋に閉じ込めて監禁することにありました。奥さんは、自分が作った料理を夫が食べないと無理やり口に押し込んだり、逆にまったくなにもあげなかったり。こうした行為が常習化しており、このままでは事件になると思いケアマネジャーと連絡を取りどうすべきか話し合いました。
そして、地域包括センターのスタッフと一緒に会議を行ない、各職種でどういった関わり方をしていくかを決定しました。薬剤師としては、医師に奥さんの薬について相談し、効果が出やすい薬への変更を提案しました。その結果、次第に奥さんの精神状態は落ち着きを取り戻し、暴力的な行為が減っていきました。
今でも、そのときに関わった地域包括センターの方から講演の依頼をいただくなど、関係を持ち続けています。
かなり大変な現場も経験してらっしゃるんですね。鈴木さんは、在宅医療で辛さを感じることはありますか?
鈴木そうですね。輸液や栄養剤をエレベーターのないお宅まで運ぶときは体力的に辛いです(笑)。ご高齢の方が住むところはそういった場所も少なくないので真夏は汗だくになりますが、いいトレーニングだと自分に言い聞かせて頑張っています。
在宅医療の現場で薬剤師に求められていることはなんでしょうか?
鈴木薬剤師として自分から発信する力だと思います。薬剤師の視点で服薬上の問題点が見受けられた場合に、関係する医師、訪問看護師、ケアマネなどにどういった情報を提供すれば患者さんを支えることができるかを考えて、それを伝えなければいけません。
また薬剤師ということに縛られずその患者さんのケアにあたる一員として日常生活を送るのに必要だと思えば積極的に多職種に関わっていく姿勢も必要です。
鈴木さん自身、今後はどのようになっていきたいですか?
鈴木これからの時代を考えると、高齢化が一層進み、在宅患者が増えていき、薬局が対応できるキャパシティを超えてしまうかもしれません。そうなると、本来行うべき薬剤師の強みを生かした在宅の対応ができなくなる恐れがあります。
多くの在宅患者を受け持っても無理がなく、働いている人も疲弊しないような仕組みやシステムを構築し、これからもっと広めていきたいと考えています。
これから在宅医療に関わる薬剤師にアドバイスをお願いします。
鈴木最初は今までやっていない業務や他職種との情報共有などに不安を覚えてしまうこともあるかと思いますが、患者さんの治療のためにもう一歩踏み込んでいってほしいです。きっと患者さんから「ここまでしてくれてありがとう」と感謝の気持ちをもらえますし、薬剤師としても照準の合った濃い提案ができると思います。
最後に、鈴木さんにとって、在宅医療のやりがいはどこですか?
鈴木在宅は、患者さんの生活の場に踏み込んでいく業務になります。それゆえ、自分の活動でその人の日常生活や人生を変えることができます。その点が、やりがいですね。なにか細かいことでも患者さんの負担を減らして感謝の言葉をもらえたときはモチベーションが上がり、さらになにか貢献できることはないかいろいろ考えてしまいます。
インタビューを終えて
患者さんの生活の質を向上されることにやりがいを感じている鈴木さん。在宅医療の経験も豊富で、現場の視点からの将来の在宅医療の人手不足の問題、システム構築についても考えさせられました。
鈴木 周30歳
きらり薬局 横浜日吉店勤務(2019年4月入社)
2015年より在宅医療に従事し、2019年に現在の職場に転職。
「患者さんが全国どこに住んでいても、24時間365日安心して療養できる社会インフラを作りたい」という思いで仕事に取り組んでいる。